米国の大胆なまでの金融危機対応に、危険な薫りを感じる。今日の米国は大恐慌以来の危機にあるとの認識に立つFRBは、目標の1%を大きく下回る政策金利を放置し、最大8千億ドルにのぼる直接的な金融商品の買い取りによって、市場に大量の資金供給を図る。事実上、既に量的緩和に入った。
バーナンキFRB議長の持論は、「大恐慌はFRBの失政によって生じたもので、FRBが舵(かじ)取りを間違わなければ経済恐慌は回避できる」というもの。また彼は、かつて日本がデフレに陥った際、日銀に「株でも不動産でも、買えるものは何でも買え」といって帰った。今まさに自説を実践しているわけだが、いくつかの問題がある。
まず、異常な金融緩和のもとで生じた証券化バブル、住宅バブルがはじけ、経済が苦境に陥ったからといって、再び異常な金融緩和を行っても、はじけたバブルが元に戻るわけではなく、いずれまた別のバブルが発生するリスクがある。ITバブル崩壊後の金融緩和がITではなく、住宅や証券化商品のバブルを形成したように。
そもそも異常に高騰した価格が自律的に修正されようとするところへ、政府の介入で高止まりさせることが妥当かつ可能なのか。90年代の日本が「失われた10年」といわれる経験をしたのは、日銀の対応が小出しで遅すぎたためか、はたまた異常に高まった資産価格が収まるところに収まるまでは済まなかったためか、まだ検証されていない。
FRBの資産は秋以降2倍以上に膨張し、その内容も劣化、資本不足に陥っている。中央銀行の信認が低下するとドル下落や金利上昇の副作用もでる。日銀は安易に米国に追随すべきでない。(千)