最近まで、米国にとどまらず世界経済を牽引(けんいん)してきた、米国の消費者のあくなき購買意欲が急速に減退している。世界規模で広がる、底の見えない金融危機であり、無理からぬことである。他方、中国やインドなどの新興国の経済は、米国経済とデカップリング(分離)されていると言われてきたが、米国の余波を受けてこちらも元気をなくしている。
真打ち登場というのもおこがましいが、米国に代われるのは日本しかなさそうだ。債権大国である日本の消費者が「最後の買い手」となって、世界経済を引っ張っていかなければならない。
そんな元気が日本にあるのかと言われそうだが、策はある。日本の「円」のお値打ちを最大限活用する。そのためには、麻生首相が「『強い円』こそ、日本の国益である」と世界に向けて発信することだ。数年前、ブッシュ米大統領が「『強いドル』が米国の国益だ」と表明したことに倣うのである。「円」ほど自国の通貨当局に踏みつぶされ、痛めつけられてきた通貨を寡聞にして知らない。やっと日の目を見るときがきた。
消費者の立場に立つと、自国通貨が強いということは、円の使い出が増すことだ。少し前に120円で買っていた1ドルの品物を、今は95円で手に入れられる。
一方、生産者の立場に立つと、輸出するなら自国通貨が弱いほうが、安売りができて商売がしやすい。しかし、それは円のお値打ちを低くして、ひいては日本の労働賃金の購買力をそぎ、消費を抑えることにつながる。
世界同時不況の不安の中での円高傾向は、円の実力が高まっていることを示している。「強い円」を求めることが可能な時期にきている。(岳)