<毎日新聞大阪発行120年>
女子マラソンの高橋尚子選手、阪神タイガースの主砲・金本知憲選手、米大リーグで活躍するタンパベイ・レイズの岩村明憲選手……。契約アスリートのブランド力を生かして業績を伸ばしてきたのがスポーツ・健康用品のファイテン(京都市中京区)だ。トップアスリートと二人三脚で進める、同社のスポーツビジネス戦略とは?【岡田功】
05年11月の東京国際女子マラソン。右脚の肉離れを抱えながらも2年ぶりのフルマラソンで見事復活優勝を成し遂げた高橋選手のユニホームにはファイテンのロゴが、首には同社の「RAKUWA」ネックレスが光っていた。
高橋選手はその年の春、育ての親、小出義雄監督から独立するに当たり、サポートしてくれる企業を探していた。個人チームを作るために必要な経費は年間約1億円。同社は高橋選手の国民的な人気とメディアへの露出度に注目し、4年で総額6億円の契約金を提示。6月、所属選手に決まった。
関係者によると、同じように契約を申し出たのはほかに4社。金額だけならファイテンよりも高額の契約金を提示した会社もあったようだ。しかし、まだ無名だった学生時代から同社のネックレスなどを愛用していた高橋選手の意向が大きく働いたのだという。
同社の商品は独自開発の素材アクアチタンを使っており、「RAKUWA」ネックレスのほか、手首やひじなどを保護するサポーター、体に張るテープ、Tシャツ、枕など多岐にわたる。金属のチタンを独自技術を使って超微粒子化し、水中に分散させたものだと言い、身に着けるだけでリラックス効果があるとスポーツ選手の間で人気が出た。国内に160店舗、海外に5店舗の専門ショップを展開する。
「スポーツ選手の口コミで自然に商品が浸透していった。最初は有名選手の知名度を利用してビジネス展開する考えはなかった」と平田好宏社長は語る。
ネックレスの愛用者、阪神タイガースの金本選手との関係は、阪神へ移籍前の広島カープ時代にさかのぼる。専属のトレーナーを派遣する代わりに商品に対するアドバイスをもらっていた。阪神へ03年に移籍後、金本選手は18年ぶりのリーグ優勝に貢献。「試合でも商品を身に着けてほしい」「商品の感想を宣伝物に利用したい」と要望し、正式に契約書を交わした。このような契約アスリートは現在約20人。全員が商品の愛用者といい、言葉の端々に出る本音や感想が広告以上の効果を生み出す。「一般消費者は今や広告ではなく、ブログの書き込みの方を信用して商品の購入を決めている。有名選手といっても“言わせる”広告では消費者にはメッセージが届かない」が持論だ。
一方、同社はローカルマラソン、ビーチバレーボールなどのマイナー競技を支援するため、大会のスポンサーにもなった。
04年からはスポーツ用品大手のデサントと商品の共同開発に乗り出し、ウオーキングシューズを販売中。別の会社とも時計、ベッド、オフィスグッズなどの共同開発を行っている。
また昨年は米大リーグと認証ライセンス契約を日本企業で初めて結び、全30球団のロゴが入ったネックレス、ブレスレット、テープの3種類の認定グッズを全米中心に販売している。
「子供たちのあこがれの存在であるスポーツ選手は“演技者”ではない。だから『いいものはいい』と素直に反応するし、その発言には真実があり、影響力がある。彼らを支える企業としてのイメージを消費者に伝えたい」。トップアスリートとのタイアップはそのような戦略に基づいている。
◆私の提案
「京都」と「阪神タイガース」こそ関西の財産。大事にすべきだと思います。
京都発祥の企業には独自技術でキラリと光るところが多いんです。ワコール、京セラ、堀場製作所、ローム……がその代表格。特殊なものを生み、育てる土壌なのかもしれません。
当社も京都発のベンチャー企業としてスタートしましたが、類似商品もなく当初はなかなか受け入れてもらえませんでした。しかし、ベンチャー精神あふれる京都の商品という形で理解されるようになりました。それに「紅葉の季節です」と取引先を誘うと、とても喜ばれます。古都京都の存在そのものが企業活動には大きなメリットです。
京都は商圏が狭く、物も売りにくい場所なんです。でもその環境がかえって首都圏への進出を急がせ、知名度を高める結果につながるのでしょう。
一方の阪神タイガース。ネックレスを阪神の金本選手に愛用していただき、球団の他の選手に広がってから、知名度が大きくアップしました。全国区の人気ですし、とにかくファンが熱いですから。
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会社設立 1983年/従業員 329人
売上高 155億8700万円(08年4月期)
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■人物略歴
1953年京都府生まれ。府立峰山高校卒。治療院経営などを経て83年にソフト(現ファイテン)設立、社長。
毎日新聞 2008年11月18日 大阪夕刊