食料小国ニッポン

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食料小国ニッポン:自給率回復の道/5止 在来の種、どう守る

「種は自給の基本」と話す「ひょうごの在来種保存会」の山根成人さん=行友弥撮影
「種は自給の基本」と話す「ひょうごの在来種保存会」の山根成人さん=行友弥撮影

 播磨灘を望む兵庫県姫路市郊外。宅地に囲まれた畑で、山根成人さん(66)がクワを振るい、一抱えもある芋の固まりを掘り出した。サトイモの一種「えび芋」だ。地元で受け継がれてきた在来種だが、栽培農家が減少。山根さんが代表を務める「ひょうごの在来種保存会」(約500人)が保存に努めている。

 会の目的は、種苗会社が売る改良種に押されて姿を消しつつある在来種を守ること。伝統を復活させた「岩津ネギ」などに加え、山根さんらが無名の在来種に命名したものもある。高齢の農家が黙々と守る在来種を探すのは、細い糸をたどるような作業だ。

 山根さんの本業は洋服の修繕業。家族の病気をきっかけに40代で始めた有機農業が、種子に関心を抱くきっかけになった。山根さんは「本来、有機農業の理念は自給なのに、種子を買わなければいけないのはおかしい」と語る。

 千葉県成田市の農事組合法人「ナチュラルシード」も全国各地の生産者と連携し、在来種の野菜を無農薬、無肥料の自然農法で生産する。事務局長の石井吉彦さん(54)は「種苗会社の種は農薬や化学肥料を使う前提で開発されている。その種子で有機農業をやっても成功しない」と話す。

 野菜の自給率は07年度で80%と一見高いが、種子は9割近くが海外からの輸入。しかも、多くは農家が再生産できない「一代雑種」のため、野菜の実質的な自給率は1割足らずとの見方もできる。輸入種子の平均価格は07年に2年前の倍近くまで上昇した。世界的な穀物価格上昇を受け、種子の生産をやめて穀物に切り替える農家が増えたためだ。

 世界では、今「種子を制する者は世界を制する」が合言葉となっている。多国籍企業が遺伝子組み換え(GM)技術などを武器に種子の供給を握り、それに合った農薬や肥料を抱き合わせで売る動きだ。自立した農業の基本である「種」をどう守るのかが問われている。=おわり

    ◇

 行友弥、工藤昭久(経済部)、塚本弘毅(弘前通信部)が担当しました。

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 ■ことば

 ◇在来種

 地域の農家が自ら種を採り、再生産してきた品種。種苗会社が販売する種子の多くは、異なる系統をかけ合わせた一代雑種(F1)で2代目の種を採って栽培しても長所が失われるため、農家は毎年、種を購入しなければならない。選抜育種(優れた種だけを抜き出して育てること)を重ねて改良した「固定種」も商品化されており、こちらは再生産が可能。

毎日新聞 2008年12月3日 東京朝刊

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