Britty aka User:Aphaia の ウィキメディアプロジェクト回遊日誌
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百科事典であるウィキペディアをはじめ、ウィキメディア・プロジェクトのほとんどにとって根幹をなすのは、信頼性のある文字コンテンツを、フリーライセンスで(=再配布可能性を確保しつつ)提供できるように努めることであって、フェアユースは「フリーライセンスでない」という一点において、プロジェクトの根本方針とは実は矛盾する。……と私は考えています。なので、画像に関しては、フェアユースが可能な場合でも、あんまり積極的に取り込んでいこうとは思わない。一方、テキストのフェアユースは、論拠が示せないなど、ないと困る場面が多いと感じるので、逆に積極的に活用するがよいと思っています。
ウィキメディアプロジェクトの運営団体であるウィキメディア財団はアメリカ合衆国に本拠地があり、サーバも基本的にはアメリカ国内にあるのだが、だからといって米連邦法(とフロリダ州法)だけ守っていればよい、とは財団理事会の中の人も考えていない。利用者や行為者がいるところの法律にも配慮することが方針となっている。そんな経緯で先月導入された「ライセンスに関する方針」(Licensing policy、*1)は、「米国法および大多数の利用者の居住地に適応される法体系」が許す枠内で、個々のプロジェクトごとに策定することが求められている。フェアユースを利用しようとおもえば、この「ライセンスに関する方針」をまず策定する必要がある。猶予期間は1年間。
ここで注目したいのは、たとえ居住地の法律が許容している場合でも、明文の方針がない場合にはいまから1年後にはファアユースが使えなくなる、ということである。というわけで、いままでフェアユースで画像などを使っていたプロジェクトでは、それぞれ方針を策定している。私が仄聞しているところでは、中国語版ウィキペディア*2やアラビア語ウィキペディア*3では、ただいま方針策定中らしい。
反対に、準拠法の関係で、プロジェクトとしてファアユースを使わないことを改めて確認するところもある。代表的なところではドイツ語の各プロジェクト。日本語版プロジェクトではめだった動きがないのだが、それは好意的に解釈すれば、禁止を確認する以上の効果がなくって、あまり儲かった気がしないからかもしれない。
朝鮮語版ウィキペディア (kowiki)で活躍される LERK さんのお話では、韓国には
「フェアユースが認められていないから、盛り上がらないんだ」
と主張する方がいるそうだが、そんな人にはドイツ語版の盛況ぶりを教えてあげたらいいのではないだろうか、と思わなくもない。なおフェアユースを許容する英語版ウィキペディアでも、「フェアユース画像を使うと、それにかわるフリーコンテンツが提供されなくなるおそれがあるのでプロジェクトの発展をかえってさまたげるのではないか」という問題提起がある。ただ、「フリー」という理念を共有していない人には、問題意識の共有は難しいかもしれません。そして、残念なことに、小さいプロジェクトでは、ひたすらページ数を増やすことにこだわり、それ以外のことに眼が行かない人もいるのは事実です。
なお、ここまで朝鮮語版の主な投稿者の居住地であろう大韓民国の著作権法には米国のフェアユースと互換な概念がないことを前提にしているきらいがありますが、あったとしても使わないという選択肢だってあります。コモンズを中心にフェアユース全面禁止をいう人もいるくらいです。同じ英語版でもウィキクォートでは、2006年の段階でフェアユース画像を全面禁止し、「画像はコモンズへ」を方針としています*4。引用集にとって画像は挿絵以上のものではないので、どうしても必要というわけではない、というのがそのときの世論でした。いまもそれは変わっていません。そして、これをやるとローカル側では管理者が画像のライセンスを確認するという作業から開放されるので、とても楽なんですよね。コモンズにいる人たちは、そもそもそれが大好きなのだし、人数も大抵のプロジェクトよりは多いので、お任せしてしまおう、という発想です。やっぱ餅は餅屋なのだ。
hyolee22007/04/26 19:41韓国語版のフェアユーズの話が出たので、一言。管理者選挙にまで影響が出ているようです。LERKさんが立候補したのだが、反対票が多くなったので理由を見て見ると、半分以上の票が「フェアユーズに反対しているので」ふざけるなと言いたい。
Britty2007/04/26 19:53反対がなんかやけに多いなと思ったら、それが理由ですか……。なかなか大変なようですね。
hyolee22007/04/26 19:56ちなみに韓国語版でフェアユース導入に関しては投票の結果否決されたことも言っておきます。大韓民国の著作権法でもフェアユースは認めていません。
Britty2007/04/26 20:01大韓民国の著作権法でフェアユースを認めていないなら、投票するまでもなく財団の方針により許可されないのですが……そのあたりから説明してさしあげたほうがいいのかもしれないですね。
PEW Internet / American Life Project というところの調査。
調査自体は Hitweise が行っている。調査対象は18歳以上のアメリカ人*1、今年の2月から3月に電話で2200人に聞き取り調査を行っている。2200人をサンプルとして、最終回答率は29.3%だそうである。
低学歴、低所得の人より、高学歴、高所得の人のほうが利用率が若干高いというのは面白いです。まあ、ウィキペディア上の情報は玉石混交なので、ある程度学術論文を読む訓練を受けてない人には、かえって毒使いづらいかもしれません。
また、教育系リファランスサイトの中では、ウィキペディアがもっともよくアクセスされるサイトなのですが、その理由としては Google から入る人が多い、という指摘があります。調査の時点で、ウィキペディアへのアクセスの5割が Google 経由なのだそうだ。そして、にもかかわらず全米の成人というレベルでみれば、ウィキペディアを使ったことがない人が利用者の倍いる、ということは印象深いです。
なお、「昨日ウィキペディアを使ったか」という質問にはいと答えたのは全体の8%(「使ったことがある」人は先述のように36%)で、そうみなさんいつも使っているわけではないということも伺えます。
年齢別で高齢者に少ない点については、高齢者用スキンの要望などが英語圏ではあり、潜在的な需要はあると個人的には考えています。英語版はウィキペディア各国語版のなかでは比較的使いやすいと感じるのですが、それでも調査結果からはまだまだ利用者層の掘り起こしが可能なんだなと感じました。
最近、会話のなかで「……とウィキペディアに書いてあった」というのをちらほら聞くのですが、英語圏では数年前からそうだった模様。日常会話だけではなくて、裁判のなかである主張が一般に認められている証拠として言及されるようになっているようである。というわけで、すこし遅い話題だが、2007 U.S. Dist. LEXIS 12771 について。Thelen Reid Brown Raysman & Steiner の Technology Law Updateが簡潔にまとめているので参照する。
Expert’s Report In Trademark Litigation May In Part Rely On Wikipedia Online Encyclopedia
An export’s report in a trademark litigation concerning the transliteration of Russian names into English may, in part, rely on the Wikipedia online encyclopedia, despite reasonable concerns about the ability of anonymous users to alter Wikipedia entries. Alfa Corp. v. Oao Alfa Bank, No. 04-cv-8968, 2007 U.S. Dist. LEXIS 12771 (S.D.N.Y. Feb. 21, 2007).
... The court commented upon the number of judicial opinions that cite Internet sources like Wikipedia and its apparent dependability as compared to traditional sources. The court further commented that, despite the citations to Wikipedia, the expert relied more heavily on written sources, and in any event defense counsel would be given the opportunity to cross-examine the plaintiff’s expert at trial concerning his reliance on the disputed sources.
訴訟自体は商標権の侵害をめぐる話。本来はロシア語(キリル文字)表記な商標を英語に転写するやり方の一般性をめぐって、専門家によるレポートにウィキペディア(英語版)が参照されたので、その妥当性が議論されている。南ニューヨーク地区連邦地裁(United States District Court for the Southern District of New York)の判断は、「ウィキペディアに信用の出来ない記述がまぎれこむ可能性は否定できないが、必ずしも信頼性のおけない資料というわけではない*1。他の資料と併用してウィキペディアをも用いることは、専門性に欠ける判断であることを意味しない」というもの。ミドベリー大歴史学科の「ウィキペディア参照禁止令」と考え合わせると、どうも米国人の常識としては
という線がまとまりつつあるのかな、と思いました。
*1:以下、判決本文をみると、以下、過去にウィキペディアを証拠として採用した裁判が続く。判決全文はLexisNexis等で入手できます。.gov なサイトでも入手できるのだろうが、調べてない。