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家族思いの父親がなぜ? 新潟・長男殺人未遂、7日判決

2008.10.7 02:42

 今年2月、新潟市の住宅街で、父親(51)が心を病んだ長男(18)の将来を悲観し、殺害を図った事件があった。長男は昏睡(こんすい)状態に陥り、回復の見込みは立っていない。家族を一番大事にしてきた父親は、なぜ最愛の息子に手をかけてしまったのか。注目の判決は7日午後1時15分から、新潟地裁で言い渡される。(永岡栄治)

 「私の独り善がりの考えで誤った行動をしてしまい、たくさん可能性があった息子の将来を奪う、とても重い罪を犯してしまった。おわびの言葉が見つかりません。これから一生かけてこの罪を償いたい」

 9月9日に開かれた論告求刑公判の最後に、小柳久被告(51)はうつむきながらも、しっかりとした声で今の心境を述べた。

 小柳被告に対する求刑は周囲の予想を上回る懲役8年だった。

 裁判で半田朋大検察官は、精神衛生診断の結果から小柳被告が犯行時に完全責任能力を有していたと主張したうえで、「極めて強固な殺意に基づいた執拗(しつよう)かつ危険な犯行」と厳しく指弾した。

    ◇   ◇

 小柳被告は高校を卒業後、電力会社に入社。独学で英語を勉強し、英語能力テスト「TOEIC」で850点を挙げ、会社でも順調に出世街道を歩んでいた。秋田県に単身赴任した際は毎週末、片道300キロを5時間かけて帰省し、家族との時間を過ごしてきた。

 「とても仲の良い家族だった」「週末はいつも車で出かけていた」。事件発生後、近所の人に尋ねると、誰もが「信じられない」と口をそろえて絶句した。

 だが、周囲の知らないところで悲劇は進行していた。

 昨春、県内有数の進学校に入り寮生活を送っていた長男は級友との人間関係に悩み、6月から不登校となり、11月に休学。拒食と過食を繰り返し、次第に精神を病んでいった。

 小柳被告は長男を治そうと、ドライブ旅行や犬の散歩に連れ出し、精神科医の診察を受けさせた。だが、長男は2度の自殺未遂を繰り返す。

 担当する岩渕浩弁護士によると、長男は正常な精神状態のときには「お父さん、もう限界だ。治してくれるって言ったのに全然ダメじゃないか。こんなに苦しいのは嫌だ。助けてくれ」などと、悲痛な叫びを上げていたという。

 今年1月下旬、小柳被告は長男を伴って精神科医に診せると、「摂食障害および強迫神経症の疑いあり」と診断された。統合失調症の治療にも使用される比較的効き目の強い向精神薬も処方された。

 この際、小柳被告は精神科医に治る見込みがあるかを尋ねていない。後日、岩渕弁護士が医師に確認したところ、医師は「治る見込みはあった」と答えている。だが、小柳被告は30代でパニック障害を発症した際に精神科医の応対や薬の処方に納得できず、最後は自分の力で治した経験から、精神科医に根強い不信感を持っていた。その不信感が、悲劇の引き金を引いてしまった。

   ◇   ◇

 2月8日、長男は自宅の壁を壊して暴れ、両親を激しく罵倒。小柳被告は「治る見込みのない長男を苦しみから解放し、自分も死のう」と決意する。翌朝、寝ていた長男の頭部をゴルフクラブで数回強打。さらに長男が首に巻いていたマフラーで5分以上、首を絞め続けた。犯行後、小柳被告は川に飛び込んで自殺しようと、血の付いたパジャマのまま自宅を出て、警察官に職務質問を受けた。

 逮捕直後、岩渕弁護士の接見に対し、小柳被告は「本人と家族のためにやりました。これしか選択肢がなかったんです」と、確信犯だったことを明かした。

 3人の男児を持つ岩渕弁護士は小柳被告の歩んだ苦悩の道を知ってほしいと切々と訴える。「家族を愛する被告が、愛するが故に行った事件。そこに、この事件の悲劇性がある。そのことが、わずか3回の公判でどこまで裁判官に伝わっただろうか…」

 弁護側が請求した小柳被告の情状鑑定は却下された。

 国民が司法に参加する裁判員制度が来年5月21日から始まる。自分が裁判員ならどう裁くだろうか。重い問いが心に残った。

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