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天声人語

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2008年12月2日(火)付

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 〈ちょっと待ってよ郵便屋さん。その鞄(かばん)に私あての手紙がないかよく見てちょうだい〉。米ポップスの名曲「プリーズ・ミスター・ポストマン」は、恋人の便りを待ちわびる思いを軽快に歌う。届くのは、しかし、待ちわびた郵便物だけではない▼その大型封筒が届いた人は、何かと落ち着かない年の瀬になろう。裁判員候補の通知である。来年の候補は約29万5千人。有権者352人に1人の勘定だから、大きめの旅客機に1人というところか。それでも、当たるときには当たる▼国民のほぼ8割が裁判員になるのを尻込みしているそうだ。面倒くさい、人様を裁く自信がないなどの理由のほか、国に何かを強いられることへの抵抗もあるはずだ。実際、制度には多くの「べからず」が潜む▼候補になったことさえむやみに明かせず、裁判所の呼び出しは無視できない。評議の内幕を漏らせば罰せられる。仕事の都合で辞退するには〈重要な用務で、自分で処理しなければ著しい損害が生じかねない〉ことが条件だ▼とはいえ効用の方にも注目したい。裁判員に求められるのは、ともすれば法の専門家が忘れがちな生活実感と、判例や上級審の意向にとらわれない目である。もともとプロに足りない部分を期待されているのだから、素人丸出しで、遠慮せず物を言えばいい▼泣いても笑っても来年5月から、司法改革の一端を国民が担う。そこを実感できる仕組みに練り上げてゆけば、初冬の頃、身を引き締めて郵便受けをのぞく姿が風物詩になろう。やるからには、そうありたい。

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