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クローズアップ2008:改正国籍法 懸念・希望、なお交錯

 結婚していない日本人父と外国人母の間に生まれた子供も父の認知があれば日本国籍が取得できる改正国籍法が5日の参院本会議で成立したことで、日本国籍を求めてきた母子たちに「やっと日本人と認められる」との喜びが広がった。しかし、日本人男性がうその認知をする「偽装認知」の懸念が早くも国内外にも起きている。罪のない子供が法改正による新たな犯罪に巻き込まれないよう、法務当局には厳格な運用が求められている。

 ◇認知で広がる子供の夢

 改正のきっかけになったのは、未婚の日本人父とフィリピン人母の間に生まれた子供10人が日本国籍を求めた訴訟で、最高裁大法廷が今年6月、「婚姻を要件と定めた規定は差別」と判断し、国籍を認めたことだった。

 訴訟の原告の一人で、東海地方に住む小学5年の真美さん(11)は、最高裁判決後に日本国籍を得た。それまで、名前は外国人登録証にあるアルファベットの名前を片仮名読みした「マサミ」と表現されることが多かった。今、空手を習いながら、日本国籍でないと就職できない警察官を夢見ている。

 88年、フィリピン人の母ロサーナさん(44)は興行で来日。日本人男性と仕事を通じて知り合い、女の子を出産した。男性と結婚はできなかったが、1年後に認知を得た。

 真美さんは小学2年の時、自身が日本国籍ではないことを知った。妹の小学1年、直美さん(7)は、生まれる前に男性から認知を受けたため、日本国籍だ。同じ血を分けた姉妹ながら、国籍が異なる結果を生んだ。ロサーナさんは「私のために、子供につらい思いをさせてきた」と話す。

 法務省によると、日本国籍がなければ戸籍を作ることができず、外国籍なら外国人登録証を持つ。国政選挙の選挙権・被選挙権が得られないほか、警察官など一部の公務職にも就けない。弁護団の近藤博徳弁護士は「社会保障はある程度受けられるようになったが、国籍がなければ国民の権利はない」と指摘する。【石川淳一】

 ◇偽装ブローカー助長も

 フィリピンには、日本人男性とフィリピン人女性の間に生まれながら、父親の養育拒否などで貧しい暮らしを余儀なくされている子供が数万人いるといわれる。「新日系人」と呼ばれるこのような子供の身元確認などを支援するため、2006年、現地在住日本人らが支援団体「新日系人ネットワーク(SNN)」(本部セブ島)を設立した。

 セブ島在住の岡昭理事長(81)は、改正国籍法の成立を「大きな前進」と評価する。同ネットワークに登録する新日系人は約800人。うち半分は両親の結婚記録がないか不完全な記録しかない子供たちだからだ。

 しかし、岡理事長は法悪用を狙う悪徳ブローカーが早くも動き出したのではないかと憂慮している。「地元テレビに『日本人の父親を捜している人はいませんか』というテロップが流れるのを見た。誰がどんな目的で流しているのか分からない」

 経済不振が続くフィリピンでは高い教育やコネがなければまともな職にありつくことはできない。子供を抱えた母親たちは何とか日本に入国し働く機会を得ようと必死だ。子供の日本国籍取得さえかなえば、母親も日本滞在ビザ取得が容易になる。岡理事長は「政府認定の支援団体が直接、母子の話を聞いたうえで認知手続きを進めるなどの配慮が不可欠だ」と、日本のきめ細やかな対応に期待している。【大澤文護】

 ◇確認強化、通達で対応

 国会審議でも「偽装認知」の懸念から、参院本会議の採決直前まで修正を模索する動きが出るなど揺れ続け、新党日本の田中康夫代表と国民新党の4議員など計9人が反対に回った。

 「DNA鑑定制度導入と父親の扶養義務がなければ、偽装認知を奨励することになる」

 田中氏は修正提案に必要な10人を集めるのに奔走したが、民主党執行部の締め付けで実現しなかった。

 自民党内にも「欧米に比べて日本は非嫡出子が少なく、判決が前提とする大きな社会変化は認められない」との考えは根強く、3人が採決を棄権した。ただ、衆院解散含みの政局だったこともあり、自民、民主両党が11月12日には成立で合意。慎重論が台頭したのも同月18日の衆院通過の直前で、こうした動きは、大きなうねりにはならなかった。

 しかし、こうした懸念を受け、参院法務委員会は認知した父への聞き取りや父と子が一緒に写った写真の提出、父母の出入国記録の調査などを求める付帯決議をし、法務省は通達などで対応することになった。【山田夢留、小山由宇】

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 ■ことば

 ◇偽装結婚と偽装認知

 警察庁に報告があった、日本人と外国人による偽装結婚の検挙件数は過去5年で173件。女性が日本で働くために無関係な男性と婚姻届を出した例が多い。「偽装認知」は少なく3件。07年8月、新潟県内でうその出生届を市役所に出したペルー人女と無職男が逮捕されたケースなどがある。

毎日新聞 2008年12月6日 東京朝刊

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