東京都品川区のオフィスビル、ゲートシティ大崎1階にあるコンビニ「ローソン」。客が増え始めた正午前、パン売り場を訪れた男性会社員(40)は、国産米粉(こめこ)を使った4種類の菓子パンや調理パンを手に取り、「よく買いますよ。モチモチした食感が気に入っている」と話した。
ローソンが自社ブランドの米粉パンを関東地区で発売したのは今年7月。9月から全国に拡大し、2カ月で約100万個を販売した。「健康的なイメージや独特の食感で差別化を図った」と同社の担当者は説明する。
製パン業界最大手の山崎製パンも、9月から国産米粉を使った食パンやロールパンを投入した。以前から「玄米入り食パン」などを扱っていたが、9月は従来の年間生産量に匹敵する約100トン(米粉ベース)を生産した。
今年、パンやめん類の原料に米粉を導入する企業が相次いでいる。小麦の値上がりでコメが相対的に安くなったことが背景にある。06年度にパン・めん類に使われた米粉は6000トン程度だが、「今年度は1万トンを超える」と予想する関係者もいる。
年間約500万トン輸入される小麦の一部を国産米で代替すれば食料自給率は上がる。農林水産省は、減反でコメ作りを休んでいる約110万ヘクタールの水田を活用し、米粉生産を奨励する方針だ。08年度は技術開発など約5000万円だったが、09年度は飼料米などの生産振興とあわせ約446億円を要求している。
ただ、不安要因もある。国が製粉業者に売り渡す輸入小麦の価格は、昨春以降の相次ぐ値上げにより約6割値上がりし、08年10月以降は1トンあたり約7万6000円になった。米粉用の国産米とほぼ同水準だが、小麦の国際価格は今年2月のピークから半値以下に下落した。来春には国内価格も引き下げられる見込みで、米粉ブームは急速にしぼみかねない。農薬などに汚染された工業用米の不正転売も、米粉のイメージ悪化を招いた。
いくら補助金で奨励しても、消費者の支持がなければ米粉需要は定着しない。日本穀物検定協会の萩田敏参与は「原料米の生産流通履歴を示すなど安全、安心にもコストをかけ、需要を喚起する工夫も必要」と指摘している。
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日本の食料自給率(カロリーベース)は07年度、コメの消費回復などを背景に2年ぶりに40%を回復した。しかし、それを可能にした穀物価格高騰などの状況は変わり始めている。一時の風頼みではなく、食の輸入依存を根本から改めることはできるのか。現場の取り組みを紹介する。=つづく
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■ことば
コメを砕いて粉にしたもので、07年度の国内生産量は約11万トン。伝統的には餅米から作る白玉粉や道明寺粉、うるち米を原料とする上新粉などがあり、和菓子や米菓などに使われてきた。粒が粗く不規則で、小麦粉に含まれる粘り気成分「グルテン」もないため、パンやめん類には不向きとされてきたが、最近は製粉技術の向上などで用途が拡大している。
毎日新聞 2008年11月26日 東京朝刊
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