川端康成の「名人」(新潮文庫)は烏鷺(うろ)の争いのすごみを感じさせる。一九三八年に行われた本因坊秀哉名人の引退碁の観戦記を新聞に連載した川端が十数年後、それをあらためて小説にした。
後に多くの弟子と一時代を築く木谷実七段(小説では大竹七段)との対局は名人の病で度々中断し、半年も打ち継がれた。病身を削り碁に没入する「不敗の名人」と、勝負に徹しついに破る若き実力者。壮絶な世代対決で精根尽きたのか。名人は一年後、数え年六十七で亡くなった。
現代はさらに新陳代謝が激しい。今秋は十九歳の井山裕太八段が十代の棋士で初めて名人位に挑戦。惜敗したが話題を集めた。
先月下旬始まった山陽新聞杯第53期関西棋院第一位決定戦の挑戦者決定トーナメントも三十二人の参加棋士のうち、十七歳の成長株・村川大介五段ら七人を十代、二十代の若手が占める。従来の賞金上位者と主催者推薦に加え、予選を四年前に導入したのが活性化につながった。
もう一つの注目は女性棋士。例年は推薦の一人だけのことが多いが、今期はこれに加え、二人が予選を突破し計三人が参加する。
特に、石井茜初段はいったん棋士の道を断たれてもあきらめず、抜群の棋力で昨年、特別にプロ入りが認められた異色の二十六歳。開幕戦で浅口市出身の強豪・横田茂昭九段を破り、続く女性、若手の台頭を予感させた。
これで中堅、ベテランも奮起するだろう。一年間の戦いを制し結城聡第一位に挑むのは誰か? 楽しみだ。
(文化部・中浜隆宏)