食料小国ニッポン

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食料小国ニッポン:自給率回復の道/4 「未利用魚」を食卓へ

「マイナー魚の中にもおいしいものはたくさんある」と話す鈴木裕己社長=行友弥撮影
「マイナー魚の中にもおいしいものはたくさんある」と話す鈴木裕己社長=行友弥撮影

 愛知県中南部の幸田(こうた)町郊外。地元農協が運営する産直スーパー「幸田憩いの農園」の鮮魚コーナーには、見慣れない魚が目立つ。「ヨロイイタチウオ」「ガンゾウヒラメ」などの未利用魚・マイナー魚だ。スチロール皿を包むラップには「愛媛八幡浜」など産地や水揚げ日や、「鍋物用」といった調理法を記したシールが張られている。

 売り場のテナントは同県蒲郡市の鮮魚販売会社「プロ・スパー」。大手水産会社を退職した鈴木裕己社長(36)が02年に設立した。愛知県内に3店舗を開き、全国チェーンの居酒屋やすし店にも魚を卸している。

 魚の調達先は北海道から九州の離島にまで及ぶ。各地でマイナー魚を発掘し、商品化してきた。鈴木社長は「自分の見るところ、とれた魚の3割が捨てられている。そこに商機がある」と話す。

 鈴木さんの幼なじみで同じ脱サラ組の壁谷嘉人さん(37)は、沖合底引き網船の副船長。「初めは高級魚をとって東京に売り込む考えだったが、鈴木と再会して既成概念が壊れた」と話す。以前は捨てていた魚を積極的に売ってくれるプロ・スパーは頼もしい存在だ。7人乗りの船で、年間の水揚げ高は1億6000万円を達成している。

 水産物(食用魚介類)の自給率は07年度に62%と、前年度より3ポイント上がった。消費減退や海外での「買い負け」による輸入の減少が主因で、喜べる状況ではない。欧米や新興国が魚食に目覚める一方で、国内では魚離れが進む。日本人が好むマグロは乱獲で資源の枯渇が懸念されているが「身近にあるものに目を向ければ、おのずと自給率も上がる」と鈴木社長は指摘する。

 今春発表された07年度の水産白書は「地元でとれる水産物の活用」を訴えた。調理法など魚に関する知識を広める民間資格「おさかなマイスター」が昨年創設されるなど、魚食文化再興へ向けた試みも始まっている。

 燃料代の高騰や漁業者の高齢化、後継者不足など暗い話題の多い漁業界。流れを変えるのは、大胆な発想の転換だ。=つづく

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 ■ことば

 ◇未利用魚・マイナー魚

 明確な定義はないが、食用となるものの、知名度の低さなどから漁獲の対象にならなかったり、サイズが小さいなどの理由で流通に乗りにくい魚。底引き網、巻き網、定置網などの漁法で混獲され、大半は船から海に投棄される。地元だけで消費されているケースもある。

毎日新聞 2008年12月2日 東京朝刊

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