政府は二〇〇九年度予算編成の基本方針を閣議決定した。景気後退への厳しい認識を示し、小泉政権以来の歳出削減路線を転換した。これまでの財政規律の維持から景気優先へかじを切る重大な政策変更といえよう。
基本方針は、世界的な金融危機を受け「日本経済は既に景気後退に入っている。下降局面が長期化、深刻化する恐れが高まっている」と危機感を強調した。一一年度に国・地方の基礎的財政収支を黒字化する政府目標については「達成するよう努力するが、歳入環境の急速な悪化も念頭に、国民生活と日本経済を守ることを最優先する」と生活・経済優先を打ち出した。
基礎的財政収支の黒字化は昨年の「確実に達成する」から「努力」に変わった。〇九年度予算の概算要求基準(シーリング)についても原案では「堅持」だったのを「維持」に表現を変え「状況に応じて果断な対応を機動的かつ弾力的に行う」と明記し、財政出動への道を開いた。
九月に米国発で起きた金融危機による経済環境の急激な変化が、景気優先を促したことは間違いない。小泉政権下で始まった緊縮財政路線によって、国民の生活に格差が広がった。医師不足や地域経済疲弊の原因になったとの批判も強まっている。
歳出削減路線の転換には、次期衆院選をにらんだ与党の意向も働いたようだ。しかし、歳出削減のために設定するシーリングが限界にきていることも否めない。ここは歳出の考え方を大胆に見直すとともに、一段のメリハリを利かせることが必要だ。
従来のような予算のばらまきではなく、景気浮揚へ活力を生み出すような投資的な予算編成が求められる。格差の是正につながる配分も大切だ。一方、シーリングを外せば予算が膨らみ、借金増につながりかねない。徹底的な無駄の排除が欠かせない。
一一年度までの基礎的財政収支の黒字化は、小泉政権下の〇六年度の「骨太の方針」に盛り込まれ、その実現のために社会保障費の伸びの圧縮と公共事業費の抑制が打ち出された。以来、安倍政権、福田政権と引き継がれてきた方針だ。
麻生太郎首相は就任以来、景気対策を最優先する考えを強調してきた。所信表明では基礎的財政収支の黒字化を「努力目標」とするなど、事実上の路線転換をにじませていた。今回の基本方針ではさらに踏み込んだ。今後の財政運営や将来展望を含め、麻生首相はきちんと国民に説明すべきである。
大量の不発弾が残り、多くの民間人に被害が出ているクラスター(集束)弾の使用や製造を即時、全面的に禁止する条約の署名式がオスロで開かれ、日本など各国が署名した。
ノルウェー外務省によると、最終的に百カ国以上が署名の見通しという。市民を無差別に殺傷する非人道的兵器の廃絶へ向けて大きな一歩である。
今回の条約に米ロや中国、イスラエルなどが参加していないため、実効性に疑問を投げかける声がある。しかし、今後はクラスター弾を使用すれば国際社会から厳しい非難を浴びることを覚悟しなければならない。ブレーキとして期待できよう。
条約づくりでは、地道な被害者支援や不発弾処理作業を展開する非政府組織(NGO)の貢献を忘れてはなるまい。ノルウェー、アイルランド、ニュージーランドなどの有志国を強力に後押しした。
西欧諸国や日本などが不発率の高低によって部分禁止を唱えたのに対し、国際NGO「クラスター弾連合」などは現地での調査に基づいて反論し、全面禁止に道を開くことができた。被害者の訴えを届け、世論を変えるのにも力があった。市民がかかわった人道・軍縮条約としては、一九九九年発効の対人地雷禁止条約(オタワ条約)に次ぐ成果となる。
条約は最初の三十カ国による批准から半年後に発効すると規定されている。二〇一〇年前半にも発効し、加盟国は保有弾の使用禁止、八年以内の廃棄などの義務を負う。例外はごく一部の最新型に限られる。
日本政府は被害者支援で約七億円の資金拠出を表明し、規制の国際的取り組みにも貢献する意向だ。国際世論を盛り上げ、不参加国に条約参加を働きかけることが今後の責務だ。
(2008年12月5日掲載)