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地域医療の危機:揺れる県立病院再編案/5止 奮闘する葛巻 /岩手

 ◇町が切り盛り78床 公立でも黒字経営

 「これまで通り医師を派遣していただけるということでした」。葛巻町立国保葛巻病院の鳩岡修事務局長は、出張先の盛岡市からホッとした表情で帰ってきた。同病院は常勤医2人と医師3人の診療応援を得て78病床を切り盛りしている。岩手医大から派遣されている医師が近く定年を迎えるので、引き続き診療応援を要請してきたのだった。

 同病院は県立病院のある自治体とは異なり、町自身が経営し、医師確保にも汗を流さなくてはならない。医師の診療応援を担当する県立中央病院地域医療支援部長の望月泉副院長は「葛巻町長からは幾度も依頼を受けたが、(紫波地域診療センターのある)紫波町長は顔を見たこともない。県にお任せだったのでは」と温度差を語る。

 葛巻病院は01年度に不良債権額が約2億2700万円まで膨れ上がり、5年間の病院事業経営健全化計画を策定。母子センター休止▽給食、ボイラーなどの外部委託▽薬の院外処方▽退職後の不補充による職員削減--などを実行し、06年度までに不良債権を解消した。鳩岡事務局長は「可能な限りコストは下げた。ほとんど策は残っていない」と話す。

 また事務の電子化を進め、複数の診療科を利用する患者のカルテを一本化。延べ患者数を抑えることで、1日の平均患者数を基準より引き下げ、交付税算定上の「不採算地区」にした。これで年間5000万円程度の地方交付税を積み増したという。

 このような努力もあり収支は改善。医業収益に対する人件費の割合は07年度70%に抑え、自治体病院の目安6割に近づけた。町の一般会計から繰り入れた後の純損益も、05年度からの3年間は年638万~3720万円とわずかだが、黒字を計上した。

 しかし、病床稼働率は同じ3年間で77・5%から59・5%に減少。一般病床の1人あたり平均在院日数も25・9日(06年)と、県医療局の平均16・6日(同、療養病床含む)に比べ回転率が悪く、経営上好ましい数字ではない。「高度専門医療の病院から患者を紹介されることはあっても、ここから紹介できるところはない」(鳩岡事務局長)。効率が良くなくても、長期療養をする町内の老人にもベッドを用意しなくてはならない、という考えだ。

 さらに、薬は長期の投与分を処方。処方するだけの患者や1人あたりの通院回数を増やした方が収入は伸びるが、それでは医師の事務量が増え、医師確保につながらないのだという。

    □

 一方、県医療局の新経営計画案。07年度98・8%だった経常収支比率は13年度に101・6%に、病床稼働率は79・1%から84・1%に伸ばすなど、経営改善に向けた数値目標が躍る。

 無床化後の施設活用について、岩渕良昭・保健福祉部長は今月3日、県議会の一般質問に「民間移管は可能だ」と答弁するなど、早くも計画策定後の運営形態に注目が集まりつつある。鳩岡事務局長は民間移管やサービスカットの前に公立でもできることはあると語る。「町が他の事業と医療、どちらを優先するのか。病院も町づくりの一つ。町が行うことで自由度はあるし、町民の誇りにもなったんじゃないかな」【山口圭一】=おわり

毎日新聞 2008年12月8日 地方版

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