新日本石油ENEOSのエース、田沢純一投手が大リーグ・レッドソックスとメジャー契約を結んだ。日本のアマチュア野球選手が国内のプロを経ず、大リーグ球団とメジャー契約を結ぶのは田沢投手が初めてで、レッドソックス側の期待の大きさを物語る。
現地の報道などによると3年契約で、契約総額は330万ドル(約3億400万円)にのぼる。契約金の上限が出来高払いを含め1億5000万円に抑えられている国内のプロ野球と比べると破格の好条件だ。条件以上に尊敬する松坂大輔投手の存在がレッドソックスを選んだ決め手となったようだ。
ただ「メジャー契約」とはいえ、いきなり来春から大リーガーとして試合に登板することが約束されたわけではない。大リーグ昇格の前提となる40人枠への登録が保証されたものの、ベンチ入りするには25人の枠に入らなければならず、これから厳しい生存競争が待ち受けている。
球団は当面、傘下の2Aチームで田沢投手を育てる方針を明らかにしている。田沢投手も、いきなり大リーガー相手に登板できると甘く考えてはいないだろう。心身ともさらに鍛え上げ、日本のファンの期待に応えられる投手に成長してもらいたいものだ。
日本人メジャー選手の先駆けとなった野茂英雄投手が今年限りで現役を引退した。その節目の年に、新たな「メジャーへの道」が切り開かれたことに因縁めいたものを感じる。
これまで国内アマチュアのトップ選手を独占的に獲得してきた日本プロ野球組織(NPB)は今回の田沢投手のメジャー契約を快く思っていない。国内のドラフトを拒否して海外球団と契約したアマチュア選手に対し、日本球界復帰を一定期間制限する制度をNPBは決めた。
私たちはこの制度を以前も批判したが、アマチュア側との協議も抜きで手前勝手なペナルティーを作り、組織外の選手に押しつけるやり方は実に大人げない。労組日本プロ野球選手会からも批判の声が出ている。
「プロ野球界はタテ割り社会の弊害が起こり、内部では言論の自由が行使されない。外部から健全な批判が加えられず、マンネリズムに陥りがちになり、ややもすると沈滞した雰囲気がはびこってしまう」
前駐米大使の加藤良三コミッショナーの大先輩である故・下田武三元コミッショナーが退任直前の1984年暮れ、プロ野球創設50周年式典のあいさつで述べた言葉だ。
24年も前の先輩コミッショナーの厳しい批判に照らし、現在のプロ野球はどうか。田沢投手のメジャー契約という新たな事態を契機に、加藤コミッショナーには12球団のみの利害にとらわれることなく、大所高所から思いを巡らしてもらいたいものだ。
毎日新聞 2008年12月7日 東京朝刊