来年度の社会保障費の伸びを2200億円削減する財源として、雇用保険の国庫負担廃止が検討されている。雇用保険の保険料積立金が5兆円近くたまっているのに着目して、約1600億円の国庫負担を廃止するというのだ。
雇用保険制度は労使の保険料と国庫負担で運営され失業手当の支給や職業訓練などを行う仕組みだ。税負担の廃止は国が雇用・失業政策の責任を放棄することを意味する。これによって雇用保険は公的な制度から労使の保険料だけで運用する「民間保険」に変わってしまう。
自民・公明両党は3年間で100万人の雇用を支えるための対策として約1兆円を雇用保険の積立金から投入する方針を固めた。しかし、その一方で、国庫負担を廃止するというのであれば、政策に一貫性を欠くことになる。
財務省は5兆円近い雇用保険の積立金を当てにしているようだが、これは労使の保険料を積み立てたものだ。国庫負担の廃止には、労使も強く反対している。
国庫負担問題の前提となる社会保障費の2200億円削減については、与党内にも3年間凍結の議論が出ている。医師不足や介護人材の処遇改善など、山積する課題を考えれば、2200億円の削減はやめるべきであり、そうなれば国庫負担廃止の必要もなくなる。
93年度にも積立金が5兆円近くあったが、その後の不況で失業者が増え、02年度には4000億円にまで激減した。最近の雇用情勢をみれば、積立金を当てにした国庫負担の廃止は先が読めない安易なやり方だと言わざるを得ない。
派遣社員、期間工の契約解除や雇い止めが急増、正社員のリストラも始まっている。待ったなしで雇用対策を実行するのが政治の責任だ。失業者が増加すれば、雇用保険の積立金を使って緊急に対応することになる。この時期に雇用保険の国庫負担を廃止すれば、政府への信頼が失われる。
今、必要なことは、失業者を増やさないための雇用対策を素早く講じること、そして失業してしまった人たちの暮らしを支え、一日も早く再就職ができるよう支援することだ。積立金は不況に備えるための「国民の貯蓄」であり、社会保障費の伸びを抑制するために使うものではない。国庫負担の廃止には問題が多く、反対である。
与党の対策には、非正規社員にも雇用保険の適用を拡大する案などが盛り込まれた。現行制度では「1年以上、雇用が見込まれる人」などが加入要件だが、これを「6カ月以上」にする案が示されている。加入要件を満たしていない非正規社員は最大で1006万人と推定されている。本来なら、もっと早く見直すべきだったが、今からでも速やかに見直し、雇用のセーフティーネットを拡充すべきだ。
毎日新聞 2008年12月5日 東京朝刊