ノンフィクション作家の柳田邦男さんは「大人こそ絵本を読もう」と唱え続ける。子どもたちの心の成長のためには親が心に潤いを取り戻さなければ(新潮文庫「壊れる日本人 再生編」)、というわけだ。
中年世代の童心を呼び覚ましてくれそうな絵本の原画展を、淳風会健康管理センター(岡山市大供)のギャラリーで見た。布貼(は)り絵という、布を使った独特のコラージュ手法で描いた倉敷市在住の藤田桜さんの作品世界だ。
学習研究社が園児向けの月刊絵本「よいこのくに」を創刊したのは一九五二年。その表紙絵を約四十年間担当した。会場にはローマ在住中の六〇年代に制作した「おはなし絵本」などの中から原画百六点が、当時の絵本とともに並ぶ。
布の色や柄、風合いを生かした色彩感覚がみずみずしい。デッサンもしないで手とはさみを動かして仕上げる造形の妙。表情豊かな人物表現、遊び心あふれる小動物のしぐさなど、子どもの心をとらえる要素が詰まっている。
「子どもたちに喜んでもらいたい。その一心で優しさ、温かさを込めた」と当時を思い起こす藤田さん。原画を見れば、絵本の世界の魅力はより深まってくる。
心がすさむ事件が多い昨今。乾いた心に潤いを与える絵本の力を見直したい。同展は二十七日まで(日曜休み)。