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読む政治:解散権封じられた首相 政策より政権維持(その2止)

 ◇財務省幹部「出せと言われれば出せる」

 ◇渡辺元行革相「解散も政策も先送りか」

 ◇伊吹元幹事長「民主に批判は行かない」

 <1面からつづく>

 08年度第2次補正予算案は、麻生太郎首相が10月30日の記者会見で「100年に1度の暴風雨」に対する「国民生活の安全保障」と大見えを切って発表した追加の経済対策を具体化させるものだ。

 首相は就任直後の9月30日に早くも2次補正の必要性を明言。首相官邸を訪れた日本経団連の御手洗冨士夫会長に「(1次)補正はリーマン・ブラザーズやAIGの問題が起きる前に作った。次の手を考えたい」と述べたのがそれだ。解散戦略の見直しであると同時に、米国発の金融危機が日本の実体経済に深刻な影響を及ぼすとの認識に基づいていた。

 10月9日には自民党の保利耕輔、公明党の山口那津男両政調会長を官邸に呼び、追加経済対策をまとめるよう指示。13日には、G7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)から帰国した中川昭一財務・金融担当相に金融機能強化法の復活などを指示した。これを受け、財務省は同月中旬には2次補正の編成作業に取り掛かっていた。

 2次補正の臨時国会提出を見送る理由として、政府・与党は、法人税収の減額補正の確定が間に合わないことや予算書印刷に時間がかかることを挙げていた。しかし、財務省幹部は「2次補正を今国会中に出せと言われれば、出せる」と言う。

   ■  ■

 真の理由は国会対策と政局判断にある。

 「(首相は)政局より政策だと解散もしなかったわけだ。ここにきて政策も先送りするのか。そんなバカなことはない」

 21日午後、国会内で河村建夫官房長官に2次補正の提出要望書を手渡した渡辺喜美元行革担当相は記者団に息巻いた。申し入れには塩崎恭久元官房長官、茂木敏充前金融担当相らも同席。要望書は中堅・若手の国会議員24人の連名だった。

 その直後、自民党の伊吹文明元幹事長は国会周辺の歩道で渡辺氏を見かけると、「あまり暴れちゃだめだぞ」と声をかけた。「予算関連法案は(成立に)60日かかるんですよ。臨時国会で成立せずに継続になって、通常国会で否決されたら一事不再議でもう出せなくなるんだから」

 民主党の挑発に乗って2次補正を提出したら、結局は審議先延ばしにされて、予算執行の裏づけとなる関連法案が廃案になりかねないというのが、伊吹氏の見方だった。

 「いや、その時は国民の批判は民主党に行きますよ」と反論する渡辺氏に、伊吹氏はこうたしなめた。「福田政権の時に小沢民主党は合意を何もかも破った。今、首相は漢字が読めないなんて言われている時に民主党に批判は行かないよ」

 2次補正をめぐって、政策より政権維持という自民党の姿勢があらわになってきた。

 ◇小沢氏「2次補正が大義」

 麻生・小沢会談に先立つ17日午前、民主党の小沢一郎代表は幹部4人を前に断言した。「2次補正の一点しかないよ、国民に信を問うには。2次補正が大義だ」。国会戦術をめぐって菅直人代表代行と輿石東参院議員会長が1時間近くにわたって戦わせた議論を引き取る形だった。

 急転直下決まった小沢氏の方針は、麻生首相が訪米中、景気対策を理由に衆院解散を来春以降に先送りする意向を示唆した発言に端を発する。小沢氏は「景気対策がそんなに大事なら今出せばいい」と首相を非難。党幹部は「首相が今国会は楽勝で終われるかのような発言をしたので小沢さんのスイッチが入った」と話す。

 2次補正に盛り込まれる政策の柱は、首相が年度内実施を目指す定額給付金と金融機能強化法改正案の公的資金枠(政府保証枠)の拡充。さらに、給付金の財源となる「埋蔵金」取り崩しのための特別会計法の改正か、財源確保法などの特例法案が予算関連法案として必要になる。通常国会に先送りしたとしても、09年度本予算を含めて3月末までに執行可能にするのは極めて困難とみられている。

 麻生内閣の支持率が低迷するなか、中堅・若手の申し入れには次期衆院選に向けた強い危機感がある。首相に近い幹部ですら「このまま行ったら来年9月の任期満了まで行きかねない。おれは1月に2次補正を抱えて(争点に)選挙しないと、もう選挙のタイミングはないと思う」と不安を口にする。

 早期解散を求めてきた公明党は、なお1月の衆院解散をにらんで準備を進めており、解散時期をめぐって与党内の歩調が乱れる可能性がある。公明党幹部は政権立て直しに向けて「(国会対策の経験が長い)大島理森国対委員長みたいな人が官邸に入らないといけない」と指摘。衆院解散の選択肢が狭まるなか、与党内には首相の人事カードにも介入する空気が芽生えつつある。

   ◇  ◇

 中村篤志、中田卓二、田所柳子、白戸圭一、佐藤丈一が担当しました。

毎日新聞 2008年11月23日 東京朝刊

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