世界規模の景気悪化で日本経済の冷え込みが一段と厳しくなる中、日銀は臨時の金融政策決定会合で、新たな企業の資金繰り支援策を決めた。
資金需要が膨らむ年末・年度末をにらみ、金融機関に政策金利の水準で年度越えの資金を供給する措置を導入することなどが柱だ。融資促進に三兆円規模の資金供給を見込んでいる。
日銀が大規模な企業の資金繰り対策に乗り出すのは、不良債権問題が深刻になった一九九八年以来、十年ぶりである。米国発の金融危機で国内企業の資金調達が厳しさを増してきたことが決定を促したといえよう。
企業は銀行からの借り入れのほか、社債やコマーシャルペーパー(CP)を発行して市場から直接、資金を調達している。金融危機を受けて金融機関が貸し出しに慎重な態度を見せている上、信用不安から社債やCPを引き受ける投資家が激減。企業金融を取り巻く環境は悪化している。
日銀の支援策は、金融機関への資金供給を拡大し、貸し出し余力を高めることで、企業に資金が流れやすくする効果を狙ったものだ。
具体的には、社債などの担保の範囲内であれば金額に上限を設けない新たな低金利の貸付制度を来年一月から設ける。また、金融機関から受け入れている担保基準も緩和し、社債と貸出債権の基準を今より低い格付けのものまで拡大する。いずれも来年四月末までの時限措置だ。
ただ、日銀が金融機関への資金供給を増やしても、資金繰りが苦しい企業の手元に資金が回るかどうかは不透明だ。市場の疑心暗鬼を取り除き、企業への資金調達が円滑に進むよう、政府、日銀は歩調を合わせ、万全を期してほしい。
商工中金や日本政策金融公庫の先月末の調査では、中小企業の景況感は過去最悪の水準に落ち込んでいることが分かった。大手銀行などは、融資先の経営悪化で不良債権が膨らんでおり、中小企業への融資に及び腰なのが実情だ。日銀の支援策だけでは、企業金融の環境改善にも限界があろう。
金融機能の改善には、資本増強が欠かせまい。金融機関に対する予防的な公的資金投入を可能にする金融機能強化法改正案の成立を急がねばならない。追加経済対策の裏付けとなる本年度第二次補正予算案は、麻生太郎首相の政局的な判断から来年に先送りされた。政府、日銀はさらに連携を深め、実体経済の悪化に歯止めをかける施策を迅速に打ち出していくことが求められる。
オバマ次期米大統領は、国務長官にヒラリー・クリントン上院議員を起用すると発表した。大統領選挙の民主党候補指名争いで、歴史的な激戦を争ったライバルである。まさにサプライズ人事といえよう。
クリントン氏は、前大統領夫人として内外で知名度が高く、オバマ氏は「米国の外交の刷新を象徴する」人事と強調した。ロバート・ゲーツ国防長官の留任にも驚いた。共和党政権に仕えてきた人である。ベトナム戦争以来四十年ぶりという戦時下の政権交代を円滑に進めるのが狙いという。
予備選で党内の支持を二分したクリントン氏を重要閣僚に据えることに、挙党態勢構築の狙いがあるようだ。国防長官の留任には党派を超えた支持獲得も見込まれる。大胆な人事の裏に、したたかな計算がうかがえる。
半面、オバマ氏のキャッチフレーズの「変革」というカラーは薄まろう。豊富な経験や知名度に、一定の信頼は得られるかもしれないが、オバマ氏がどう指導力を発揮するかが問われてこよう。
注目はやはりクリントン氏だ。選挙戦ではオバマ氏の外交方針を批判した。今後も政策面で対立する事態も予想される。
日本にとっても気掛かりだ。共和党に比べて民主党の知日派は少ないといわれる。クリントン前政権下の「ジャパン・パッシング(日本軽視)」が再燃し、米国の関心が中国に向かうとの懸念もある。
オバマ氏は記者会見で、国際テロ組織の掃討を最優先で取り組む姿勢を示した。アフガニスタンでの「テロとの戦い」で、日本はインド洋での給油活動のほか、さらなる貢献を求められる可能性がある。日本政府は新政権との関係構築に、腰を据えてかかることが必要だ。
(2008年12月4日掲載)