2008-11-18 国籍法改正について色々
国籍法改正について色々(本当に旧国籍法は偽装認知を防いでいたのか? などなど)
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多くの人が「偽装認知」という観点から反対していると思います。
しかし、それについては、少なくとも最高裁判所は既に考えていて、
それでも「元々旧国籍法が偽装認知を防いでいるという証拠はない」
という結論を出していて、旧国籍法に違憲判決を下している訳です。
偽装認知論者にとっては最高裁判所のこの意見は決定的だと思うのですが、
原文を読むのが大変なので、彼らがスルーしているところだと思います。
そもそもの発端は平成20年06月04日の国籍法違憲判決なのですが、判例を見てみましょう。
全文から抜粋。
また,認知と届出のみを要件とすると,生物学上の父ではない日本国民によって 日本国籍の取得を目的とする仮装認知(偽装認知)がされるおそれがあるとして, これが準正要件を設ける理由の一つとされることがあるが,そのようなおそれがあ るとしても,これを防止する要請と準正要件を設けることとの間に合理的関連性が あるといい難いことは,多数意見の説示するとおりである。しかし,例えば,仮装 認知を防止するために,父として子を認知しようとする者とその子との間に生物学 上の父子関係が存することが科学的に証明されることを国籍取得の要件として付加 することは,これも政策上の当否の点は別として,将来に向けての選択肢になり得 ないものではないであろう。
要点は三つ。
よって、偽装認知の論点から準正要件を廃止すべきではない、という意見は前意見に既に論駁されているものであり、
論者は「準正要件と偽装認知の防止の間に合理的関連性がある」という論を立て、裁判所を説得できなければならない。
これは大変です。だって最高裁判所はその問題点を知った上で、準正要件が偽装認知を防いでいるという説も出た上で、
「でもやっぱり合理的関連性はあると言い難い、それが多数意見だ」という結論を出したわけだから。
- 生物学的要件を盛り込むべきではないのかという意見は既にある。
必要であればそれを推進すればよい。ただしそれは法改正反対ではなく法改正改正という形にならざるを得ない。
よって個人的には法改正反対論者に対して「間違った前提に基づいて、何を非建設的なことをやっているのか?」
という感想を抱かざるを得ません。
生物学的要件を盛り込むと、フォスターペアレントなどの養子縁組は新たな苦境に立たされますね。
「非犯罪的な養子縁組は除く」という条項を設ければいいのかも知れませんが、その要件はどうしますか?
その要件まで定めると、改正案は明快さを欠くことになります。
「生物学的要件は科学的だから明快だ」という当初の印象とは違って、話がややこしくなってしまうんですね。
今回の改正は国籍法違憲判決を反映するだけですので、何でそんな面倒事を盛り込まねばならないのか、
そんな面倒事の原因となる生物学的要件+養子縁組の犯罪性なんて入れない方がいいじゃないか、となります。
そういうことも踏まえて、将来の面倒事を避けるために最高裁判所は配慮したと言えます。
生物学的要件と養子縁組について議論したい方はどうぞ。でもそれは国籍法改正とは別の話にしてください。
備考。平成20年11月18日に衆院通過したことを受けて。
父親の認知だけで国籍が取得できるようになるため、日本人男性に金銭を払うなどして虚偽の認知で国籍を取得する「偽装認知」には、新たに罰則を設けた。
じゃあ問題ないのではないでしょうか。むしろ今までより偽装認知には厳しくなったということになりますね。
偽装認知に甘くなるから国籍法改正に反対、というのでは、もはや論理が成り立ちません。
あと、司法・行政・衆院で「改正すべき」となった以上、覆すには何かよほどの決定的な理由が必要です。
そんなものはないから通るべくして通ったのではないのか? としか思えません。参院でもそうなると思いますよ。
それでも覆したいとなると、もはや反三権分立制・反間接民主制的(事実上反国家的と言ってもいい)
手段しかないということになりますが、それでいいのでしょうか? 識者のご意見をおうかがいしたいところです。
あと、判決を分かりやすく詳細に説明したものとして、以下のサイトが大変参考になります。オススメ。
- 63 http://d.hatena.ne.jp/inflorescencia/20081116/1226827321
- 28 http://d.hatena.ne.jp/inflorescencia/20081115/1226728277
- 19 http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/a-kubota/20081118/1227014476
- 11 http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/inflorescencia/20081116/1226827321
- 9 http://b.hatena.ne.jp/t/国籍法
- 8 http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2008111800099
- 7 http://a.hatena.ne.jp/sayume/
- 7 http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20081122/1227324804
- 7 http://kill.g.hatena.ne.jp/xx-internet/
- 7 http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rlz=1T4GPTB_jaJP289JP289&q=陸上戦艦
妊婦の存在が不可欠なことと、胎児に国籍があたえられることから
悪意・金銭欲を持つ者が自発的に国籍を「入手」するのが
難しいと考えられるからだと思いますけど。
DNA鑑定さえすりゃ、それほど文句はないんですけどねぇ
DNA鑑定を盛り込むと、外国人の養子縁組という別個の法改正をする必要が出てきてしまいます。
それは今回の法改正の趣旨から逸脱します。
国籍入手の件については、衆院通過時点では罰則規定があるので、
法的ではなく、国籍法違憲判決で差別的だとされた旧規定より、
公正かつ法的に厳格になっているというのが現状です。
それで反対派の方が何が不満なのかよく分かりません。
これは既に全てエントリの中で書いたことです。個人的には二度手間はあまり好みません。
御面倒ですが、御精読の上でまたご返事ください。
とても冷静に考えていらっしゃると思います。
>それで反対派の方が何が不満なのかよく分かりません。
反対派は極めて感情的に思われます。
底流には、外国人と婚外子に対する無知と無理解、
そして蔑視があるように感じられてなりません。
というか、もともとの人権意識の低さが
簡単に煽られて噴出したのではないでしょうか?
冷静で貴重なエントリーをありがとうございました。
もともと外国人婚外子への救済のための判例・立法だったものが、救済されなくなるように運動している人たちがいるということで、
その反発からこのエントリを書きました。
彼らは「じゃあどうすれば過不足ない合目的的な立法になるか」ということについて極めて甘い考えを持っていて、
彼らの主張がなぜ採用されないか、なぜ今のような落とし所に落ち着いたのか、本当に考えているのかと問いたい気持ちです。
たしかに、偽装結婚が容易であることを考えれば、罰則の追加は偽装認知による国籍取得をやりにくくしたとも言えますね。
(もっとも、国籍取得という観点から見れば、虚偽の国籍届けはより厳しい公正証書原本不実記載になるようなので変わりないかもしれませんが)
>生物学的要件を盛り込むと、フォスターペアレントなどの養子縁組は新たな苦境に立たされますね。
この記述の意図がわからなかったのですが、どういうことでしょうか。現在問題になっているのは認知による自然親子関係であり、養子縁組による法定血族関係の場合は直接のつながりがないように思われるのですが。
最高裁が躊躇した書き方をしているのは、偽装認知につきいかなる対策をとるかは政治部門が判断すべき政策論、立法論であるからではないでしょうか。
全然関係ない正当な養子縁組について「偽装認知だ!」と訴える人が出てくる可能性があります。
例えばコリア系相互扶助団体が正当な養子縁組を推進した場合、反コリア的思想の人が訴えるとか。
その時に血縁要件なんてものがあると、「血縁要件を満たさないから偽装認知の疑いがある」という、
当事者に酷な論を立てることが一応可能になってしまうんですね。
そうなると正当な外国人の養子縁組が阻害されてしまいます。
立法論については突き詰めればまさにおっしゃる通りです。
将来的な偽装認知への対策(立法行政レベル)を最高裁判所が決めるのはお門違いですね。
それに、後々立法化されるような(立法を拘束するとも言える)違憲判決を下す以上、
最高裁判所としては必要最小限のことしか言うべきではなかったのでしょう。
たしかに、意図せざる影響というのがあるかもしれませんね。お答えありがとうございます。