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HIV/エイズ治療を待ち続ける多くの子どもたち

2008年12月05日掲載


HIV/AIDSに罹患した子どもと母親のポートレート。
医療施設にて。

HIV/エイズに感染している子どもの数は210万人と推測され*1 、そのうち90%がアフリカ・サハラ以南諸国に集中している。治療を受けている子どもは10%にすぎない*2 。

HIVの子どもの大多数は、妊娠中、分娩中、授乳中に母親から感染している。そのため、工業先進国の多くで実施されているような感染予防がこれらの地域でも可能となるよう、取り組みを続ける必要がある。

しかし、予防策の重要性を認識することが、現在HIV/エイズを患う200万人以上の子どもに対する治療の必要性を無視することにはならない。アフリカ・サハラ以南諸国に住むHIV感染児は、3分の1が1才の誕生日を迎える前に、また、半数は2才の誕生日までに治療を受けることなく死亡している。

取り残された子どもたち

富裕国では母子感染を防ぐ有効な予防策によりHIVに感染する子どもの数はごく少数である。そのため小児HIV/エイズは主に貧困国だけの問題となり、それが子どもたちの診療を遅らせる重大な要因となっている。小児用薬の開発については製薬会社への奨励金がほとんどないため、小児用抗レトロウイルス薬が市場に出回り始めたのは、成人用製剤からかなり遅れてのことであった。そして小児用抗レトロウイルス薬は存在するが成人用のものよりかなり高額である。

小児HIV/エイズに関するMSFの経験

MSFでは、2000年12月に子どもに対する抗レトロウイルス治療を開始した。このプログラムのもと、過去5年間に世界中の15才未満の子ども約1万人が抗レトロウイルス治療を受けた。このうち4千人は5才未満だった。この治療は子どもに大変有効で急速な回復が見られた。MSFが実施したジンバブエのブラワヨにおける最大の小児治療プロジェクトは大成功で、抗レトロウイルス治療を受けた1800人の子どもについては死亡率が大きく減少した *3。

治療拡大のために必要なこと

上述した成果があったとはいえ、子どもの診療が成人より格段に難しいという現実問題はなおも存在しており、以下への取り組みが必要である。

早期幼児診察の拡大

幼児HIV感染の発見は、できるだけ早く抗レトロウイルス治療を開始するために極めて重要である。しかし、生後18か月間は母親からの抗体が持続するため、18か月未満の子どものHIV検査は大変難しい。現在、18か月未満の子どもを検査する唯一の方法は、DNAベースの複合診断機である、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)装置を使用することである。

PCR装置は高価で、訓練を受けたオペレーターと高度な研究施設を必要とするといった要因により、途上国の政府主導の治療プログラムに導入することが難しい。さらに、この装置は中央研究所レベルの施設にしか設置されていないことが多い。地方で実施した検査のサンプルを中央へ送り、装置による分析の結果を再び送り返すという工程に1~3か月を要し、その間に検査中の患者が命を落とす危険がある。必要なのは、新生児がHIV検査を受けたその日のうちに母親に結果を伝えることのできる、迅速な検査法である。

しかしより現実的な長期的解決法が見つかるまでは、PCRが18か月未満の子どもを診断する唯一の頼みであり、PCRが確実に利用できるよう、国家プログラムの履行者やプログラムの資金拠出者によるあらゆる努力が必要となる。

遅れる治療の進歩

多少の進歩はあるものの、現在、成人と子どもとでは受けることが可能な治療の選択肢に大差がある。米国食品医薬品局は成人用には22種類のエイズ薬を認可しているが、そのうち8種類は子どもへの使用が認可されておらず、9種類は小児用製剤が存在しない。

製薬会社は特に子どもの治療については計画をなかなか進めない。最初の小児用多剤混合薬(FDC:複数の薬を1つの錠剤化して治療を簡素化したもの)が、世界保健機関(WHO)に認可されたのは、成人用FDCの開発から6年後だった。現在でもこれがWHOに認められている唯一の小児用FDCである。これに対し、成人用には42種類が認められている。

小児用の薬はもっと存在し得るのだが、子どもへの使用を研究するためには気が遠くなるほどの時間が必要なのだ。この研究プロセスのスピードアップが必要である。現状では子どもへの治療の選択肢が少なすぎる。ある種類の抗レトロウイルス薬に耐性が生じた場合、成人には代替薬が存在するが、子どもには有効な代替医療が不足している。

さらに、HIV患者にとって最も一般的な日和見感染症である結核(TB)に二重感染した低年齢幼児に有効な治療が至急必要とされている。例えば、エファビレンツ(アメリカで1998年に登録された抗レトロウイルス薬)は3才未満の子どもへの使用について安全性および有効性のデータがまだない。エファビレンツは結核の薬との相互作用がないため、結核と二重感染しているHIV/エイズの子どもには特に必要である。しかし小児の臨床試験が行われなければ、この薬が利用可能になることはない。

実生活条件に不適合

限られた数の小児用抗レトロウイルス薬のほとんどが、HIVに感染している子どもの大多数の生活状況にあっていない。シロップタイプのものは重量があることや冷蔵が必要なため運搬上の制限があり、一方、粉タイプのものは浄水に混ぜる必要がある。これらの要因すべてが遠隔地での使用を困難にしている。他の製剤は味が悪く子どもに飲ませるのが難しい。小児用の薬を製造する際には、その薬がどこで誰に使用されるかを考慮する必要があるのだ。

HIV/エイズの子どもたちをこれ以上放置しないために必要なこと

  • 診察の援助:早期治療開始を可能にするため、18か月未満の子どもを診察するための努力と資金拠出を増加すること
  • 治療の改善:政府やその他関係者による、より多くの小児HIV患者治療の開始
  • 小児用治療薬の開発促進:子どもへの治療の選択肢を早急に増やすことが必要
  • 遠隔地の環境上の制限を考慮した小児用HIV製剤の開発

MSFは上記を求める活動を続けていく。


*1 2008年版国連エイズ合同計画:
http://www.unaids.org/en/KnowledgeCentre/HIVData/GlobalReport/2008/2008_Global_report.asp

*2 WHOのプログレスレポート「全ての人々に必要なサービスを:保健サービスの中で優先されるべきHIV/エイズ関連サービスを強化するために」p.95

*3 Parreño F、Nyathy M、Palma PP、Roddy P、Alonso E.著 『Analysis of clinical and immunological outcomes of an HIV positive paediatric cohort treated at Mpilo Hospital in Bulawayo、Zimbabwe [abstract]』IAC 2008、メキシコシティLBPE1155

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