◎周産期医療の強化 国が動かなければ進まない
病床に空きがなく、対応する医師もいない等の理由で病院が妊婦や新生児の受け入れを
相次ぎ拒否した問題を受け、文部科学省は来年度から四年間で全国立大病院に新生児集中治療室(NICU)を整備する計画を公表した。同省の調査では私立や公立に比べて国立大の対応が遅れている。国が動かなければ周産期医療の機能強化が進まない現状だ。
周産期医療の施設としてNICUをはじめとして母体・胎児集中治療室(MFICU)
や継続保育室(GCU)等がある。国立大病院には全部整っていると思っている人には、NICUのない国立大病院が九つもあるうえに、増床を要するところが半数の二十一病院もあると知れば、それでも大学病院かと驚かされる実態だ。
金大や富大病院には施設があるが、自治体病院の石川県立中央病院、富山県立中央病院
の方が大学病院よりも病床数が多い。この他に、石川県の例では金沢医科大病院と金沢医療センター(旧国立金沢病院)がNICUを備えている。
問題は施設が整備されていても満床に近い状態の運営を強いられていることや、県都の
病院である金沢市立病院と富山市民病院の周産期医療の機能が止まっていることである。
富山市の森雅志市長が先日の記者会見で市民病院が四月から医師不足で休止しているN
ICU問題に関して、富山医療圏の周産期医療体制の整備は県立中央病院への集約が妥当であるとして県が議論を主導すべきだと述べた。人口の多い県都がなぜ議論を主導できないのか。「厄介な議論は県に任せたい」とも受け取れる発言だった。金沢市立病院の場合は経営再建に取り組み始めたばかりで、そうした議論も出ていないさびしさだが、事情は同じように思われる。
市よりも県が、県よりも国が―という思考様式が伝わってくる。あながち間違っている
とは言えないが、日本の医療を推し進めてきたのは国だけだったか。国が大きな役割を果たしてきたのは事実だが、農夫(婦)症や公害病をいち早く発見し、対策を訴えた医師が自治体や民間病院にいた歴史を忘れてはなるまい。
◎ビッグ3救済へ つなぎ融資もやむを得ぬ
とりあえず止血をしよう、ということだろう。ビッグスリー(米大手自動車三社)への
百五十億ドル(一兆四千億円)の公的資金投入へ向け、ブッシュ政権と民主党が合意の見通しとなった。破たん回避のためのいわば政治的妥協であり、本格救済にはほど遠い内容だが、オバマ政権への移行期だけに、「つなぎ融資」となるのもやむを得ない。
支援がなければビッグスリーのうち、GMとクライスラーは年内から年明けにかけて破
たんする恐れがあった。ビッグスリーが再建計画と引き換えに要請した融資総額は三百四十億ドル(三兆二千億円)に達しており、計画内容を精査するには時間不足だ。緊急避難的に当座をしのぎ、次期政権にバトンを渡すほか手はあるまい。
オバマ次期大統領をはじめ、民主党は以前から何らの形で救済したいとの意向を示して
いた。もしビッグスリーが破たんしたら、影響は米国内だけにとどまらない。GM会長は議会公聴会で、一社でも破たんした場合、一年以内に三百万人の雇用が奪われると証言したが、すそ野の広い自動車産業は実体経済そのものであり、世界経済にも大打撃を与えるだろう。
ビッグスリーは、これから徹底的なリストラを求められる。米国内での報道では、解雇
予定者は自動車業界だけで十二万人、その他産業を含めると百万人を超える見通しともいう。個人消費の落ち込みが避けられそうもないなかで、ビッグスリーの再建は、かなりの難物だ。状況次第では三社が二社になるケースも十分考えられる。融資総額はおそらく三百四十億ドルでは足りず、追加融資が必要になる局面も出てくるのではないか。そうなっても、とめどもなく融資が膨らむような状況だけは避けねばならない。
ビッグスリーの行方は、日本の自動車産業の足元を大きく揺さぶることになる。再建に
向けて支援を求められるのは確実であり、合併から工場設備などの買い取りまで、多岐にわたる要請や打診があるだろう。日本企業もまた業況が厳しいなかで、難しい経営のかじ取りを迫られよう。