景気の急激な後退で先行きの不透明感が強まり、世間には言いようのない不安が広がっています。こうした状況で思い出されるのは、地場企業の経営者二人の言葉です。
一人は三十代。経営不振に陥った家業の食品メーカーを再建すべく、大都会でのサラリーマン生活を二十代後半でやめて帰郷し、組織改革を進めました。強靱(きょうじん)な実行力の源を質問したところ「難問や課題にぶつかったときは、その本質を冷静に見極め、受けるダメージを予測する。そして、どう乗り越えるかを考えるんです」と淡々とした口調で教えてくれました。
難題や危機が、自分や周囲にどれだけの“傷”を負わせるのか、ダメージを軽くできないか―を徹底的に考え分析すれば、なすべき方策が見えてくる、というわけです。
もう一人は創業から七年足らずで株式公開を果たした外食産業の経営者。「発想は大きな視野で、実際に手掛けることは着実に」を意味する「着眼大局、着手小局」という将棋の名手の言葉に、自らの経営姿勢をなぞらえ「株式公開という目標から逆算し、そこに至るまでに必要な店舗数や人員などを算段すれば、自然とやるべきことは見えた」と言います。
二人の言葉や姿勢に共通するのは、直面する難題を冷徹に分析したり、実現に多くの困難が予想される目標への道筋を明確に見極められる“眼力”ではないでしょうか。
社会に広がる雇用や景気への暗雲。ひるまず立ち向かうのは難題でしょうが、そこから目をそらさない覚悟もまた、必要なのかもしれません。
(経済部・小松原竜司)