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クラスター爆弾:一刻も早く廃絶を カペタノビッチさん、被害者支援を訴え

 【オスロ町田幸彦】紛争後も不発弾によって人々の生涯を切り裂くクラスター爆弾を禁止する条約が3日、調印された。粉雪舞い散るオスロ市庁舎にはその式典を見守るクラスター爆弾被害者と支援団体関係者の姿があった。彼らの中からは歴史的快挙をかみしめながら、被害者支援を訴える声が相次いだ。

 ◇両手両足切断、カペタノビッチさん

 署名式にはカンボジア、レバノンなど各地から被害者13人が駆けつけた。

 車椅子に座り、いつも笑顔を絶やさないセルビア人のブラニスラン・カペタノビッチさん。カペタノビッチさんはクラスター爆弾の禁止を目指すNGO(非政府組織)ネットワーク「クラスター爆弾連合(CMC)」の一員として世界各地で条約締結を訴えてきた。

 軍技術者として不発弾処理に携わったカペタノビッチさんは2000年11月、セルビア中部クラリエボで不発弾爆発事故に遭い、両手両足を失った。

 99年の北大西洋条約機構(NATO)軍空爆で投下された米国製クラスター爆弾だったという。計25回の手術を受け、4年間入院した。

 カペタノビッチさんはクラスター爆弾禁止条約の意義について「素晴らしい成果だ。被害者の約9割は民間人だ。しかも大部分は戦時の事故ではない。被害国には経済的に苦しい国が多いので、財政支援を考慮してほしい」と訴える。

 イラク人男性のモアファク・アルハファジさん(45)はつえをつきながら、式典会場を訪れた。91年1月の湾岸戦争の際、イラク南部バスラで米軍空爆によるクラスター爆弾に被弾し、下半身障害を背負う身になった。「国際社会は対人地雷とクラスター爆弾を一刻も早く一掃すべきだ」と語った。

 CMCと連携する「地雷廃絶日本キャンペーン」の内海旬子・事務局長(41)は、クラスター爆弾禁止条約で「被害者支援を1項目に挙げてきちんと位置づけた点は大きな進歩だ。NGOの活動も被害者のための社会システム構築に力を入れたい」と話している。

 ◇国内の議論不足に悔い--国立国会図書館調査員(安全保障)・福田毅氏

 日本は当初、署名に消極的だった。日本と同スタンスだった英仏独が方針を転換し、参加への流れが形成され、日本も加盟せざるを得なくなったというのが実情だろう。

 国内での議論は対人地雷禁止条約の場合と比べ不十分で、廃棄反対派には不満が残った。賛成派は「より積極的な役割を果たすべきだった」と主張するが、防衛上の重要性を考えれば、早期の態度表明は難しかった。

 日本の防衛はクラスター爆弾だけに依存しているわけではないが、一定の防衛力低下は否めず、代替兵器開発が必要になる。

 条約案にはNGO(非政府組織)が強く主張した被害者支援条項が盛り込まれ、人道的配慮が軍縮で大きなウエートを占めるようになった。今回の署名実現は、メディアの情報に触発されたNGOが国際世論を喚起し、政府間交渉を動かす大きな力になったことを示す象徴的な出来事といえる。

 ◇ミドルパワーが力発揮--大阪女学院大教授(軍縮国際法)・黒澤満氏

 大量保有国の米露中が参加しておらず、禁止の実効性を疑問視する見方もあるが、私はプラスに評価したい。

 将来、大国が加わる方向性を示したことは意味がある。対人地雷も禁止条約(99年発効)の影響で「使えない兵器」になっており、「クラスター爆弾は良くない兵器」という国際規範を徐々に浸透させることが重要だ。

 対人地雷に続きクラスター爆弾でもNGO(非政府組織)とノルウェーなどミドルパワー(中級国家)が禁止条約作りを主導した。軍縮条約の歴史に従来の大国主導とは別の流れができた。

 次の対象は劣化ウラン弾だが、(大量保有する)米国などは健康被害への直接的な因果関係を認めておらず、国際的な科学者による立証などが必要となるだろう。

 今回の条約が核兵器など大量破壊兵器を削減する「マクロの軍縮」に影響を与えるかどうかは疑問だ。

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 ■オスロ・プロセスを巡る経過

07年 2月 オスロで08年中のクラスター爆弾禁止条約作りを目指す「オスロ宣言」採択。49カ国で軍縮交渉「オスロ・プロセス」が始動

    5月 リマの会議で、クラスター爆弾の「即時全面禁止」の議長案提示

   11月 ジュネーブでの「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)」締約国会議で、同爆弾規制の条約交渉入りをめぐり議論が決裂

   12月 ウィーンの会議に138カ国が参加。被害者支援条項を盛り込むことで合意

08年 2月 ウェリントンの会議で、08年中の条約作りをうたう政治宣言に日本など各国署名

    4月 日本でクラスター爆弾規制目指す超党派の国会議員連盟発足。条約案賛成を促す

    5月 最新型を除く事実上の全面禁止案採択。英独仏に続き、日本も賛成

   12月 オスロでクラスター爆弾禁止条約署名式。日本からは中曽根弘文外相が出席、署名

毎日新聞 2008年12月4日 東京朝刊

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