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社説:リストラ横行 こんなことでは国が危うい

 自民、公明両党が、今後3年間で予算規模2兆円の追加雇用対策を決め、麻生太郎首相に提出した。09年度政府予算編成が最終局面を迎えているこの段階で、与党が雇用問題で追加対策を策定したのは、雇用情勢の悪化が予想を上回る速度で進んでいるからだ。

 8月末の緊急経済対策でも、10月末の追加経済対策でも、雇用支援は国民の生活安心を実現する重要な施策と位置付けられていた。今回の施策では140万人の雇用下支えを目指す。

 雇用情勢はここ1、2カ月急速に悪化している。自動車、電気機械など輸出型製造業を中心に進んでいる派遣社員や季節従業員の雇い止めや中途契約打ち切りは、勤労者の不安を高めている。非正規、正規を問わず、雇用調整が本格化しかねない状況だ。

 では、今回の対策で、雇用の維持や雇用の創出はできるのだろうか。

 10月末の追加経済対策に盛り込まれた雇用へのテコ入れは、年長フリーターなどの積極的雇用、ジョブカード制度の拡充、地域での雇用機会創出などで、予算規模は3000億円だった。企業の人減らしリストラが拡大し、新卒採用の内定取り消しなど正規雇用の抑制や削減も現実化している中で、本格的な対策が必要なことは間違いない。

 雇用保険特別会計の積立金のみならず、一般会計からも1兆円の財源を確保し、2兆円規模の雇用対策を講ずることは前進ではある。失業給付の期間延長や企業の正社員化支援、職業訓練中の生活手当など、追加経済対策段階よりは踏み込んでいる。ただ、それにより雇用が維持され、目に見える雇用創出効果があるかとなると、否定的にならざるを得ない。

 小泉改革の経済活性化策でも雇用拡大は重要な課題だった。景気が緩やかとはいえ回復を続けたことで、雇用者総数は増加した。しかし、中身は派遣やパートなど非正規労働が中心だった。正規労働からの振り替えも進んだ。雇用関係法制の柔軟化で可能となった。

 いま、現実に雇用契約を打ち切られたり、解雇の不安を感じている勤労者の多くは、そうした人々だ。政府は期限前の契約解除などには厳正に対処するというが、規制改革の行き過ぎを見直し、勤労者の権利を守ることも必要だろう。

 再就職支援策も総花的である。地域での雇用創出も具体的な姿が見えてこない。失業給付期間の延長や職業訓練対策は適切に運用されれば、効果があるだろう。ただ、重点化や集中は不十分だ。

 雇用の悪化は家計を不安に陥れ、個人消費の手控えをもたらす。日本はいま、そうした状況にある。雇用対策をやるのであれば、国民が安心を実感できるものでなければならない。企業も責任を共有することは言うまでもない。

毎日新聞 2008年12月6日 東京朝刊

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