コラム  
平野貴也
スポーツナビ

長洲未来、悔し泣きで決意「絶対に全米勝つ」
GPシリーズNHK杯、女子シングル

2008年11月30日(日)
「全米選手権チャンピオン」の肩書きを背負って挑んだ初めてのグランプリシリーズでは結果を残せなかった長洲
「全米選手権チャンピオン」の肩書きを背負って挑んだ初めてのグランプリシリーズでは結果を残せなかった長洲【坂本清】

 悔しさに耐え切れず、濡れた頬が震えた。長洲未来は「こんな演技はもうしたくないので、この悔しい気持ちでナショナル(全米選手権/09年1月予定)に行って、絶対に勝って世界選手権(09年3月米国・ロサンゼルス予定)に行きたい。絶対、絶対にクリーンなジャンプと、スタミナと、きちんとした演技で戻ってきます」と言い切り、世界選手権での巻き返しを誓った。長洲は、米国在住だが両親は日本人で日米両国の国籍を持つ。今年1月、まだジュニアの年代でありながら14歳という史上2番目の若さで全米選手権を優勝。今季は浅田真央(中京大中京高)らシニアのトップクラスとの対決が注目されていた。初出場のNHK杯は、ショートプログラム、フリースケーティングともにジャンプのミスが目立って8位、9位(総合8位)。並の選手なら決して悪くない成績だが、彼女にかかる期待を考えれば惨敗と言うべきだろう。

■ジャンプは壊滅、後半はスタミナ切れ

ジャンプのタイミングがあわず転倒するシーンも
ジャンプのタイミングがあわず転倒するシーンも【坂本清】

 今季初戦のスケートアメリカでは、世界選手権のメダリストがズラリと揃う中、ショートプログラムは4位と能力の高さをのぞかせたが、フリースケーティングで7位に沈んだ(総合5位)。NHK杯でもジャンプにはキレがなく、スタミナも不足したままだった。ショートでは冒頭の3回転ルッツで、いきなり「パンク」。踏み切りのタイミングが合わずに1回転となった。続く3回転フリップも回転不足。その後は持ち直したが、フリーで再び悪夢が待っていた。一つ前の滑走者の採点を待つ間に数回、リンクでアクセルジャンプの感覚を確かめたが、ダブルを跳ぶと転倒するなど振るわない。前半からジャンプは目に見えて回転不足となり、後半はコンビネーションを跳ぶことができなかった。
 不調は、身体の急激な成長に一因がある。身長が伸びるなど体のバランスが大きく変わり、ケガをしたわけではないのに、右の足首が痛むようになった。夏は練習を控え気味になり、滑り込みが不足。練習を再開してもジャンプを跳べば足が痛む。スケートアメリカのあと、スケート靴が理由ではないかと考えて新しい靴を用意したが、結局は気休めでしかなかった。成長期ならではの、避けては通れぬ苦しみに直面しているのだ。

■言葉の節々に見えた「自分自身と戦える強さ」

再び輝きを取り戻すべく再起を誓った
再び輝きを取り戻すべく再起を誓った【坂本清】

 グランプリ・シリーズは今季が初出場で「他の選手がすごくて、自分がベストだと思うことができなかった」と言う。調整不足もあり、試合前から不安を抱えていた。だから、思っていたとおり、いや思っていた以上に体が動かないのは当然だった。それでも、ショートでは演技直後に首をすくめ、手のひらを上へ向けて「ダメだわ」とジェスチャーでおどけることで落胆を紛らわせた。取材対応でも、ミスを嘆きながらも「お客さんがすごく多くてビックリ。心から滑ることができて楽しかったし、(スタンドに)『長洲未来』って書かれたサイン(横断幕)があって嬉しかった」と話し、悔しさを笑顔で隠した。フリーでも、氷上ではスタンドから次々とリンクへ投げ込まれる花束の多さに驚いて笑う仕草(しぐさ)も見られた。
 しかし、採点を待つキス&クライでは笑顔が消え、報道陣の前に現れたときには、長洲はもう泣いていた。それでも、目には涙だけでなく力があった。冒頭の「こんな演技はもうしたくない」という言葉の前には「夏休みの間、足が痛いことを理由に練習をサボっちゃった。だからスタミナが足りなくて、すごく疲れてしまった」という自戒の弁があった。スケートに対しての立ち位置を見直したいとも話した。自分に言い訳を与え、不安から逃れようとした結果、最も望まない結果を招いた――そんな自分自身への怒りがこみ上げていた。

「真央ちゃんみたいにすごくなくても、スケートが大好きだっていう気持ちで滑って絶対に勝ちたい」と打倒浅田を宣言
「真央ちゃんみたいにすごくなくても、スケートが大好きだっていう気持ちで滑って絶対に勝ちたい」と打倒浅田を宣言【坂本清】

 不甲斐(ふがい)なさを嘆くことは誰にでもできるが、弱い自分の非を認め、堂々と向き合うことは難しい。だが、おそらく彼女は乗り越えてくるだろう。何より、女王の名を出した一言には、巻き返しへの誓いにかける思いの強さが詰まっていた。
「(浅田)真央ちゃんみたいにすごくなくても、スケートが大好きだっていう気持ちで滑って絶対に勝ちたい」
シーズン後半、プライドの矛先を自分自身に向けた才能は、どんな巻き返しを見せるのだろうか。長洲は、およそ週に一度、ロサンゼルスのステーブルセンターを横目に見ては、その場所で3月に開催される世界選手権への想いを強めるという米国へと戻って行く。


<了>

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