政府が09年度予算編成の基本方針を閣議決定した。7月に決めた概算要求基準(シーリング)は原案の「堅持する」から「維持する」に格下げした。景気状況に応じて果断な対応を行うことも明記した。自民党内の歳出・歳入一体改革に基づいた財政再建策の一時的凍結の意向を受けたものだ。
歳出・歳入一体改革やシーリングの維持は掲げつつも、実態は財政再建政策の転換だ。景気を良くするため、需要追加政策を積極的に進めるということだ。
政府や自治体などの公的支出は少なければ少ないほどいいという、小泉構造改革以来の「小さな政府」政策では立ち行かない状況に来ている。政府部門の収支である財政を正当に位置付けることは当然である。日本が需要不足の状態にあることは明らかだ。民間からの需要追加に限界がある以上、政府が財政を通じてその役割を果たすことは経済学的にも正当である。
だからといって、財政再建をなし崩しに見直していく手法は問題である。何でもいいから公的需要を増やせばいいともならない。自民党内の歳出増要求にはばらまき願望があることは間違いない。これは脈絡のない歳出拡大への道である。
加えて、麻生太郎首相の立ち位置も明確ではない。景気最優先を打ち出してはいるものの、その方向にカジを切りきれてもいない。財政健全化路線を挫折させたとみられることへのこだわりがあるのだろう。
混迷予算編成と言っていい状況だ。では、どうすればいいのか。
第一は、従来型の事業は全面的に見直し、国民生活や地域社会維持に必要不可欠な社会資本整備の積極的推進だ。
具体的には、高度成長期に建設された社会インフラの更新や、電線地中化、学校など公共施設の耐震化の前倒し実施がある。環境関連の技術開発や投資促進もある。新しい時代への投資を、景気対策も兼ねて実施するということだ。
第二は安心、安全の実現につながる医療・介護や雇用では予算を惜しまないことだ。基本方針でも重点対象になってはいるが、不十分だ。将来的には国民負担を高めることが課題となるが、まず、国民が政府を信頼できるような社会保障基盤の整備をしておかなければならない。介護予算が増えれば、介護の現場に人も戻ることが期待できる。
こうした施策の実施には相当規模の財源が必要だ。税収が大幅に減少しているため、大半を国債に頼ることになる。そこで、財政規律の維持が欠かせない。景気回復に有益な事業に集中し、歳出構造の転換を図り、同時に、国債増発からの脱出工程も示すべきだ。
有益で、かつ、経済効果も大きい財政支出を使い、景気を良くすることが政策課題だ。
毎日新聞 2008年12月4日 東京朝刊