飲酒事故が後を絶たない中で迎える忘年会シーズン。酒を飲んで運転しないのは言うまでもないが、気を付けなければならないのは翌朝の「残り酒」。警視庁の警視まで「仮眠したので大丈夫だと思った」と事故を起こしている。その怖さを、記者5人が実験した。結果から専門家は「翌朝運転するなら、前夜の酒は避けること」と警告する。【まとめ・斎藤良太】
実験は30~50代の記者が「いつもの宴会ペース」で約3時間飲み、終了直後と2、3、4時間後に検知器で呼気中のアルコール濃度を計測した。
結果は別表の通り。飲酒直後の計測値は呼気1リットルあたり0・63~0・80ミリグラムと高い値を示した。道路交通法上「酒気帯び運転」にあたるのは同0・15ミリグラム以上なので、酒を飲んで運転するのが、いかに危険か分かる。
5人はその後、仮眠や入浴などしたが、2時間後の計測値も全員が酒気帯び以上。4時間後も4人は酒が残っており、この時ダウンして計測できなかった1人は10時間後も酒気帯び状態だった。
アルコール依存症の治療や研究に取り組む国立病院機構久里浜アルコール症センター(神奈川県)によると、日本人が1時間に分解できるアルコール量の目安は、ビールで男性が約200ミリリットル、女性は約150ミリリットル。ビール500ミリリットルか日本酒1合を飲むと、体内からアルコールが抜けるまでに最低でも3時間はかかるという。
ただし個人差が大きく、10月に全日空の副操縦士が乗務前の検査でアルコール反応が出た際は、11時間前に飲んだビール1杯と泡盛2合で0・33ミリグラムが検出された。全日空はこの反省から「乗務12時間以前の飲酒量はビールで1リットル、日本酒は2合まで」とした。朝8時にマイカー出勤する人に当てはめれば、前夜8時までにビール中瓶2本が限界だ。
また、二日酔いの問題もある。同センターの中山寿一(ひさかず)医師は「二日酔いの原因には、アルコールが体内で分解される過程での低血糖状態やアルコールからの離脱症状なども考えられており、アルコールが体内に残っていなくても判断力は鈍る可能性がある」と警告する。
「乗るなら飲むな」は前夜から--と、心しよう。
国立病院機構久里浜アルコール症センター・中山寿一医師の話 アルコールの代謝は、遺伝的なアルコール代謝酵素活性の違いによって個人差が大きいが、飲酒運転を起こさないためには、ビール1リットル(中瓶2本)を0時に飲み終えても、翌朝はまだ残っていると考えた方がいい。こうした知識不足に加えて、車の運転を予定していながら前の晩にお酒を飲み過ぎてしまうこと自体にも問題がある。飲酒運転常習の背景には、多量飲酒やアルコール依存症の問題が大きく、常習飲酒運転者に占めるアルコール依存症の人の割合は、一般平均に比べて極めて高い。家族や周囲の人の飲酒状況を見て依存症が疑われたら、ぜひ専門医療機関の受診を勧めてほしい。警察庁の調べで、飲酒運転の死亡事故率は飲酒なしの9・4倍、酒酔い運転に至っては34・4倍。その危険を肝に銘じてほしい。
2008年12月3日