元麻布春男の週刊PCホットライン

第2世代のネットブック「Eee PC S101」を試す




●今年のヒット商品は、ネットブックとSSD

Eee PC S101の製品発表会に来日したASUSTekのジェリー・シェンCEO

 そろそろ年末も近づき、今年のベストセラー商品的な企画が目に付きだしてきた。後半から急に不況風が強まった今年、PC分野のヒット商品と言えば、低価格ミニノートPC(ネットブック)とSSDで決まりだろう。

 なかでも、低価格ミニノートPCの代表格であるNetbookは、イー・モバイルの回線とのセット販売で売上げを伸ばした。おかげでイー・モバイルも新規契約純増数で2位へと躍進、11月末で契約数が100万件を突破したというから、Netbookベンダとイー・モバイルはまさにWin-Winの関係を構築したことになる。このような回線とNetbookのバンドルはヨーロッパでもヒットしているというから、どこも事情は同じのようだ。

 Intel製のAtomプロセッサを搭載したNetbookの市場醸成に最も功績のあったPCベンダといえば、間違いなくASUSTek Computerだろう。2007年10月(わが国では2008年1月)に発表した初代Eee PC(Eee PC 4G-X)が、この市場を作り上げたといっても過言ではない。それから1年と経たないうちに、わが国で売られるノートPCの4台に1台が、このジャンルの低価格ミニノートPCになるまでに成長した。

 ただし、このような成功を、プロセッサの製造元であるIntelが予見していたかというと、ちょっと違うようだ。11月18日に開催されたRaymond James IT Supply Chain Conferenceで、IntelのSales & Marketing GroupのStu Pann副社長がQ&Aセッションで答えたコメントによると、どうやらIntelは自身が言うところの「Netbook」を、一義的には新興国および児童向けのプラットフォームだと想定していた。Netbookのバッテリ駆動時間が短かったり、液晶の解像度が1,024×600ドットどまりだったりするのも、この想定をベースにした線引きなのかもしれない。Pann副社長は、Netbookの小さなスクリーンは、1時間使うには十分かもしれないが、1日使うには辛いのではないか、とも述べている。ところが実際には、Netbookの大半が先進国で、モバイル用のセカンドマシンとして売れており、IntelとしてもNetbookについて再考しているところだという。

 そういう話を聞いていると、Eee PCにも2種類がありそうなことに気づく。初代のEee PC 4G-Xをはじめ、701、900、901、1000といった型番が数字で始まるシリーズは、Intelが当初想定していたNetbookに近い路線だ。これに対してGPUを搭載したN10J/N10Jcや、リチウムポリマー電池で薄型化を図ったS101は、先進国市場のセカンドマシン狙い的なシステムだと思う。価格的にもちょっと高いが、その分の付加価値はある。


●第2世代のEee PC「S101」

 というわけで、Eee PC S101を編集部から借用してしばらく使ってみた。届いたパッケージを見て驚いたのは、箱が一般的な段ボール箱ではなく、ASUSTekがギフトボックスと呼ぶ巨大で真っ黒な箱に入っていたことだ。中には本体、バッテリ、ACアダプタ、マニュアルおよびリカバリDVDに加え、専用キャリングケースとACアダプターとACケーブル用のポーチが収められている。

Eee PC S101全景 筐体が大型化したことで、キーボードには余裕ができた。タッチパッドはキーボードの中心に対して右寄り ヒンジ部に埋め込まれたスワロフスキー製のクリスタル
Eee PC S101が収められた箱(ギフトボックス)。かなり大きい ギフトボックスと本体 専用ケースとS101

 付属のキャリングケースはなかなか立派なものだが、立派すぎてS101の薄さが損なわれるようにも思う。またマニュアルとリカバリDVDは、1つのパッケージとして箱にクリーニングクロスといっしょに収められているが、このあたりのパッケージングは、Apple製品を連想させる(ASUSTekはAppleの生産委託先の1つと言われている)。ACアダプタはEee PC 901シリーズ等で使われているものの色違いで、2穴のケーブルを用いた極めてコンパクトなもの。付属のACケーブルと合わせても217g(実測値)と軽量だ。

 本体も、4,900mAhのリチウムポリマー電池を含めても1,095g(実測値)と、こちらも軽量。10.2型液晶を採用したため、Eee PC 900/901に比べると一回り底面積が大きくなっているが、厚みが減っている(18〜25mm)ため、Eee PC 1000シリーズほど大きくなったという印象は受けない。

 S101の特徴の1つは、外装がグラファイト、ブラウン、シャンパンの3色から選べることだ。筆者の手元に届いたのはシャンパンだが、派手すぎず落ち着いた色で、好印象を受けた。握った後に指紋の跡が気にならない点も好ましい。液晶ディスプレイを開いたパームレスト部もヘアラインの入ったシャンパンカラーで高級感がある。

 このパームレストが熱くならないのが、S101のウリの1つだ。一般的なNetbookでは、本体後部にバッテリを収める関係で、比較的手前側に主要パーツがある。が、本機の場合、パームレストの下はリチウムポリマー電池で、CPUやチップセットが本体後部側に寄せられている。そのせいもあって、パームレストが熱くならないようだ。冷却ファンの排気口も背面にあるため、ユーザーに手に熱風が吹き寄せたり、ファンの音が気になったり、ということも起こりにくい(本機のノイズレベルは、木の葉が擦れるのと同程度の25dBAとされる)。

 バッテリをパームレスト下に収めたことのデメリットは、各種ポート類の一部が本体サイド部に収まらず、背面に回ってしまったことだ。VGA(ミニD-Sub 15ピン)、LAN、ACジャック、ケンジントンロックはまだしも、4in1カードリーダー(SD/SDHC/MS-Pro/MMC)が背面になったのは使いにくいように思う。本体左右に配置されているI/Oポートは、USBポート×2(左側面)と、USBポートおよびヘッドホン/マイクジャック(右側面)となる。

バッテリを前面に移したこともあり、背面にI/Oポート等が並ぶ ヒンジ下というカードスロットの位置は珍しい 付属のACアダプタ、ACケーブル、ポーチ

 さてパームレストの上にあるキーボードだが、Eee PC 900/901より一回り大きくなっており、タイピングは格段に楽になった。が、大きくなったサイズを十分に生かしているかというと、少し疑問が残る。筆者が使っているAspire oneに比べて、S101は幅が264mmと15mmほど大きい。この15mmの余裕の大半が、左端の列にあるTab、CapsLock、Shift、Ctrlといった特殊キーの大型化に割かれており、日常的なタイピングの利便性に直結していない。Aspire oneに比べてタイピングしにくいということはないのだが、せっかくの余裕を生かし切れずにもったいないと思う。

タッチパッドのドライバとして、マルチタッチをサポートしたElantechのスマートパッドが添付される

 一方、パームレスト中央を占めるタッチパッドだが、パームレストの物理中央にあり、キーボードの中心からはオフセットしている。筆者は左手の指がパッドに触れにくいという利便性もあることからあまり気にならないが、パッドがキーボードセンターと揃っていて欲しいという人は注意だ。パッドのドライバとして組み込まれているのはElantech製のスマートパッドで、2本指のスクロールやピンチによる縮小などのジェスチャをサポートした、マルチタッチ対応のものである。


●MLCだが高速なSSD

 さて、内部スペック上で差別化が図りにくいNetbookで、スペック上唯一、大きく分かれるのはストレージデバイスの選択だ。ストレージデバイスの選択肢としてはSSDとHDDの2種があるが、ULCPCの規定によりSSDなら16GBまで、HDDなら160GBまでとなっている。これは技術的な制約ではなく、安価にWindows XP Home Editionをライセンスしてもらうための、Microsoftによる「縛り」である。

 ストレージデバイスにSSDを採用したS101もこの制約の範疇に収めるため、容量は16GBとなっている。台湾のサイトを調べると、32GBと64GBもオプションとして用意されているのだが、いずれもLinuxモデルとなっている。わざわざ劣ったプラットフォームにしか適用できないようにするOSのライセンススキームというのも、どうかと思う。

 さて、その16GBのSSDだが、MLC NANDフラッシュを用いたものだ。Eee PC 901では高速なSLC NANDと低速なMLC NANDを使い分け2ドライブ構成になっていたが、S101はMLCに一本化されたことで、かえって使いやすくなっている。空き容量は、工場出荷時で11.3GB。OSに加え「StarSuite 8」や「WinDVD 5」、「Adobe Reader」なども含めての数字なので悪くない。アプリケーションをガンガンインストールしたり、メディアファイルを持ち歩くという使い方には向かないが、一般の使い方であれば、Cドライブの残量にビクビクしなくても済むのではないだろうか。

 MLC NANDフラッシュというと性能が懸念されるわけだが、S101では新しいコントローラチップを採用、複数チャンネルの読み出し/書き込みを実現することで、大幅な高速化を図った。現状で、Netbookに使われているSSDとしては、最も高速なものと言って間違いない。むしろ、コントローラチップの古い、旧世代のSLC NANDフラッシュSSDより本機の方が高速だろう。

 この高速化したSSDを生かすため、本機のBIOSにはBootBoosterと呼ばれる機能が備えられているという。BootBoosterと高速なSSDの組合せをASUSTekではXpressPathと呼んでおり、Windows XPを17.8秒で起動するとしている。確かに、そのくらいの時間でシステムは起動しているようだ。

 これで面白いのは、ExpressPathを構成する要素の1つがBIOSであるということだ。筆者の手元のS101は、最初BIOSのVersionが0502だったのだが、11月26日付けの0602にアップデートしたところ、体感的にアプリケーションの起動が速くなったように感じた。たとえば秀丸くらいの(あまり大きくない)アプリケーションだと、瞬時に立ち上がるというイメージだ。こうなると、SSDがもっと大容量ならなお良いのに、と思ってしまう。

Eee PC S101に付属するBluetoothスタックはWIDCOMM製

 その他の機能としては、無線関係が充実していることを挙げておきたい。無線LANでは2.4GHz帯のみであるもののIEEE 802.11nをサポートしているし、Bluetooth 2.0のサポートもある。BluetoothスタックとしてはWIDCOMM製が付属しており、A2DPも利用可能だ。

 というわけでEee PC S101だが、外観、中身とも、SSDベースのNetbookとしては、現時点で最も充実した1台ではないかと思う。価格が競合、あるいは同じ10型級の液晶を採用したEee PC 1000より15,000円程度高いが、薄型軽量でカバンに収めやすい点に価値を見いだせるのであれば、十分納得のいく買い物だと思う。むしろ最大の分かれ道はやはり小容量のSSDか、大容量のHDDか、という点で、こればかりはユーザーの利用モデルに依存するので何とも言えない。11.3GB空いていれば、セカンドマシンなら十分、と考える人も少なくないだろうし、そうしたユーザーになら勧めやすい1台だ。


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【11月14日】ASUSTeK「Eee PC S101」製品版詳細レビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1114/asus.htm
【11月12日】ASUSTeK「Eee PC S101」製品版ファーストインプレッション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1112/asus.htm
ネットブック/UMPCリンク集(ASUSTeK)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/umpc.htm#asus

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(2008年12月8日)

[Reported by 元麻布春男]

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