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【主張】元次官宅襲撃 動機解明し迅速な公判を
社会に大きな衝撃を与えた元厚生次官ら連続殺傷事件は、小泉毅(たけし)容疑者の再逮捕で、本格的な事件解明の捜査に移る。
これまでの警察当局の調べで、犯行は小泉容疑者の単独で、それを裏付ける物証や供述もそろっている。しかし、犯行の核心である背景、動機について、「飼い犬を処分され、そのあだ討ちのため決行した」という供述には、不可解さがぬぐえない。
小泉容疑者は、先月22日夜、車で東京・霞が関の警視庁本部に出頭し、「厚生次官はおれがやった」と供述した。警視庁は車に10本の刃物を所持していたことから、まず同容疑者を銃刀法違反容疑で逮捕、元次官らの襲撃事件を追及してきた。
4日、同法違反容疑の勾留(こうりゅう)期限であるため捜査当局は、さいたま市南区の元厚生事務次官、山口剛彦さん夫妻に対する殺人と、東京都中野区の吉原健二さんの妻への殺人未遂容疑で一括逮捕した。
都道府県にまたがる事件で、警察当局が一括逮捕に踏み切るのは異例といえる。検察当局は、起訴前に小泉容疑者を鑑定留置し、正式な精神鑑定も行うという。
これらの措置は、来年5月21日から始まる裁判員制度を見据えたもののようだ。2事件を一括逮捕することで、迅速で的確な捜査を目指すものと理解できる。また、起訴前の精神鑑定も妥当な判断であろう。
これまでは、公判になってから、弁護側から精神鑑定の請求が出され、鑑定結果をめぐり検察、弁護側双方が激しく争った。これが裁判長期化の原因だった。
裁判員裁判がスタートすれば、一般の国民から選ばれた6人の裁判員が刑事裁判に参加するため、公判の長期化は許されない。小泉容疑者は、周到に計画して凶行に及んでおり犯行当時、十分に責任能力はあった、というのが捜査当局の見方である。
精神鑑定は多くの日数を要し、また、初公判前に証拠を絞り込む公判前整理手続きなどの準備もある。このため、今回の事件の裁判が実際に始まるのはかなり先になるとみられる。
小泉容疑者は逮捕当時から、一貫して34年も前の保健所での犬の処分に怨念(おんねん)を抱いていたという供述を変えていない。しかし、これがなぜ、元厚生次官宅襲撃にまで発展したのか。捜査当局の説得力ある解明を待ちたい。