子どもたちの「心」がすさんできて、暴発しているのだろうか。そう思わせる心配なデータが明らかになった。
文部科学省の調査で、全国の小中高校が2007年度に確認した暴力行為が過去最多の約5万3000件に上ったという。06年度より約8000件も増えたことになる。いじめも、06年度より2割近く減ったものの10万件を超えている。
ただ、暴力行為が増え、いじめが減ったのには特殊要因もある。暴力行為では文科省は今回調査から、診断書や警察への被害届の有無にかかわらず積極的な報告を都道府県教委に求めた。いじめは福岡県筑前町で起きたいじめ自殺などを契機に、前回調査から認定基準を緩めたため、06年度は一気に05年度の6倍、約12万5000件に膨らんでいた。
また、例えばいじめで、児童生徒1000人当たりの件数は、最多の県と最少の県では30倍近い開きがある。
調査方法の変更は理由があり、やむを得ないとしても、数字の極端なばらつきは調査自体がどこまで実態をとらえているのか、信ぴょう性を疑わせる。要は数字に過度にとらわれず、事態を真正面から見詰めることが重要だろう。
今回の調査で、とくに気掛かりなのは問題行動の低年齢化である。
「荒れる小学生」と騒がれたのは、04年度調査だった。小学校の暴力行為が03年度より18%増え、初めて2000件を超えた。当時、中学校と高校は微減し、小学校だけ増えたのだ。
ところが、より詳しい調査を求めた07年度は、小中高校すべてで06年度より増えたばかりか、増加率が小学校37%、中学校20%、高校5%と学校が下がるほど高い。小学校は件数こそ依然、約5000件と少ないが、暴力行為の低年齢化は一層進んでいるとみるべきだろう。
最近の暴力行為は、ささいなことで感情を抑えきれず暴走するケースが多いと教育関係者は言う。すぐにキレるということだろう。いじめも、相手を思いやることなく心を傷付ける一種の暴力だ。そのいじめも、近年は中学生が主流といわれてきたが、06年度から逆転し、小学生が全体の半数近くを占めている。
モラルや規範意識の低下だと文科省は指摘するが、それは大人社会がそうではないか。大人の姿が子どもたちの心に投影しているとすれば、事態は深刻である。家庭の教育力の低下も叫ばれるが、それも、いまに始まったことではない。
問題行動に走る子どもたちの背景には、家庭や友人関係など、それぞれの悩みがある。暴力行為やいじめの背後に何があるのか。最近目立つ「ネットいじめ」を含めて、問題児として対応するだけで事態を改善することはできまい。
問題の解決には、学校現場と家庭の連携が欠かせない。子どもたちの心のすさみに、どこまで大人社会が真剣に向き合うかが、いま問われているのだろう。
=2008/11/26付 西日本新聞朝刊=