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「現代の姥捨て」 不安と怒り交差

2008年12月05日

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入院患者は無床化への不安を口々に訴えている=3日、花巻市大迫町の大迫地域診療センター

 地域診療センターの入院ベッドを無くす県医療局の無床化案に対し、反対の動きが活発になっている。「医療格差がさらに広がる」「採算性よりも住民の健康や命を優先すべきだ」――。町唯一の医療機関であるセンターの無床化を示された花巻市大迫町では、遠のこうとしている地域医療に、不安と怒りの声が交差している。

    ◇

 ■姥捨て伝説

 早池峰山のふところに抱かれた大迫町。深沢七郎の「楢山節考」に似た「姥(うば)捨て伝説」が、今も語り継がれている。

 大迫町外川目の竪沢(たつざわ)集落から東に向かって失水(うせみず)峠のふもとに、「人投げ場」と言われる場所があった。食いぶちを減らすために60歳を過ぎたら「お山」に行く。しきたりに従って息子に背負われた母親が、息子が帰り道に迷わないよう気遣い、道端の枝を手折りながらその場に向かうという悲しい昔話だ。

 その大迫町の住民が無床化案に、「現代版『姥捨て山』を許すな」と怒っている。

 「大迫町の医療と福祉を守る会」代表の佐々木功さん(77)はこう話す。

 「お年寄りはなりたくて病気になっているのではない。無床化は国の後期高齢者医療制度と同じ、お年寄りをいじめる案だ」

 1日夜、地元で開かれた「市民大集会」。採択された決議文には「昭和初期、戦前のように、大迫町を再び『姥捨て山』のようにしないでほしい」と盛り込まれた。

 ■進む高齢化

 「姥捨て伝説」を持ち出すまでもなく、大迫町は過疎と高齢化が同時に進む。05年の国勢調査人口は6585人で10年前と比べて1割以上減り、65歳以上の高齢化比率は33.8%(県平均24.5%)だった。

 大迫地域診療センターのこの1年間(07年9月〜08年8月)の入院患者は198人。70歳以上が89.3%を占めた。

 センターの前身は県立大迫病院。07年4月にそれまでの52床から19床に減らされ、有床の診療所になった。01年3月に移転改築された施設は老人に負担をかけないよう平屋建てで設計され、12人が入院している。

 転倒して打撲した同町内川目の伊藤セツ子さん(87)は入院して1カ月ほどたつ。

 「ベッドが無くなったら、どこに行ったらいいのでしょうか。盛岡も北上も遠い。不安です」

 同町外川目の佐々木寿(とし)さん(86)は胃を悪くし、入院2カ月ほどになる。見舞いに来ていた長女の菊池美代子さん(59)は「今の場所なら毎日のように来て励ますことができる。病院が遠くなると見舞いは一日がかり。ひんぱんには行けない」と心配する。

 ■遠のく医療

 県医療局は、県立花巻厚生病院と県立北上病院が統合して北上市に09年4月にできる県立中部病院(仮称)を、花巻市を含む「岩手中部保健医療圏」の基幹病院に位置づける。

 重病の患者や入院患者は中部病院で引き受ける構想だが、大迫町から北上市は遠い。

 大迫町は面積246平方キロ。最長部は東西25.1キロあり、9割が山林だ。町の中心部から最も遠い集落は早池峰山ふもとの岳地区で約18キロほどある。岳の小国朋身さん(49)は「岳から診療所まで車で30分、北上はさらに1時間。急病の患者にとってはつらい」と話す。

 センターの医師は3人。内科、外科を中心に、五つの診療科があり、救急患者を受け入れ、訪問診療、訪問看護、訪問リハビリにも対応して、きめ細かな診療体制をとっている。

 副センター長の遠藤忠雄さん(49)は、無床化になれば救急患者の受け入れはもとより、訪問診療を継続するのは難しくなると見ている。

 「救急患者のたらい回しが発生する恐れが出てくるのではないか。訪問診療も入院の受け皿があるからこそ機能しているのです」

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