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「不法滞在外国人」という言葉からどんな人たちを思い浮かべますか? 日本語を解さず、日本人と交流せずに同国人だけで駅や街角にたむろし、怪しげな言葉を交わしている、ちょっと怖そうな男達、あるいは夜の繁華街で働き、時には悪い病気ももたらす女達、今日はここに住んでいても明日にはどこに行ってしまうか分からない、定着性のない人たち、といったイメージを持っている人も少なくないかも知れません。
それでは、こんな「不法滞在外国人家族」をイメージできるでしょうか? 彼と彼女は国籍が違いますが、日本で結婚して、2人の子どもがいます。上の男の子はもう小学校に通っていて、長いまつげと彫りの深い顔立ちでクラスの女の子の人気者です。下の女の子は保育園ですが、愛くるしい顔立ちはとりわけ目立ち、お母さん達の羨望の的でもあります。お父さんは内装工事会社で働いていますが、社長からいくつもの現場を任され、「彼がいないと現場が動かない」と厚い信頼を受けています。お母さんもパートで働いていますが、PTAや保育園の父母会にはなるべく参加して、子ども達のことを知ろうと努力しています。まだ漢字が読めないので学校や保育園の配布物の内容がよく分からないことがありますが、そんなときは他のお母さんや近所の日本人の人に読んでもらっています。2人の悩みは、子ども達がどんどん日本語が上達し、自分たちが付いていけなくなることです。
これは、私のクライアントでありまた友人でもある不法滞在の外国人家族の一例です。こういう家族をたくさん知っている私は、不法滞在と聞いても別に驚きもしないし顔をしかめることもありません。不法滞在は彼らの生活の一側面に過ぎず、最も本質的な事柄ではないことを理解しているからです。

クライアントの子どもと。ちなみにこの子も少し前までは『不法滞在外国人』でした。
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いまの社会には、外国人にとって在留資格は日本における全ての権利の淵源であり、在留資格を持たない不法滞在外国人には一切の人権が認められないかのような空気があります。しかし不法滞在とは法的には単に「在留資格がない」ということにすぎず、それ以上の意味はありません。在留資格を規定している入管法は、もちろん憲法の下位にありますから、外国人に対する人権保障は在留資格の有無によっては差別されないのが原則です。また、入管法は運転免許について規定する道路交通法や、生活保護法、国民健康保険法、その他多くの法律との間に一切の優劣の関係はありません。ですから、在留資格が法律上の要件となっている場合を除いて、「在留資格がないから権利が認められない。」という言い方は明らかに誤っているのです。
しかも、在留資格の有無は非常に重要なことのように思われがちですが、実は全然本質的なことではなく、極めて政策的な事柄なのです。ちょっと乱暴な例かも知れませんが、自動車運転免許の取得年齢を20歳以上とするか18歳以上とするかというのと基本的には変わりません。
「不法滞在」という言葉が、その本来の意味である「在留資格がない」という内容を超えて「日本社会にとって害悪であり排除されるべきもの」というイメージを持たされていることについては、多分に国の意図的な方向付けがあることは明らかです。しかしそれでも、私のように「不法滞在? いいじゃない、頑張って生活してるんだから」という人間がいるのは、やはり実社会で生活する生の人間を知っているからなのです。政治家(事実を知ろうとしない)か官僚(事実を覆い隠そうとする)になるのでない限り、みなさんも是非、生の事実から出発して頂きたい、と思うのです。
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◆近藤博徳(Hironori KONDO)さんのプロフィール
1963年生まれ。1985年、中央大学卒業。1991年、弁護士登録。TOKYO大樹法律事務所に所属。外国人や難民に関する事件を精力的に手がけている。
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