タイのバンコク国際空港がようやく正常化した。反政府団体の占拠によって十一月二十五日夜に閉鎖されて以降混乱が続き、多くの外国人利用者らが被害に遭った。損なった国際社会の信頼を回復させるためには、タイ国民の融和が重要だ。
混乱の原因は、政治対立の根が深く長期化したことにある。二〇〇六年には反政府市民団体「民主市民連合」が、当時のタクシン首相の強権体質を批判して退陣を求め、大規模集会を開いた。軍が同調し、クーデターでタクシン氏を失脚させた。
ところが、〇七年十二月の総選挙ではタクシン派の国民の力党が下院第一党となってサマック連立政権が誕生した。その後、サマック首相が失職し、後継にタクシン元首相の義弟であるソムチャイ氏が就任した。反政府団体はタクシン元首相のかいらいと反発し、政権打倒を目指して首都バンコクの首相府や国際空港を占拠するなど抗議行動を激化させた。
事態が収束に向かったのは、タイ憲法裁判所が昨年十二月の総選挙の選挙違反事件をめぐって国民の力など連立与党三党は党ぐるみで選挙違反に関与したと認定し、三党に解党命令を出したからだ。国民の力党を率いるソムチャイ首相は五年間の政治活動を禁止されて失職し、政権は崩壊した。反政府団体は「偉大な勝利」と自賛する。
一応の安定が戻ったとはいえ、空港占拠などによってタイの社会経済が受けた痛手は甚大だ。日本でも人気のリゾート地プーケットなどを抱える観光業のイメージダウンは計り知れない。「東洋のデトロイト」と呼ばれ、自動車産業などが発展してきたが、海外からの投資意欲を冷やすことにもなろう。
世界的な金融危機がタイにも及んでいる。一刻も早く政治対立を解消することが重要だが、解党となった国民の力党は新党「タイ貢献党」を設立し、判決で政治活動を禁じられた幹部以外の議員が新党に移籍してタクシン派による新連立政権樹立の動きをみせている。
反政府団体は、タクシン派が再び政権を取れば抗議行動を再開させる方針だ。国民に敬愛されるプミポン国王が誕生日を前に行う恒例の演説で、国民和解に向けて政治安定を呼び掛けると期待されていたが、体調不良を理由に中止された。対立の火種は残る。
タイ政府は今月中旬にタイで開催予定だった東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議などを来年三月に延期した。混乱が再燃するようなことになれば国際的信頼は失墜しかねない。
石油元売り最大手の新日本石油と六位の新日鉱ホールディングスが、二〇〇九年十月に経営統合することで合意した。国内でのガソリン販売の約三割を占め、売上高が十三兆円を超える世界八位の巨大石油会社が誕生する。
原油価格の乱高下や金融危機による景気減速、若者の車離れなどから石油製品の需要は低迷が続いている。在庫と過剰設備を抱え、過当競争が収益を圧迫する。今回の大型統合は、こうした厳しい状況への強い危機感の表れといえよう。
計画では新会社は両社の事業を再編し、設立する持ち株会社の傘下に油田開発、石油精製、金属の各事業会社を置く。全国で十カ所となる製油所や約一万三千六百店舗に上るガソリンスタンドの合理化を進め、経営基盤の強化を図るという。
新会社が効率化とともに目標に掲げているのが、資源権益の拡大と新エネルギーの開発である。統合によって世界八位の売上高になるとはいえ、純利益などで欧米の石油メジャーには大きく水を開けられている。油田開発など収益率の高い上流部門が弱いためだ。
規模拡大と効率化で販売部門など下流部門の収益性を高めて資金調達力を向上させ、上流部門の強化に充てることで構造転換を図ってほしい。太陽光発電など新エネルギー開発も、地球温暖化対策が叫ばれる中で欠かせない取り組みだ。
今後、生き残りをかけた業界の再編が活発化しそうだ。守りだけでは展望は開けない。危機をチャンスととらえ資源争奪競争や地球環境問題を視野にした大胆な戦略を描き、世界を舞台に果敢に挑むことが国際競争に耐える力をつけることにもなろう。新会社に、そのけん引役を期待したい。
(2008年12月6日掲載)