【モスクワ大木俊治】ロシア正教会のアレクシー2世総主教(俗名アレクセイ・リジゲル氏)が5日、モスクワ郊外の自宅で死去した。79歳だった。死因は公表されていないが、長く心臓の病を患っていたとされる。ソ連崩壊後のロシアで歴代政治指導者と良好な関係を築き、ソ連時代に抑圧された正教会の影響力回復に尽力した。
1929年2月、旧ソ連エストニアのタリン生まれ。父は聖職者だった。レニングラード神学大を卒業後、聖職の道に入り、ピーメン前総主教の死去に伴い90年6月、第15代総主教に就任した。
ソ連崩壊後の混乱の中で正教会は国民統合の象徴として大きな役割を果たすようになり、93年10月に当時のエリツィン大統領と対立する保守派がロシア最高会議ビルに立てこもった事件で仲介に乗り出すなど政治混乱の収拾にも貢献した。
00年にプーチン氏が大統領に就任後は政権の精神的な後ろ盾として協力。昨年末にプーチン氏がメドベージェフ氏を大統領の後継候補に指名した際は、この決定を支持した。
今年8月のグルジア紛争では停戦を呼びかける一方、欧州の教会指導者との会合で「政治家の犯罪行為」と指摘し、直接の名指しを避けながらもグルジアのサーカシビリ政権を批判した。ただグルジア正教会とは良好な関係を維持した。
対外的には1917年のロシア革命で国外に亡命した信者による在外教会との和解に努め、昨年5月に在外ロシア正教会(本部・米ニューヨーク)との再統合を実現した。また、11世紀に分裂したカトリックとの対話実現にも前向きな姿勢を見せていた。
00年5月に総主教として初来日し、天皇陛下と会見した。
アレクシー2世は今月初め、ドイツで定期治療を受け、5日にクレムリンのウスペンスキー寺院で儀礼を執り行ったばかりだった。
ロシア正教会の規定では、半年以内に会議を開き新しい総主教を選出する。
【ことば】▽ロシア正教会▽ 東方正教会の中で最大の勢力で、信者数はロシア全土で推定約7500万人。ロシアの前身である「キエフ・ルーシ」が10世紀末、ギリシャ正教を受け入れ国教としたのが起源。ビザンチン帝国の衰退とともに独自色を強め、15世紀に宗教的に独立した。ローマ・カトリック教会とは1054年の教会東西分裂以来、対立が続いている。
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