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地域医療の危機:揺れる県立病院再編案/3 偏る業務量 /岩手

 ◇診療応援の依頼、次々 基幹病院にしわ寄せ

 県立中央病院のレジデント(後期研修医)の桜庭伸悟さん(30)はタクシーに乗り込むなり、眠りに落ちた。医師が不足している国保葛巻病院(葛巻町)で当直を務める診療応援に向かう途中。中央病院で診療応援の割り振りを担当する地域医療支援部長の望月泉副院長は「居酒屋タクシーならぬ、『毛布』タクシーです」と苦笑する。

 桜庭さんは研修医になって5年目。医師5人のチームで20~25人程度の入院患者に対応している。平日は毎朝7時に出勤。午前8~9時は回診し、看護師らに指示。同9時半には手術が始まり、終わるのは午後2時ごろ。2件目の手術があれば、病床が消灯する午後9時を過ぎることも。カルテ作成や標本整理などを済ませると帰宅は翌日午前0時近い。

 さらに週1回は中央病院で当直。月1、2回の診療応援にも行く。1回あたり、当直と翌日午前の外来診察をこなすのが一般的。「基幹病院ではないので救急患者も軽症がほとんど。中央病院の当直に比べれば楽ですよ」と語るが、午後中央病院に戻れば、手術が待っている。診療応援があっても、受け持つ入院患者のカルテ作成など日常の業務量は変わらない。

 達増拓也知事は11月17日の記者会見で、県立病院などの無床化を柱にした新経営計画案について、「医師が辞め、その分残る医師の負担が増している。病院を集約して勤務医の負担を減らすのが目的だ」と理解を求めた。

 しかし、実際は全国平均を下回るとは言え、人口10万人あたりの医師数は増えている。県全体では、86年の144・0人(全国157・3人)から06年の186・8人(同217・5人)に増加。県立病院も常勤医は減っているが、97年545人から07年613人に増えている。研修医の確保に努めた結果だ。

 全国自治体病院協議会県支部長の菅野千治・県立宮古病院長は「内陸と沿岸部の病院間で医師の負担が偏っている」と問題点を指摘する。

 県立の中核・基幹病院に運ばれた救急患者は07年度延べ13万3047人。医師1人あたりは、県全体の318・3人に対し、最多の大船渡病院は562・8人。在籍医師や重症患者が多い中央病院の185・9人は別にしても、2番目の花巻厚生病院230・7人の約2・4倍だ。

 加えて、他の県立病院や市町村立の医療機関に派遣される診療応援も負担になる。沿岸部など常勤医が不足する病院・地域診療センターへの派遣で県立病院全体では、06年度5108件から07年度5729件に増えた。

 例えば、1人しかいない九戸地域診療センターの常勤医は昨年度以降、体調不良のため入院患者の診療に専念。外来や夜間・休日の当直は基幹病院や岩手医大から派遣を求めた。その結果、07年度の二戸病院の診療応援は、前年度比35・1%増の831件に増加した。

 中央病院の望月副院長は、県の言う無床診療所化による中核・基幹病院の医師負担軽減について「次々に来る診療応援の依頼を断り続けているのが現状。仮に無床化しても業務量は変わらないでしょう」と否定的だ。【山口圭一】=つづく

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 ◇中核・基幹病院の診療応援回数

    06年度 07年度

中央  2233 2238

大船渡  265  413

釜石   152  301

花巻

厚生   116  131

宮古   365  256

胆沢   326  577

磐井   682  681

久慈    84  102

北上   103   79

二戸   615  831

計   4941 5609

 (県医療局調べ)

毎日新聞 2008年12月6日 地方版

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