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NIKKEI NET

社説1 大幅利下げでも懸念ぬぐえぬ欧州経済(12/5)

 ユーロ採用15カ国の金融政策を担う欧州中央銀行(ECB)と英国のイングランド銀行(BOE)が4日、先月に続く政策金利の引き下げを決めた。ユーロ圏は0.75%低い年2.5%、英国は1%低い年2%となる。異例の大幅利下げとなるが、欧州経済は金融機関の信用収縮と実体経済の落ち込みが連鎖しており、先行きの懸念はぬぐえない。

 欧州連合(EU)の欧州委員会は今後2年間で総額2000億ユーロ(約24兆円)に上る経済対策を加盟国に提示した。財政出動や税制の優遇策を実施するよう促してはいるが、財政政策は各国の裁量に委ねられ、最近は足並みの乱れも目立ってきた。欧州の混乱を世界の不安要因にしてはならない。各国の緊密な協調と積極的な政策出動を求めたい。

 ユーロ圏の域内総生産(GDP)は7―9月期に前期に続くマイナス成長となり、1999年の単一通貨導入後で初の景気後退となった。欧州経済は三重苦に直面している。

 まず最大の米国経済が金融危機で急激に冷え込んだ。第2に地理的に近く成長も活発だったロシアや中・東欧圏の落ち込みがある。主軸国のドイツがマイナス成長に陥ったのはこれらの要因が大きい。

 さらに、域内の信用収縮が止まらない。有力な金融機関が証券化商品などの投資で巨額損失を出し、資金の流れがとどこおった。英国やスペインでは好況期に膨らんだ住宅バブルの崩壊が深刻になっている。

 ECBが0.75%の金利変更をしたのは初めてだ。英国は先月の1.5%幅に続く利下げで、政策金利は300年を超すBOEの歴史で最低水準に並ぶ。スウェーデン中央銀行も4日に1.75%の利下げを決めた。欧州の中銀が景気悪化に対する強い危機感をそろって示した。

 利下げ後も一般企業の資金調達が一段と悪化する懸念はなお残る。ECB理事の一員であるノワイエ・フランス銀行総裁は「資本注入による貸し渋り防止」を強調した。中央銀行の危機意識は相当に強い。

 ところが、経済や金融の安定策では、欧州主要国間に温度差も表れた。欧州委が景気刺激策に掲げた付加価値税率の一時的な引き下げは英国が真っ先に実施したが、ドイツなどが極めて否定的だ。金融機関への資本注入でも、健全行を含めて幅広く実施したフランスと、最大手行に注入しないドイツの違いが目立つ。

 欧州の危機対応は結束がカギだ。固有の事情を乗り越え、各国が違いを埋める努力をしないと、市場に足元を見透かされかねない。

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