ハンセン病をモチーフにした作品と言えば、松本清張の「砂の器」が有名だが、これほどまでにハンセン病への偏見と差別に迫り、見る者に問い掛ける社会派作品を他に知らない。そんな実話に基づく映画が8日、県内で初上映される。
映画は、熊本県で51(昭和26)年に発生した殺人事件「菊池事件」を題材にしている。村役場の元職員が殺害され、ハンセン病患者の29歳の男性が逮捕された。男性は冤(えん)罪を訴えて最高裁まで争ったが、3度の再審請求を退けられ、死刑判決が確定。62年に40歳で執行された。
男性は、ハンセン病患者を療養所に強制隔離する「無らい県運動」の象徴とされる。ハンセン病患者だったために死刑になったとされ、現在も差別や偏見による誤判の可能性が指摘されている。
物語は駆け出しのフリーライターが、この事件の真相を追う。死刑となった患者周辺の取材を進めると、限りなく無実に近いことが分かってくる。今なお残るハンセン病への強い差別や偏見をあぶり出す。
中山節夫監督は国立ハンセン病療養所「菊池恵楓(けいふう)園」のある熊本県合志市出身。ハンセン病患者を親に持つ子供の小学校入学拒否問題をテーマに映画「あつい壁」(69年)を制作するなど、一貫してハンセン病問題を撮り続ける。九州で反響を呼び、社会派映画では異例のロングランとなった。
中山監督は「同じことを二度と繰り返してはいけないと伝えたかった。自分も何の疑いもなく差別した一人。差別や偏見について自分の心に問いかけてほしい」と語る。
らい予防法廃止10周年とハンセン病国賠訴訟勝訴5周年記念映画で、映画センター全国連絡会議主催。
長野市勤労者女性会館しなのきで8日午後2時と午後7時の2回上映。中山監督のトークもある。前売り券1200円、当日券1500円。問い合わせは長野映研026・232・1226。【福田智沙】
毎日新聞 2008年12月6日 地方版