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2008年12月6日

◎新雇用対策 就業構造に即した支援を

 自民、公明両党がまとめた総額二兆円規模の新たな雇用対策は、地域の就業構造の変化 に即して迅速に実行する必要がある。景気の急降下と時をおかずして雇用情勢が悪化したのは、期間工や派遣社員などの非正規労働者が三人に一人の割合まで増えたことが影響している。こうした就業構造の中で直面した初めての不況であり、国や自治体は型通りの政策では効果が十分発揮できないことを認識し、失業者対策や再就職支援に知恵を絞ってほしい。

 法改正で二〇〇四年から製造業の派遣が解禁となり、非正規労働者の割合が高まった。 好不況の波によって企業が柔軟に雇用調整できる一方、景気後退が急激に進むと真っ先に解雇の対象にされやすい。今回は負の側面があぶり出された格好である。人材の流動化は雇用のパイを増やし、働く人にとっては選択の幅が広がった面もある。だが、非正規労働者がこれだけ増えた以上、雇用安定化とのバランスが重要であり、それにふさわしい安全網が求められる。

 与党の雇用対策では、派遣を直接雇用に切り替えた企業への助成金や、雇用維持を支援 する雇用調整助成金の条件緩和などが盛り込まれた。こうした考え方を緊急措置にとどめず、非正規雇用を下支えする安全網の構築に生かしたい。今の就業構造が望ましいのか、労働者派遣法の在り方も含め、本質的な議論も必要となろう。

 厚生労働省の調査では、今年十月から来年三月までの非正規労働者の失業は三万人に達 すると予測されている。景気の底はまだ見えず、自動車産業などで相次ぐ大規模なリストラをみれば一層の悪化は避けられない。

 地方の雇用行政にとっても正念場である。与党の対策に盛り込まれた緊急雇用創出事業 が動き出せば、自治体の知恵や工夫が問われる。失業者の一時的な受け皿にとどまらず、常用雇用へと誘導する仕掛けもいるだろう。

 雇用のパイが急速に縮小する局面では行政の役割が大きいとはいえ、企業にも社会的責 任はある。苦しい経営状況は理解できるが、安易なリストラは地域の信頼を失いかねない。雇用維持へできうる限りの努力をしてほしい。

◎九谷焼の特別講座 地道に「売る力」高めたい

 石川県立九谷焼技術研修所は来年度、研修生に商品の流通や販売の仕組みなどを教える 特別講座を開く。九谷焼の販売業者らから売れ筋商品の特徴なども学んでもらい、「売れる九谷焼」を作れる人材の育成をめざすという。この試みは換言すれば、九谷焼産地の「売る力」を高める取り組みの一つといえる。

 売る力の向上に関して、県九谷陶磁器商工業協組連合会は今秋、東京や大阪など全国の 百貨店で伝統工芸品を販売するスタッフら約二十人を能美市に招き、九谷焼の魅力を直接伝授するというユニークな講座を初めて開催した。販売員の能力次第で商品の売上高に違いが出るのはどの業界も同じであるが、とりわけ伝統産業商品はその価値を伝えることが大事であり、顧客とのコミュニケーション能力が一層問われるという。

 百貨店の販売スタッフを対象にした講座は、九谷焼に精通したプロの販売員教育に産地 が協力することで売上増につなげる狙いである。業界全体の販売力の底上げを図る、こうした地道な努力をさらに続けてもらいたい。

 九谷焼技術研修所が開く特別講座は九谷陶磁器商工業協組連合会も協力し、組合に加盟 する窯元や販売業者が生産、流通、販売の仕組みや現状を研修生に解説することになっている。九谷焼に限らず伝統工芸品の制作者は消費者から一歩離れた位置にいるため、一般に売るということに十分意識が回らない傾向が否めない。同研修所の講座は、売り手の意識、意欲をも兼ね備えた作り手の育成に役立ち、売れる九谷焼づくりに結びつくことが期待できよう。

 九谷焼は全国に知られた伝統産業商品であるが、ブランド力にあぐらをかいて、若い世 代へ積極的にアピールする努力を怠ると、世代交代が進むにつれて知名度が低下しかねない。そうした点でも、全国の百貨店や商社、小売店の担当者に九谷焼を好きになってもらい、その良さを説得力をもって消費者に語り、販売できる人材を増やしていくことは重要である。販売スタッフを招いた連合会の講座も継続が望まれる。


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