国内の幼児(1〜4歳)死亡率が先進各国に比べ高い背景に、小児科常勤医が重症児に対応する小児専門の救命救急機関の不足があることが、厚生労働省研究班がまとめた調査結果で明らかになった。身の回りに潜む事故に見舞われたり、容体が急変したりする、予測不可能な幼い命を守る医療体制の整備が急がれる。(中島幸恵)
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厚労省研究班(主任研究者・池田智明国立循環器病センター周産期科部長)によると、日本の幼児死亡率は先進13カ国に比べると、特に高い傾向が見られるという。これまで原因の分析や対策が進んでいなかったため、研究班は平成17、18年に死亡した全国の1〜4歳児の死亡小票(こひょう)を集めて分析。今月、中間結果を報告した。死亡小票は厚労省が行う人口動態調査のため、死亡診断書をもとに自治体が死亡者の住所や死因などを記録したもの。
中間報告によると、交通事故や転落といった不慮の事故で死亡する割合が最も多く、全体の4割に上る=図1。さらにウイルス感染による肺炎、脳症など一刻を争う急病が続く。
これらの事故や急病と死亡場所の関係を分析すると、小児科医だけでなく各科の応援を受けた緊急の救命措置が必要でありながら、こうした態勢が整った中核病院(大学病院や小児専門病院)に搬送されないまま死亡したとみられる子供が、非常に多いことが浮かび上がった=図2。
死亡率上位の愛媛、秋田、山口など7県には重症患者を受け入れる小児集中治療室が整備されていないことから、地域格差も心配される。
調査に当たった大阪府立母子保健総合医療センターの藤村正哲総長は「重症の幼児を迅速かつ専門的に治療できる救急医療体制が、日本は遅れており、これが高い幼児死亡率につながることが証明された。大学病院や小児専門病院を中心に、重症患者を集約して優先的に使用できる集中治療センターを全国に整備し、幼児に精通した医師を常勤させることが急務」と指摘する。
今回の調査では、虐待が原因とみられる死亡例の死亡小票の多くが不明であることから、死亡診断書の不備といった問題点も浮き彫りになった。
班員の一人で東大大学院医学系研究科の渡辺博講師は「調査した死亡小票では、死因が空欄だった事例が100以上もあった。虐待で命を落とした子供は、実際は公表されている倍以上いるのではないか」と指摘。死因を「病死」とした中には、傷害など外的要因が疑われる事例があっても、死亡との因果関係を明らかにする調査まで行われていないのが実情という。
渡辺講師は「子供の死、親の悲しみを無駄にしないよう、病院、警察といった関連機関は死因の背景を公表し、社会全体で悲惨な幼児死亡を少しでも減らすようにしたい」と話している。
■専門医常勤は42%
東京都杉並区で平成11年、4歳の男児が割りばしがのどに刺さって死亡した事故で東京高裁は20日、業務上過失致死罪に問われた医師に対し、1審に続き無罪を判決した。
割りばしが脳まで達していたにもかかわらず、当直だった医師の専門が耳鼻咽喉科だったため、必要な治療が行われないまま死亡した。事故は小児救急体制の不備を社会に問いかけたが、10年近くたった今でも改善は十分進んでいない。
日本救急医学会の小児救急特別委員会が、今月初め公表した全国の救命救急センターを対象にした調査結果でも、回答した138施設のうち、日本小児科学会が「専門医」として認定した小児科医が常勤しているのは42パーセントにとどまっている。
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