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2008年12月4日

◎ビッグ3再建 どっちに転んでも歴史的決断

 経営危機から公的資金による救済を政府に求めている米自動車産業のビッグ3(ゼネラ ル・モーターズ、フォード・モーター、クライスラー)がトップの年俸を一ドルにするなど経営陣の報酬カットや車種削減を含む再建計画を連邦議会に提出した。十一月の公聴会で約三十七億円もする高価な自家用機で乗り付け、手厳しく批判され、決定が延期されたことにこりたのだろう、各トップは今度は自社の車でワシントン入りするそうだ。

 それはともかく、政府は民間企業のテコ入れをしないのがアメリカの伝統であり、決定 が極めて注目される。「ノー」と決まればアメリカ経済が深刻な打撃を受ける。要するに、どっちへ転んでも歴史的な決断になるとも言えるのだが、ビッグ3が再建計画と引き換えに要求した融資の総額は三百四十億ドル(三兆二千億円)に達し、安易な救済は禍根を残しかねないのである。

 民間企業に介入しないのが伝統とはいえ、金融機関には日本と同じように公的資金を注 入できる。金融機関を救うのではなく、経済の動脈や国民の生活を守るという大義名分があるからだ。

 ただし、例外が二つある。当該企業の破たんで地域経済が崩壊する場合が一つ。いま一 つは軍備の増強など安全保障に関する場合である。ビッグ3についてはまず例外かどうかが検討されるはずだ。経営危機はサブプライムローンに端を発した金融危機によるもので、自動車産業もその被害者であるとされれば議会も政府も助けるだろう。

 が、これはルール破りと言えなくもない。現に共和党のブッシュ政権や議員はそのよう に見て支援に疑問を抱き、支援を決めている民主党の議員やオバマ次期大統領らと対立している。労働者の十人に一人が自動車産業で働いており、ビッグ3が経営破たんすれば三百万人の失業者が出るといわれる。ビッグ3の救済が決まれば、ライバル関係にある日欧の自動車産業との公正な競争がゆがめられ、自動車摩擦の再燃や、モラルハザードにつながっていく懸念がある。今回の危機の深刻さを軽く見てはならないのだ。

◎歴史博物館の整備 軍都施設集約の具体化を

 谷本正憲知事が検討の意向を示した県立歴史博物館のリニューアルは、二〇一四年度の 北陸新幹線開業を考えれば当然、構想に着手していい時期である。「兼六園周辺文化の森」の中核施設としては四月に石川四高記念文化交流館、九月には県立美術館が新装オープンし、順番から言っても次は歴史博物館である。

 整備構想の策定に際して考えてほしいのは施設の機能強化にとどまらず、軍都関連施設 の博物館周辺への集約化である。九師団兵器庫という建物の魅力を生かして軍都の歴史を際立たせることも重要な視点であり、それが施設の求心力を高めることにもなろう。

 兼六園周辺文化施設活性化検討委員会が二〇〇六年にまとめた報告書では、歴史博物館 については隣接する藩老本多蔵品館を博物館内に移転させる案が示された。リニューアルが周辺施設の再配置に及べば、旧陸軍金沢偕行社や第九師団司令部庁舎を歴史博物館から県立美術館に至るゾーンに移築するという検討委の方向性も現実味を帯びてくる。

 これら軍都関連施設の移築は中期的課題とされているが、歴史博物館の整備構想を具体 化させる中で避けては通れないだろう。移築させる場所やその活用方法、実施時期など今後の手順を明示できるよう努力してほしい。

 検討委の報告書では、歴史博物館の課題として展示空間の全面的な見直しや運営体制の 強化、フリースペース確保などが挙げられた。本多の森周辺へにぎわいを呼び込むには、県立美術館とともに歴史博物館が求心力を高める必要がある。企画をマンネリ化させず、新鮮な発想で魅力を引き出さねばならない。

 全国的に自治体が歴史博物館の活性化策に知恵を絞る中、建物自体が国重要文化財とい うのは何よりの強みである。明治、大正期につくられた赤煉瓦の重厚な三棟の建造物に、明治期の洋風建築である金沢偕行社や師団司令部庁舎が加われば、金沢が軍都だった時代を濃密に感じさせる歴史ゾーンが形成され、「歴史都市」としての厚みが一段と増すことになる。


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