鬼平犯科帳、剣客商売などの時代小説で知られた作家の池波正太郎さんは、大の映画好きだった。週に一本程度の観賞を欠かさず、気に入った作品は二度も三度も見たという。
なぜ、そんなに映画に魅せられたのか。自著「映画を見ると得をする」によると、自分の知らないさまざまな人生を見るためだったそうだ。さらに映画は文学、美術、音楽などの要素を含んだ総合芸術で、二時間ほどで楽しみながら得る益の多いことは、映画以外にないと言い切る。
岡山県北で一カ所だけ残っていた津山市の映画館が先月末で閉館した。これで県北からシネマの灯が消えた。最寄りの映画館は岡山市か鳥取県倉吉市となり、気軽に話題作を見に行ける環境はなくなった。残念としか言いようがない。
かつて津山市には七館あり、週末になると周辺の郡部からもファンが訪れ、立ち見の客がでるほどだった。娯楽の多様化や家庭用ビデオの普及などで次々に閉館していった。
田舎に住んでいても、ハリウッドの華やかな大作で米国の活力を肌で感じた。フランスの人情ものでは、繊細なヨーロッパ文化に触れることができた。
経済や文化など各分野で、中央と地方の格差拡大が進む。地方の間でも、地域によって格差が広がる現実を思い知らされる寂しい年の瀬となった。