婚姻関係にない日本人男性と外国人女性の間に生まれた子について、父親が認知すれば日本国籍が取得できるようにする改正国籍法が成立した。該当する子どもたちには、待ちに待った朗報である。
法改正のきっかけは、今年六月の最高裁判決だ。未婚の日本人男性とフィリピン人女性との間に生まれた後に認知された子どもたち十人が日本国籍を求めた二件の訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は出生後の国籍取得に両親の婚姻を要件とした国籍法の規定を「法の下の平等」を定めた憲法に反するとし、原告全員に日本国籍を認める初判断を下した。
母親が日本人の場合や、出生前に父親が認知(胎児認知)すれば、婚姻の有無にかかわらず国籍が得られるのと比べ不合理な差別を受けているとした。日本国籍がなければ警察官など一部の公職には就けず、選挙権もない。原告の中には、父親が同じなのに胎児認知された妹と国籍が違う子もいた。割り切れない思いと将来への不安はさぞ大きかったことだろう。
婚外子の増加など家族観や形態の多様化という現実に即して積極的に子の救済を図った画期的な判決だ。改正法の成立によって、原告と同じ境遇の多くの子どもたちに国籍取得の扉が開き、人生の可能性が大きく広がる。
だが、一方で難題も生じてきた。うその認知で国籍を不正取得する「偽装認知」である。母親が自ら日本で働きたいために父親とは別の日本人男性に依頼して虚偽の認知をさせることへの懸念が指摘される。悪徳ブローカーの介在で「闇のビジネス」も横行しかねないという。
こうした事態を防ぐため、改正法には虚偽の届け出をした者には、一年以下の懲役か二十万円以下の罰金を科す規定を設けた。これに対し、一部与野党議員から不十分とする意見が示され、DNA鑑定の導入を強く求める声も出された。改正法案は自民、民主両党が今国会での成立へ向けた審議の促進で協力していたが、採決がずれ込む要因となった。両党が調整した結果、付帯決議に「DNA鑑定の導入の当否を検討する」「父親への聞き取り調査など審査の厳格化」といった項目を盛り込んだ。
偽装認知などが横行すれば、せっかく開いた国籍取得の扉を狭めかねない。子どもが不正な行為や犯罪に利用される事態は何としても避けたい。親の事情で正当な権利が行使できない子の救済を図るという最高裁判決の意義を踏まえたきめ細かな運用を求めたい。
中央省庁の幹部人事を一元管理する「内閣人事局」について政府は目標としていた二〇〇九年度中の設置を見送り、一〇年四月とすることを決めた。
関係省庁との調整が遅れ、来年度の予算編成に間に合わないためだ。内閣人事局は国家公務員制度改革の中核であり、延期による改革全体への影響を懸念する声がある。だが、内閣人事局の中身は十分煮詰まっていなかった。見送りを区切りに、実効性を確信できる組織づくりに取り組むべきであろう。
今後五年間の霞が関改革の道筋を示した国家公務員制度改革基本法が六月に成立したのを受け、人事局設置に向けた作業が本格化した。人事局は内閣官房に置かれ、事務次官や局長など幹部人事に関する独自情報を官房長官に提供して人事を行う。人事原案は各省庁がつくるとしていた当初の政府案に比べ「官邸主導」の形になった。
政府の有識者会議が規模や人員構成など具体案を検討する役割を担ったものの、人事権を守ろうとする省庁側の抵抗は強かった。加えて、福田政権から麻生政権への交代のあおりを受けて作業が停滞し、本格検討に入ったのは十月中旬だった。
実質的な人事名簿を省庁が作る形にするなど、拙速さが骨抜きにつながると危ぶむ意見もあった。「国益より省益」といわれる縦割りを打破し、真に国民に顔を向けた行政を実現するのが公務員制度改革の目的だ。時間的余裕を生かし、要として十分な権限、機能を備えた内閣人事局としなければならない。
省庁を説き伏せるのは政治家の役割だが、政界には利益誘導などのため官僚との関係は従来通りの方が好都合といった空気も感じないではない。政治家の官僚に対する姿勢も考え直してみる必要があろう。
(2008年12月7日掲載)