2008年12月02日
新司法試験・論文before&after（その２）。
早速続きです。
休暇といってもヒキコモリ＠六本木なので、ここぞとばかりに投稿です。
判例集の勉強が一番効くのは刑訴だと思います。
刑訴は基本書を捨てても判例集を読むべきだと思います。
刑事事件は被告人は命がけで戦いますし、
どのような些末に見える箇所でも徹底して戦います。
ですから山のように判例が積み上がるわけです。
そして、最高裁判例は条文に等しい重要性を持ちます。
最高裁判例と異なる解釈を展開するには、相当な理由付けが必要です。
また刑事訴訟法は高裁の裁判例も先例に等しい効力があります。
刑訴法４０５条３項で高裁判例違反が絶対的上告理由になっているのは、
民訴と著しく違うところです。
（民訴では上告理由を書くには本当に苦労します。）
刑訴の判例集としては、『ケースブック刑事訴訟法（第２版）』がおすすめです。
見てください。まず分厚い。これだけ入れれば不足はないでしょう。安心です。
そして編集者を見てください。試験委員ばかりではありませんか？
そんな卑近なことからスタートしても、とにかく、日本の名だたる学者が
重要だ、読んで欲しいと思う判例、裁判例を集めているわけです。
それだけでマストに近いと思います。
このケースブックへの批判は、問題が多い、問題が高度、解答がないというものです。
これは別にいいと思います。
基本問題もあるし、高度な問題もなければ大学院の授業じゃありません。
解答があったら、みんな解答を見ちゃいますからね。
頭を使わないと訓練になりませんから。
で、それと受験勉強を切り離して、これを判例集としてみればいいわけです。
すなわち、問題を読まないで判例だけベタ読みする。
そうすれば厚さも事実上半減しますしね。
判例、裁判例の相場観をきちんと押さえつつ、事実をきちんと分析する。
それが得点アップの第一歩かと思います。
次に刑訴の問題のパターンも簡単です。
だいたい、第１問は捜査の違法性、第２問は証拠法メインの公判でしょう。
たぶんそれ以外に出しようがないです。
第１問は研修所科目の弁護、第２問は弁護と刑事裁判に近いですかね。
つまり、いざ被告人がとっつかまったときに、
必死に争うのは証拠の信用性と証拠能力なのです。
まず捜査が違法であれば、それは違法収集証拠に繋がります。
また違法捜査による身柄拘束で得られた自白も信用できず証拠能力もないと争います。
さらに伝聞や関連性なしといった証拠能力の否定も頑張るところです。
ですので、メインはその辺なわけです。
捜査の違法は、一行一行問題を舐めるように見ると良いです。
違法でないなら『この点は違法ではない』とはっきり書けるぐらいに。
公判では信用性と証拠能力を叩くのだと覚えておいてください。
特に捜査が違法なら即違法収集証拠です。
そもそも違法収集証拠というために捜査の違法をいうのですから。
第１問で身柄の問題が出るかも知れませんが、同じです。
勾留が問題になり得ますが、勾留の要件として逮捕前置があります。
そこで逮捕の違法をいうわけです。違法収集証拠に基づく逮捕も叩けます。
ごちゃごちゃ書きましたが実際に見る方が早いでしょう。
それでは答案を見てみましょう。
なお、本企画では過去問しかやらないです。
過去問にはヒントとなる情報がたっぷりありますからね。
今回はＨ１８年刑訴法です。
私はこの答案を、９０分で答案構成してくださいとお願いしました。
本番の倍以上ですね。
練習ではまずはじっくりと取り組んでみてもらい、
じっくりやってもできない点＝弱点をあぶり出してもらおうと考えました。
また書く時間、書く内容の分量は無制限です。
まずは蛇口の大きさを大きくしないと、
アウトプットが劇的に伸びないと考えましたので。
なお、私のコメントが合っている保証は全くないので、ご留意ください。
あくまで、好き勝手なコメントです。
その辺は取り扱い注意です。
H18年問題
●あるじさんの解答●
[設問１]
第１ Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為
甲が乗車中の自動車は、上が白・下がシルバーのツートンカラーで、ナンバープレートの下4桁が「0703」であり、車の外形がＶの供述と一致していた。そして、車内にはＶが供述した犯人の服装と同じ、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用した男性がいた。また、甲のバッグを触ると札束らしき形状の物が多数入っていた。
そこで、Ｙは甲を強盗致傷事件の犯人と考え、甲に署までくるよう申出ている。これは、犯人発見を目的とした任意の同行の申出であり、司法警察活動としての任意同行といえ（刑訴法法197条1項但書参照）、適法と出来ないだろうか。
この点、司法警察活動としての任意同行が適法とされるためには、任意捜査の範囲内（同但書）でなければならないところ、本件では甲の同行を促しているに過ぎず、任意捜査の範囲を超えたとはいえない。
よって、Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為は適法である。
第２ Ｘが甲の左腕をつかんだ行為
Ｘが甲の左腕をつかんだ行為は、適法といえるか。任意同行を求める際に、有形力を行使することが、任意捜査の範囲を超え、違法とならないか問題となる。
１ 任意同行は任意捜査(197条1項但書参照）としてなされる以上、強制捜査(同但書)に及んではならない。
しかし、一定の範囲で有形力の行使を認めないと、任意捜査の目的を実現できず、「事案の真相」究明（1条）が困難となってしまう。
そこで、任意捜査においても強制捜査に及ばない限度で、有形力を行使する�”�要性、��緊急性、及び�９坩拌嵳妖�を考慮した上で相当といえる範囲で、有形力の行使が出来ると解する。
２(1) �”�要性・��緊急性
ア 甲は、Ｖが供述した犯人の外形的特徴を備えている。すなわち、甲は、背が170センチ、中肉中背であり、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用している男性であり、Ｖの供述と一致しており、犯人と推認できる。
イ また、犯人が犯行に使った車は色合いの点、ナンバープレートの下4桁が同じ点、逃走方向と矛盾しない南西に駐車している点でＶの供述と一致している。ナンバープレートの下4桁が合う確立は万に一つであり、色合いや駐車している位置関係がＶの供述と一致していることからすれば、甲の車は犯行に使った車であると合理的疑いの余地を挟まずにいえる。そのため、それに乗車していた甲も犯人であるとの疑いが生じる。
ウ しかも、甲のボストンバッグは茶色である点でＶの供述したバッグと外形的に一致する。また、バッグの外側から触ると札束状の物が多数入っているようにＹが感じたことからも、甲の嫌疑は濃厚である。
エ さらに、バッグのことをＸから聞かれると甲はとたんに落ち着きをなくしそわそわしだした点や、バッグの中身を見せるように要求すると怒ったような口調になった点、それから同行を求めると顔が紅潮した点を合わせ考えると、甲が犯人の蓋然性は極めて高い。
オ そうすると、甲を逃す訳には行かないので、手をつかんで逃走させない�”�要性が認められる。また、甲はＸとＹの間をすり抜けようとしたのだから、それを止める��緊急性もあったといえる。
(2) �Ａ蠹�性
本件被疑事実は、強盗致傷罪（刑法240条前段）であり、法定刑に死刑及び無期懲役が用意されていない程の重大犯罪である。そのため、犯人をいち早く発見して「事案の真相」(1条)を究明する公益上の要請は強かった。
それに対し、甲が被った不利益はＸＹらから1時間弱、同行を説得され、逃走しようとしたら手をつかまれたという程度のものである。
このように、甲から話を聞く公益上の要請に比し、甲の被った不利益は低く、Ｘのした甲の腕をつかむ行為は�Ａ蠹�性を有する。
３ 以上より、本件行為は任意捜査の範囲を超えないので、Ｘが甲の腕をつかんだ行為は、適法といえる
第３ Ｙが甲を逮捕した行為
以上のように、Ｘは適法に甲の腕をつかんでおり、それから免れるために甲がＸにした殴打行為は正当防衛（刑法36条1項）にはあたらず、公務執行妨害罪（同法95条）を構成する。
そうすると、甲は「現に罪を行」った者（刑訴法212条）にあたるので、Ｙは適法に現行犯逮捕したものといえる。
よって、Ｙの逮捕は適法である。
第４ 捜索・差押行為
Ｙが適法に甲を逮捕しているので、逮捕に伴う捜索・差押（220条1項2号）として、適法な捜査をしたといえるか。逮捕に伴う差押の範囲が特に問題となる。
１ 法が逮捕に伴う捜索差押(220条1項柱書)を許した趣旨は、証拠存在の蓋然性の高い所での捜索差押を認めつつ逮捕者の安全及び円滑な捜査を実現する点にある。
２(1) そうすると、甲を逮捕した現場である車付近及び車内を捜索することは、逮捕に伴う捜索として許される。
(2) しかし、捜索の結果、現行犯逮捕した公務執行妨害罪とは関係のない物を発見したとしても、差押えることは許されない。
具体的には、刺身包丁については、追撃を防ぎ逮捕者の安全を図るため、差押をすることは許される。
しかし、その他の札束・携帯電話・メモ・目出し帽・軍手は公務執行妨害罪とは何ら関係がないので、差押をすることは出来ない。
３ そうすると、刺身包丁以外の物を差押えた点で、本件捜査は違法である。
[設問２]
甲の書いた本件メモを乙に対する強盗致傷被告事件において、甲乙間の共謀の存在を立証するために、用いることが出来るか。他人の記した文書であるので、�‥訴江攀�(320条1項)にあたり、証拠能力を否定されないか、また��違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠として証拠能力を否定されないか問題となる。
以下、各別に検討していく。
第１ �‥訴江攀魍催�性
１ この点、本件メモは公判期日外における供述に代わる書面であり、伝聞証拠（320条1項前段）にあたり証拠能力を否定されないだろうか。
２ 法が伝聞証拠の証拠能力を否定した趣旨は、人の知覚・記憶・叙述・表現の各過程に誤りが混入しかねず誤判を招きかねないという点にある。
この趣旨からすれば、要証事実に上記各過程の誤りが混入しない場合にまで、伝聞証拠として証拠能力を否定すべきではない。
そこで、要証事実との関係で証拠が伝聞にあたるか非伝聞にあたるかを判断すべきである。
３(1) 本件では、メモを通じて甲乙間に強盗致傷罪の共謀があったことを立証しようとしている。同罪の共謀を立証するためには、甲乙間で本罪の共同実行の意思を形成するに至った事実を証明しなければならない。
この点、本件メモは、甲の筆跡で「取った金は半分ずつ分ける」と記載されており、甲乙間の共謀の存在を立証する上で重要な証拠となる。そして、本件メモには甲の精神状態が甲により記載されており、知覚・記憶・叙述・表現の段階で誤りが入り込むとは考えにくい。
(2) そうすると、人の精神状況を記載したに過ぎない本件メモは伝聞証拠と言えず、伝聞例外(321条以下)の要件を充たさずとも証拠能力は否定されない。もっとも、本件メモの成立の真正が証明されなければ、甲の精神状態が書面に現れているとは言えないが、本件では筆跡鑑定により甲の筆跡と認められているので、証拠能力は否定されない。
４ 以上より、本件書面は伝聞証拠にはあたらず、証拠能力は否定されない。
第２ ��違法収集証拠該当性
１ 本件では、違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠としてメモの証拠能力が排除されないだろうか。
２ 適性手続(憲法31条、刑訴法1条)の観点からすれば、違法捜査に基づき収集された物を証拠とすることは許されないとも思える。
しかし、人証と異なり、物証は違法に収集されたからといって、証拠価値が減殺されるものではなく、証拠能力を否定すると、かえって「事案の真相」の究明(1条)を困難にしてしまう。
そこで、違法に収集した物の証拠能力を否定する場合とは、a令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、且つb将来の違法捜査抑制の見地から見て証拠能力を否定すべき場合を指すと解する。
３(1) 本件メモは、公務執行妨害罪とは関係がなく、また逮捕者の安全を図るために差押をする必要はなかったので令状主義(218条参照)を定めた法の精神に反するとも思える。
しかし、Ｙは甲を現行犯逮捕した後、適法に捜索をし、札束や犯行に供したと思われる刺身包丁や軍手などを発見している。そのため、甲は「贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持して」いるといえ、Ｙは甲を準現行犯として(211条2項2号)逮捕を出来、それに伴いメモも差押を出来る状況(220条1項2号)にあった。
そうすると、Ｙのした無令状の差押は手続を誤ったものに過ぎずa令状主義の精神を没却するほどの違法性があったとはいえない。
(2) また、このように捜査手続を誤ったに過ぎないので、b将来捜査の違法抑制の見地からしても、証拠能力を排除する程のものではない。
４ よって、本件メモは違法収集証拠として証拠能力を否定すべきではない。
第３ 以上より、本件メモを甲乙間の共謀を立証するための証拠として利用することが出来る。
以上
●私のコメント●
【まずは有斐閣の『ケースブック刑事訴訟法』を買ってください。設問はやらなくて良いので、試験を受けるまでにはそこに載っている判例、裁判例は全部読んでください。刑訴は判例、裁判例の流れに乗っていないと、ピントがずれる可能性があります。問題演習や基本書を読むより先です。裁判例の相場を見てあてはめをする訓練が必要です。今回は該当する範囲が多数になりますが、まずはその裁判例を読んでください。その際には必ず条文を引いてください。】
[設問１]
【免許証の提示を求めているということは、職務質問をしているのですから、まず職務質問の要件に該当しているかを検討してください。米子強盗事件も、いきなりは司法警察活動は始めていないはずです。まだその人に嫌疑があるか分からない状態で司法警察活動はしないのが普通だと思います。そして職務質問が適法なら適法と一言評価してください。】
第１ Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為
甲が乗車中の自動車は、上が白・下がシルバーのツートンカラーで、ナンバープレートの下4桁が「0703」であり、車の外形がＶの【どんな？ 犯人の乗った車の外見を述べた供述？】供述と一致していた。【犯行現場との時間的・場所的近接性にここで言及。車の速度を念頭に計算。その時間にその場所に犯人がいることが不自然ではないか検討。つまり、職務質問の要件としての不審事由があるということ。もちろんこれは、その後の任意捜査の必要性とかぶる。】そして、車内にはＶが供述した犯人の服装と同じ、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用した男性がいた。【車の運転席に乗っているのに免許証を提示しない不自然さを指摘し、評価。】また、【誰が？】甲のバッグを触ると札束らしき形状の物が多数入っていた。
【そもそも触って良いのかが問題です。職務質問の要件を検討した上で、職務質問に付随する所持品検査の要件を検討してください。条文は忘れずに。所持品検査ができる条文がないということも記載があるとよいです。】
【職務質問から司法警察活動への切り替わりのタイミングは論証するほどのものではないものの、短くシンプルに書くのが難しいので、基本書等で言い回しを丸暗記して、いつでも書けるようにしてください。】そこで、Ｙは甲を強盗致傷事件の犯人と考え、甲に署までくるよう申出ている。これは、犯人発見を目的とした任意の同行の申出であり、司法警察活動としての任意同行といえ（刑訴法【以下で、単に条文番号を書くのはやめましょう。】197条1項但書参照）、適法と評価出来ないだろうか。【適法とできる、というと、何か適法にしがたいものを無理矢理適法にしようとしているようにも聞こえます。適法には、なるか、ならないかではないでしょうか。あるいは、適法と評価できるかかと思います。】
この点、司法警察活動としての任意同行が適法と評価されるためには、任意捜査の範囲内（同但書）でなければならないところ、本件では甲の同行を促しているに過ぎず、任意捜査の範囲を超えたとはいえない。
よって、Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為は適法である。
第２ Ｘが甲の左腕をつかんだ行為
Ｘが甲の左腕をつかんだ行為は、適法といえるか。任意同行を求める際に、有形力を行使することが、任意捜査の範囲を超え、違法とならないか問題となる。
１ 任意同行は任意捜査(197条1項但書参照）としてなされる以上、強制捜査(同但書)に及んではならない。
しかし、一定の範囲で有形力の行使を認めないと、任意捜査の目的を実現できず、「事案の真相」究明（1条）が困難となってしまう。
そこで、任意捜査においても強制捜査に及ばない限度で【内容面では理解はされていると思いますが、この表現の仕方は誤りです。強制捜査に及ぶかどうかが先に検討の対象になります。強制捜査ではないことを必ず確認した上で、任意捜査にも限界があるという言及をします。】、有形力を行使する�”�要性、��緊急性、及び�９坩拌嵳妖�を考慮した上で相当といえる範囲で、有形力の行使が出来ると解する。【なぜそう解するのですか？ 判例も明確に答えているわけではないので、少し意地悪な質問だとは思いますが、ファクター三つだったらＯＫ、というのはちょっとよく分からないのです。任意捜査と職務質問、所持品検査の判例をもう一度よく見てください。文言上は、社会的相当性だけが要件で、必要性、緊急性はそれを裏付ける要素として書いてあるようにも、あるいは並列要件にも見えます。そして言い回しが微妙に違ったと思います。ここは正確に判例の言い方を引き写せるようにしておいてください。】
【形式的にも、強制捜査とは何かという規範をたて、それにあてはめ、強制捜査に該当しないという判断を経た上で、任意捜査の限界を検討してください。手をつかんだぐらいで逮捕には当たらないと直感的には思うと思いますが、理論の筋としては検討が必要です(強制捜査に当たるならば、無令状でやっている以上、必要性緊急性があろうが、どうやって違法であるため検討する必要がなくなる。)。確か『刑事訴訟法の争点』で井上正仁先生が論文を書いていたと思うので、読んでください。】
２(1) �”�要性・��緊急性
ア 甲は、Ｖが供述した犯人の外形的特徴を備えている。すなわち、甲は、背が170センチ、中肉中背であり、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用している男性であり、Ｖの【どのような？】供述と一致しており、犯人と推認できる。【この程度では推認できないと思います。このような外見を持っている人はいくらでもいるでしょうし、ジャージも珍しくありません。｢符合する｣｢一致する｣ぐらいでしょう。】
イ また、犯人が犯行に使った車は色合いの点、ナンバープレートの下4桁が同じ点、逃走方向と矛盾しない南西に駐車している点でＶの供述と一致している。ナンバープレートの下4桁が合う確率立は万に一つであり、【ツートンカラーが珍しいことも言っていいかもしれません。】色合いや駐車している位置関係がＶの供述【Vは駐車している位置関係については直接は言及していません。逃げた方向です。】と一致していることからすれば、甲の車は犯行に使った車であると合理的疑いの余地を挟まずにいえる【この言い方はたぶんまずいです。単独でそこまでの推認力はありません。高々、万に一つです。合理的疑いの余地を挟まないと言うのであれば、ＤＮＡ鑑定の程度の制度が必要かと思われます。】。そのため、それに乗車していた甲も犯人であるとの疑いが生じる。
ウ しかも、甲のボストンバッグは茶色である点でＶの供述した【犯人が所持していた？】バッグと外形的に一致する。また、バッグの外側から触ると札束状の物が多数入っているようにＹが感じたことからも、【犯人が札束をまだ持っていると経験則上推測されることを付け加ることによって、甲＝犯人との推認力があることを表現できます。】甲の嫌疑は濃厚である。
エ さらに、バッグのことをＸから聞かれると甲はとたんに落ち着きをなくしそわそわしだした点や、バッグの中身を見せるように要求すると怒ったような口調になった点、それから同行を求めると顔が紅潮した点を合わせ考えると、甲が犯人の蓋然性は極めて高い。【同行を求めると顔が紅潮するとなぜ犯人なのですか？ 焦っているからか、怒っているからか、何でもいいのでなぜそれが犯人であると思える事実なのか評価してください。例えば、いきなり路上で急いでいるサラリーマンに同行を求めたら、怒って顔が紅潮するかもしれませんよ。】
オ そうすると、甲を逃す訳には行かないので、手をつかんで逃走させない�”�要性が認められる。また、甲はＸとＹの間をすり抜けようとしたのだから、それを止める��緊急性もあったといえる。【裁判例の緊急性についての箇所を見て、どのような事実をあてはめに使うか、相場を見てください。例えば車に乗っていたという点はどうですか？】
(2) �Ａ蠹�性
本件被疑事実は、強盗致傷罪（刑法240条前段）であり、法定刑に死刑及び無期懲役が用意されていない程の重大犯罪である。【白昼堂々の銀行強盗であり悪質であること、被害額が大きいこと、刃物を使った凶悪犯罪であること、実際に刃物で刺したなど危険きわまりない犯行であることにも言及があると良いと思います。殴って擦り傷を負わせて１０００円奪うのも強盗致傷ですので、罪名よりもむしろ罪質が大事です。】そのため、犯人をいち早く発見して「事案の真相」(法1条)を究明する公益上の要請は強かった。
それに対し、甲が被った不利益はＸＹらから1時間弱、同行を説得され【今は手をつかんだことを評価しようとしているのではないですか？ それ以前に同行を説得されたこともコミコミにするという規範が立っていますか？】、逃走しようとしたら手をつかまれたという程度【どのように手をつかんだかという程度が重要です。握りしめたのか、手錠をかけたのか、軽く握ったのか、どうなのですか。それによっては逮捕になるでしょう。】のものである。
このように、甲から話を聞く公益上の要請に比し、甲の被った不利益は低く、Ｘのした甲の腕をつかむ行為は�Ａ蠹�性を有する。
３ 以上より、本件行為は任意捜査の範囲を超えないので、Ｘが甲の腕をつかんだ行為は、適法といえる
【使うのかどうか分かりませんが、そのあと問題文の事実では公務執行妨害の被疑事実で取り調べを受け、別件の強盗致傷を話していることが出てきます。このやり方が適法かどうか、一応評価してください。問題文としては、ここまでが聞かれている内容ですので。】
第３ Ｙが甲を逮捕した行為
以上のように、Ｘは適法に甲の腕をつかんでおり、それから免れるために甲がＸにした殴打行為は正当防衛（刑法36条1項）にはあたらず、公務執行妨害罪（同法95条）を構成する。
そうすると、甲は「現に罪を行」った者（刑訴法212条）にあたるので、Ｙは適法に現行犯逮捕したものといえる。
よって、Ｙの逮捕は適法である。
第４ 捜索・差押行為
Ｙが適法に甲を逮捕しているので、逮捕に伴う捜索・差押（法220条1項2号）として、適法な捜査をしたといえるか。逮捕に伴う差押の範囲が特に問題となる。
１ 法が逮捕に伴う捜索差押(法220条1項柱書)を許した趣旨は、証拠存在の蓋然性の高い所での捜索差押を認めつつ逮捕者の安全及び円滑な捜査を実現する点にある。【要らないかもしれませんが、一応説が二つあると思うので、比較検討してどちらかの説を採ることにしてください。基本は判例ベースで良いです。】
２(1) そうすると、甲を逮捕した現場である車付近及び車内を捜索することは、逮捕に伴う捜索として許される。【ここも、本当は微妙です。警官をぶんなぐるのに、車内にどういう証拠がある蓋然性があるかというと、問題です。結局、蓋然性説の蓋然性は抽象的なレベルでいいということを理解しておいてください。】
(2) しかし、捜索の結果、現行犯逮捕した公務執行妨害罪とは関係のない物を発見したとしても、差押えることは許されない。【なぜ？ その理由に配点がありそうです。これだけだと、単に私見を述べているだけにしか見えません。学説の裏付けがあるならそれを調べて引用してください。それがないなら、きちんと自分なりに趣旨から理由付けをしてください。】
具体的には、刺身包丁については、追撃を防ぎ逮捕者の安全を図るため、差押をすることは許される。
しかし、その他の札束・携帯電話・メモ・目出し帽・軍手は公務執行妨害罪とは何ら関係がないので、差押をすることは出来ない。
３ そうすると、刺身包丁以外の物を差押えた点で、本件捜査は違法である。
[設問２]
甲の書いた本件メモを乙に対する強盗致傷被告事件において、甲乙間の共謀の存在を立証するために、用いることが出来るか。他人の記した文書であるので、【本人が書いても伝聞ではありませんか？】�‥訴江攀�(320条1項)にあたり、証拠能力を否定されないか、また��違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠として証拠能力を否定されないか問題となる。【本件で直接使うかどうかは分かりませんが、メモはブツである（立証趣旨：メモの存在自体）という考えもありうるので、その視点でもう一度検討してもらえませんか。今回の論述で使えていない事実がたくさんあります。例えばメモが乙の家で作成されていることはどうですか。それから、要証事実ももう少し細かく分けてください。｢共謀｣というのは事実ではなくむしろ評価であり、共謀を基礎づける各事実があるわけです。下記で検討されている分け前の他、集合場所、犯行の方法、動機など。いずれも問題文に書いてある事実なので、できるだけ使うようにしてください。】
以下、各別に検討していく。
第１ �‥訴江攀魍催�性
１ この点、本件メモは公判期日外における供述に代わる書面であり、伝聞証拠（法320条1項前段）にあたり証拠能力を否定されないだろうか。
２ 法が伝聞証拠の証拠能力を否定した趣旨は、人の知覚・記憶・叙述・表現の各過程に誤りが混入しかねず誤判を招きかねないという点にある。
この趣旨からすれば、要証事実に上記各過程の誤りが混入しない場合にまで、伝聞証拠として証拠能力を否定すべきではない。
そこで、要証事実との関係で証拠が伝聞にあたるか非伝聞にあたるかを判断すべきである。
３(1) 本件では、メモを通じて甲乙間に強盗致傷罪の共謀があったことを立証しようとしている。同罪の共謀を立証するためには、甲乙間で本罪の共同実行の意思を形成するに至った事実を証明しなければならない。
この点、本件メモは、甲の筆跡で「取った金は半分ずつ分ける」と記載されており、分け前は甲乙間の共謀の存在を立証する上で重要な間接事実証拠となる。そして、本件メモには甲の精神状態【精神状態を書いたものはどうだ、という規範は先に来ていると良いと思います。】が甲により記載されており、知覚・記憶・叙述・表現の段階で誤りが入り込むとは考えにくい。
【何か書きぶりに違和感があります。このメモは乙の発言をそのまま記録したものなのですよね？ 甲の精神状態であると共に、乙の供述録取でもあるわけです。伝聞の部分と非伝聞の部分が混在していそうです。】
【｢乙、車の中で待ってる｣はどう使いますか？】
(2) そうすると、人の精神状況を記載したに過ぎない本件メモは伝聞証拠と言えず、伝聞例外(321条以下)の要件を充たさずとも証拠能力は否定されない。もっとも、本件メモの成立の真正が証明されなければ、甲の精神状態が書面に現れているとは言えないが【確認ですが、それは通説ですか。成立の神聖を照明するというのは聞いたことがなかったもので。真摯に作成されたものという表現は聞いたことはあります。】、本件では筆跡鑑定により甲の筆跡と認められているので、証拠能力は否定されない。【甲が書いたのでなければ、そもそも関連性がないでしょう(関連性も証拠能力ではありますが)。これは、前提です。】
４ 以上より、本件書面は伝聞証拠にはあたらず、証拠能力は否定されない。
【メモの処理は言葉がこなれていない感じがあります。ケースブックのメモの裁判例がいくつもありますので、熟読してください。全体として、｢メモなら全てOK｣と読める気がします。立証趣旨との関係で考えるならば、もっと詳細な文責が必要です。メモを使うというので一段ハードルが高く、さらに共謀の立証に使うというのでハードルが高いのです。ケースブックの裁判例の共謀メモの箇所はケースブックの中でも最大難易度のところですが、それゆえ理解することの意味は大きく、また実力差が出るところであり、今後も狙われるところであるということです。】
第２ ��違法収集証拠該当性
１ 本件では、違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠としてメモの証拠能力が排除されないだろうか。
２ 適性手続(憲法31条、刑訴法1条)の観点からすれば、違法捜査に基づき収集された物を証拠とすることは許されないとも思える。
しかし、人証と異なり、物証は違法に収集されたからといって、証拠価値が減殺されるものではなく、証拠能力を否定すると、かえって「事案の真相」の究明(1条)を困難にしてしまう。
そこで、【その調和点として、など、中間の論拠付けが必要でしょう。Aはだめ。Bはだめ。だからC、では理由付けが飛躍しています。AとBの折衷として取り得るのがCなのでC、などの話の流れです。】違法に収集した物の証拠能力を否定する場合とは、a令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、且つb将来の違法捜査抑制の見地から見て証拠能力を否定すべき場合を指すと解する。
３(1) 本件メモは、公務執行妨害罪とは関係がなく、また逮捕者の安全を図るために差押をする必要はなかったので令状主義(法218条参照)を定めた法の精神に反するとも思える。
しかし、Ｙは甲を現行犯逮捕した後、適法に捜索をし、札束や犯行に供したと思われる刺身包丁や軍手などを発見している。そのため、甲は「贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持して」いるといえ、Ｙは甲を準現行犯として(211条2項2号)逮捕を出来、それに伴いメモも差押を出来る状況(220条1項2号)にあった。【準現行犯は直感的には無理だと思います。強盗の現場から追いかけてきたわけではありませんから。札束や刺身包丁があっても、別の強盗の証拠かもしれませんよ。札束があれば贓物というのもいいすぎです。軍手も客観的には単なる軍手です。犯罪と結びつきません。その上で今回の強盗の準現行犯といえますか。準現行犯の解釈と裁判例の相場を確認してください。ただ、嫌疑の大きさから見て緊急逮捕はできるような気がします。包丁については、真新しい血がついているというところが、ポイントです。】
そうすると、Ｙのした無令状の差押は手続を誤ったものに過ぎず、【実体としては令状を請求すれば令状が確実に出ていた状況であったので、格段に人権侵害が広がったわけではないのでＯＫということでしょうか。中間の理由付けを入れないと、話が飛びます。なぜ手続を誤っただけなら令状主義の精神を没却しないのですか？ 結論だけ覚えているように感じます。自分の言葉できちんと説明できるようにしてください。】a令状主義の精神を没却するほどの違法性があったとはいえない。
(2) また、このように捜査手続を誤ったに過ぎないので、b将来捜査の違法抑制の見地からしても、証拠能力を排除する程のものではない。【話がつながりません。手続を誤ることを捜査機関に繰り返されたらたまりませんので、一罰百戒のために排除する必要があるとも思えるからです。手続きを誤ったに過ぎないものを排除しても、なぜ、違法抑制に繋がらないのですか。一般的にそうなのか、それとも今回は排除しても意味がないのか。そこに配点があります。】
４ よって、本件メモは違法収集証拠として証拠能力を否定すべきではない。
第３ 以上より、本件メモを甲乙間の共謀を立証するための証拠として利用することが出来る。
以上
【総評：裁判例の読み込みによる相場観の理解、それを踏まえて事実を評価して使い切ることが不足していると考えられます。ナマの事実を引用することに意味はなく、それがどのように評価されるのかが重要です。また判例の規範だけ覚えても中間の理由付けがなければ、読み手としては全く心に響きません。自分の言葉で良いので、必ず中間の理由付けをかみ砕いて説明できるようにしてください。訓練としては、問題文にある事実は全て使用し、その上で関係ないと考えられるのであれば関係ないと評価して言及するぐらいの気持ちが良いと思います。使い方がよく分からない事実を放置する姿勢はいけません。これでも問題文は短いほうで、使わない事実がわざわざ書いてあると思う方が不自然です。なお刑法も同様です。使わない事実は基本的に存在せず、使わないならはっきりと使わないと評価できるレベルまで考える必要があります。気になった事実だけピックアップするのはだめです。使い方が分からないものから逃げてはいけません。】
【次回課題：上記を踏まえて、時間無制限で条文、判例、文献を調べて理解し、ケースブックの該当箇所を読んだ上で、1時間半で答案構成してください。そして、違いが分かるように、その成果は↓この下から書き始めてください。それから、長さをセーブする必要はないです。必要なだけ書いてください。削る練習はまたあとでやります。】
こんなかんじです。
長くなったので一度切ります。
休暇といってもヒキコモリ＠六本木なので、ここぞとばかりに投稿です。
判例集の勉強が一番効くのは刑訴だと思います。
刑訴は基本書を捨てても判例集を読むべきだと思います。
刑事事件は被告人は命がけで戦いますし、
どのような些末に見える箇所でも徹底して戦います。
ですから山のように判例が積み上がるわけです。
そして、最高裁判例は条文に等しい重要性を持ちます。
最高裁判例と異なる解釈を展開するには、相当な理由付けが必要です。
また刑事訴訟法は高裁の裁判例も先例に等しい効力があります。
刑訴法４０５条３項で高裁判例違反が絶対的上告理由になっているのは、
民訴と著しく違うところです。
（民訴では上告理由を書くには本当に苦労します。）
刑訴の判例集としては、『ケースブック刑事訴訟法（第２版）』がおすすめです。
見てください。まず分厚い。これだけ入れれば不足はないでしょう。安心です。
そして編集者を見てください。試験委員ばかりではありませんか？
そんな卑近なことからスタートしても、とにかく、日本の名だたる学者が
重要だ、読んで欲しいと思う判例、裁判例を集めているわけです。
それだけでマストに近いと思います。
このケースブックへの批判は、問題が多い、問題が高度、解答がないというものです。
これは別にいいと思います。
基本問題もあるし、高度な問題もなければ大学院の授業じゃありません。
解答があったら、みんな解答を見ちゃいますからね。
頭を使わないと訓練になりませんから。
で、それと受験勉強を切り離して、これを判例集としてみればいいわけです。
すなわち、問題を読まないで判例だけベタ読みする。
そうすれば厚さも事実上半減しますしね。
判例、裁判例の相場観をきちんと押さえつつ、事実をきちんと分析する。
それが得点アップの第一歩かと思います。
次に刑訴の問題のパターンも簡単です。
だいたい、第１問は捜査の違法性、第２問は証拠法メインの公判でしょう。
たぶんそれ以外に出しようがないです。
第１問は研修所科目の弁護、第２問は弁護と刑事裁判に近いですかね。
つまり、いざ被告人がとっつかまったときに、
必死に争うのは証拠の信用性と証拠能力なのです。
まず捜査が違法であれば、それは違法収集証拠に繋がります。
また違法捜査による身柄拘束で得られた自白も信用できず証拠能力もないと争います。
さらに伝聞や関連性なしといった証拠能力の否定も頑張るところです。
ですので、メインはその辺なわけです。
捜査の違法は、一行一行問題を舐めるように見ると良いです。
違法でないなら『この点は違法ではない』とはっきり書けるぐらいに。
公判では信用性と証拠能力を叩くのだと覚えておいてください。
特に捜査が違法なら即違法収集証拠です。
そもそも違法収集証拠というために捜査の違法をいうのですから。
第１問で身柄の問題が出るかも知れませんが、同じです。
勾留が問題になり得ますが、勾留の要件として逮捕前置があります。
そこで逮捕の違法をいうわけです。違法収集証拠に基づく逮捕も叩けます。
ごちゃごちゃ書きましたが実際に見る方が早いでしょう。
それでは答案を見てみましょう。
なお、本企画では過去問しかやらないです。
過去問にはヒントとなる情報がたっぷりありますからね。
今回はＨ１８年刑訴法です。
私はこの答案を、９０分で答案構成してくださいとお願いしました。
本番の倍以上ですね。
練習ではまずはじっくりと取り組んでみてもらい、
じっくりやってもできない点＝弱点をあぶり出してもらおうと考えました。
また書く時間、書く内容の分量は無制限です。
まずは蛇口の大きさを大きくしないと、
アウトプットが劇的に伸びないと考えましたので。
なお、私のコメントが合っている保証は全くないので、ご留意ください。
あくまで、好き勝手なコメントです。
その辺は取り扱い注意です。
H18年問題
●あるじさんの解答●
[設問１]
第１ Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為
甲が乗車中の自動車は、上が白・下がシルバーのツートンカラーで、ナンバープレートの下4桁が「0703」であり、車の外形がＶの供述と一致していた。そして、車内にはＶが供述した犯人の服装と同じ、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用した男性がいた。また、甲のバッグを触ると札束らしき形状の物が多数入っていた。
そこで、Ｙは甲を強盗致傷事件の犯人と考え、甲に署までくるよう申出ている。これは、犯人発見を目的とした任意の同行の申出であり、司法警察活動としての任意同行といえ（刑訴法法197条1項但書参照）、適法と出来ないだろうか。
この点、司法警察活動としての任意同行が適法とされるためには、任意捜査の範囲内（同但書）でなければならないところ、本件では甲の同行を促しているに過ぎず、任意捜査の範囲を超えたとはいえない。
よって、Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為は適法である。
第２ Ｘが甲の左腕をつかんだ行為
Ｘが甲の左腕をつかんだ行為は、適法といえるか。任意同行を求める際に、有形力を行使することが、任意捜査の範囲を超え、違法とならないか問題となる。
１ 任意同行は任意捜査(197条1項但書参照）としてなされる以上、強制捜査(同但書)に及んではならない。
しかし、一定の範囲で有形力の行使を認めないと、任意捜査の目的を実現できず、「事案の真相」究明（1条）が困難となってしまう。
そこで、任意捜査においても強制捜査に及ばない限度で、有形力を行使する�”�要性、��緊急性、及び�９坩拌嵳妖�を考慮した上で相当といえる範囲で、有形力の行使が出来ると解する。
２(1) �”�要性・��緊急性
ア 甲は、Ｖが供述した犯人の外形的特徴を備えている。すなわち、甲は、背が170センチ、中肉中背であり、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用している男性であり、Ｖの供述と一致しており、犯人と推認できる。
イ また、犯人が犯行に使った車は色合いの点、ナンバープレートの下4桁が同じ点、逃走方向と矛盾しない南西に駐車している点でＶの供述と一致している。ナンバープレートの下4桁が合う確立は万に一つであり、色合いや駐車している位置関係がＶの供述と一致していることからすれば、甲の車は犯行に使った車であると合理的疑いの余地を挟まずにいえる。そのため、それに乗車していた甲も犯人であるとの疑いが生じる。
ウ しかも、甲のボストンバッグは茶色である点でＶの供述したバッグと外形的に一致する。また、バッグの外側から触ると札束状の物が多数入っているようにＹが感じたことからも、甲の嫌疑は濃厚である。
エ さらに、バッグのことをＸから聞かれると甲はとたんに落ち着きをなくしそわそわしだした点や、バッグの中身を見せるように要求すると怒ったような口調になった点、それから同行を求めると顔が紅潮した点を合わせ考えると、甲が犯人の蓋然性は極めて高い。
オ そうすると、甲を逃す訳には行かないので、手をつかんで逃走させない�”�要性が認められる。また、甲はＸとＹの間をすり抜けようとしたのだから、それを止める��緊急性もあったといえる。
(2) �Ａ蠹�性
本件被疑事実は、強盗致傷罪（刑法240条前段）であり、法定刑に死刑及び無期懲役が用意されていない程の重大犯罪である。そのため、犯人をいち早く発見して「事案の真相」(1条)を究明する公益上の要請は強かった。
それに対し、甲が被った不利益はＸＹらから1時間弱、同行を説得され、逃走しようとしたら手をつかまれたという程度のものである。
このように、甲から話を聞く公益上の要請に比し、甲の被った不利益は低く、Ｘのした甲の腕をつかむ行為は�Ａ蠹�性を有する。
３ 以上より、本件行為は任意捜査の範囲を超えないので、Ｘが甲の腕をつかんだ行為は、適法といえる
第３ Ｙが甲を逮捕した行為
以上のように、Ｘは適法に甲の腕をつかんでおり、それから免れるために甲がＸにした殴打行為は正当防衛（刑法36条1項）にはあたらず、公務執行妨害罪（同法95条）を構成する。
そうすると、甲は「現に罪を行」った者（刑訴法212条）にあたるので、Ｙは適法に現行犯逮捕したものといえる。
よって、Ｙの逮捕は適法である。
第４ 捜索・差押行為
Ｙが適法に甲を逮捕しているので、逮捕に伴う捜索・差押（220条1項2号）として、適法な捜査をしたといえるか。逮捕に伴う差押の範囲が特に問題となる。
１ 法が逮捕に伴う捜索差押(220条1項柱書)を許した趣旨は、証拠存在の蓋然性の高い所での捜索差押を認めつつ逮捕者の安全及び円滑な捜査を実現する点にある。
２(1) そうすると、甲を逮捕した現場である車付近及び車内を捜索することは、逮捕に伴う捜索として許される。
(2) しかし、捜索の結果、現行犯逮捕した公務執行妨害罪とは関係のない物を発見したとしても、差押えることは許されない。
具体的には、刺身包丁については、追撃を防ぎ逮捕者の安全を図るため、差押をすることは許される。
しかし、その他の札束・携帯電話・メモ・目出し帽・軍手は公務執行妨害罪とは何ら関係がないので、差押をすることは出来ない。
３ そうすると、刺身包丁以外の物を差押えた点で、本件捜査は違法である。
[設問２]
甲の書いた本件メモを乙に対する強盗致傷被告事件において、甲乙間の共謀の存在を立証するために、用いることが出来るか。他人の記した文書であるので、�‥訴江攀�(320条1項)にあたり、証拠能力を否定されないか、また��違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠として証拠能力を否定されないか問題となる。
以下、各別に検討していく。
第１ �‥訴江攀魍催�性
１ この点、本件メモは公判期日外における供述に代わる書面であり、伝聞証拠（320条1項前段）にあたり証拠能力を否定されないだろうか。
２ 法が伝聞証拠の証拠能力を否定した趣旨は、人の知覚・記憶・叙述・表現の各過程に誤りが混入しかねず誤判を招きかねないという点にある。
この趣旨からすれば、要証事実に上記各過程の誤りが混入しない場合にまで、伝聞証拠として証拠能力を否定すべきではない。
そこで、要証事実との関係で証拠が伝聞にあたるか非伝聞にあたるかを判断すべきである。
３(1) 本件では、メモを通じて甲乙間に強盗致傷罪の共謀があったことを立証しようとしている。同罪の共謀を立証するためには、甲乙間で本罪の共同実行の意思を形成するに至った事実を証明しなければならない。
この点、本件メモは、甲の筆跡で「取った金は半分ずつ分ける」と記載されており、甲乙間の共謀の存在を立証する上で重要な証拠となる。そして、本件メモには甲の精神状態が甲により記載されており、知覚・記憶・叙述・表現の段階で誤りが入り込むとは考えにくい。
(2) そうすると、人の精神状況を記載したに過ぎない本件メモは伝聞証拠と言えず、伝聞例外(321条以下)の要件を充たさずとも証拠能力は否定されない。もっとも、本件メモの成立の真正が証明されなければ、甲の精神状態が書面に現れているとは言えないが、本件では筆跡鑑定により甲の筆跡と認められているので、証拠能力は否定されない。
４ 以上より、本件書面は伝聞証拠にはあたらず、証拠能力は否定されない。
第２ ��違法収集証拠該当性
１ 本件では、違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠としてメモの証拠能力が排除されないだろうか。
２ 適性手続(憲法31条、刑訴法1条)の観点からすれば、違法捜査に基づき収集された物を証拠とすることは許されないとも思える。
しかし、人証と異なり、物証は違法に収集されたからといって、証拠価値が減殺されるものではなく、証拠能力を否定すると、かえって「事案の真相」の究明(1条)を困難にしてしまう。
そこで、違法に収集した物の証拠能力を否定する場合とは、a令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、且つb将来の違法捜査抑制の見地から見て証拠能力を否定すべき場合を指すと解する。
３(1) 本件メモは、公務執行妨害罪とは関係がなく、また逮捕者の安全を図るために差押をする必要はなかったので令状主義(218条参照)を定めた法の精神に反するとも思える。
しかし、Ｙは甲を現行犯逮捕した後、適法に捜索をし、札束や犯行に供したと思われる刺身包丁や軍手などを発見している。そのため、甲は「贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持して」いるといえ、Ｙは甲を準現行犯として(211条2項2号)逮捕を出来、それに伴いメモも差押を出来る状況(220条1項2号)にあった。
そうすると、Ｙのした無令状の差押は手続を誤ったものに過ぎずa令状主義の精神を没却するほどの違法性があったとはいえない。
(2) また、このように捜査手続を誤ったに過ぎないので、b将来捜査の違法抑制の見地からしても、証拠能力を排除する程のものではない。
４ よって、本件メモは違法収集証拠として証拠能力を否定すべきではない。
第３ 以上より、本件メモを甲乙間の共謀を立証するための証拠として利用することが出来る。
以上
●私のコメント●
【まずは有斐閣の『ケースブック刑事訴訟法』を買ってください。設問はやらなくて良いので、試験を受けるまでにはそこに載っている判例、裁判例は全部読んでください。刑訴は判例、裁判例の流れに乗っていないと、ピントがずれる可能性があります。問題演習や基本書を読むより先です。裁判例の相場を見てあてはめをする訓練が必要です。今回は該当する範囲が多数になりますが、まずはその裁判例を読んでください。その際には必ず条文を引いてください。】
[設問１]
【免許証の提示を求めているということは、職務質問をしているのですから、まず職務質問の要件に該当しているかを検討してください。米子強盗事件も、いきなりは司法警察活動は始めていないはずです。まだその人に嫌疑があるか分からない状態で司法警察活動はしないのが普通だと思います。そして職務質問が適法なら適法と一言評価してください。】
第１ Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為
甲が乗車中の自動車は、上が白・下がシルバーのツートンカラーで、ナンバープレートの下4桁が「0703」であり、車の外形がＶの【どんな？ 犯人の乗った車の外見を述べた供述？】供述と一致していた。【犯行現場との時間的・場所的近接性にここで言及。車の速度を念頭に計算。その時間にその場所に犯人がいることが不自然ではないか検討。つまり、職務質問の要件としての不審事由があるということ。もちろんこれは、その後の任意捜査の必要性とかぶる。】そして、車内にはＶが供述した犯人の服装と同じ、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用した男性がいた。【車の運転席に乗っているのに免許証を提示しない不自然さを指摘し、評価。】また、【誰が？】甲のバッグを触ると札束らしき形状の物が多数入っていた。
【そもそも触って良いのかが問題です。職務質問の要件を検討した上で、職務質問に付随する所持品検査の要件を検討してください。条文は忘れずに。所持品検査ができる条文がないということも記載があるとよいです。】
【職務質問から司法警察活動への切り替わりのタイミングは論証するほどのものではないものの、短くシンプルに書くのが難しいので、基本書等で言い回しを丸暗記して、いつでも書けるようにしてください。】そこで、Ｙは甲を強盗致傷事件の犯人と考え、甲に署までくるよう申出ている。これは、犯人発見を目的とした任意の同行の申出であり、司法警察活動としての任意同行といえ（刑訴法【以下で、単に条文番号を書くのはやめましょう。】197条1項但書参照）、適法と評価出来ないだろうか。【適法とできる、というと、何か適法にしがたいものを無理矢理適法にしようとしているようにも聞こえます。適法には、なるか、ならないかではないでしょうか。あるいは、適法と評価できるかかと思います。】
この点、司法警察活動としての任意同行が適法と評価されるためには、任意捜査の範囲内（同但書）でなければならないところ、本件では甲の同行を促しているに過ぎず、任意捜査の範囲を超えたとはいえない。
よって、Ｙが甲に署までの同行を申し込んだ行為は適法である。
第２ Ｘが甲の左腕をつかんだ行為
Ｘが甲の左腕をつかんだ行為は、適法といえるか。任意同行を求める際に、有形力を行使することが、任意捜査の範囲を超え、違法とならないか問題となる。
１ 任意同行は任意捜査(197条1項但書参照）としてなされる以上、強制捜査(同但書)に及んではならない。
しかし、一定の範囲で有形力の行使を認めないと、任意捜査の目的を実現できず、「事案の真相」究明（1条）が困難となってしまう。
そこで、任意捜査においても強制捜査に及ばない限度で【内容面では理解はされていると思いますが、この表現の仕方は誤りです。強制捜査に及ぶかどうかが先に検討の対象になります。強制捜査ではないことを必ず確認した上で、任意捜査にも限界があるという言及をします。】、有形力を行使する�”�要性、��緊急性、及び�９坩拌嵳妖�を考慮した上で相当といえる範囲で、有形力の行使が出来ると解する。【なぜそう解するのですか？ 判例も明確に答えているわけではないので、少し意地悪な質問だとは思いますが、ファクター三つだったらＯＫ、というのはちょっとよく分からないのです。任意捜査と職務質問、所持品検査の判例をもう一度よく見てください。文言上は、社会的相当性だけが要件で、必要性、緊急性はそれを裏付ける要素として書いてあるようにも、あるいは並列要件にも見えます。そして言い回しが微妙に違ったと思います。ここは正確に判例の言い方を引き写せるようにしておいてください。】
【形式的にも、強制捜査とは何かという規範をたて、それにあてはめ、強制捜査に該当しないという判断を経た上で、任意捜査の限界を検討してください。手をつかんだぐらいで逮捕には当たらないと直感的には思うと思いますが、理論の筋としては検討が必要です(強制捜査に当たるならば、無令状でやっている以上、必要性緊急性があろうが、どうやって違法であるため検討する必要がなくなる。)。確か『刑事訴訟法の争点』で井上正仁先生が論文を書いていたと思うので、読んでください。】
２(1) �”�要性・��緊急性
ア 甲は、Ｖが供述した犯人の外形的特徴を備えている。すなわち、甲は、背が170センチ、中肉中背であり、上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用している男性であり、Ｖの【どのような？】供述と一致しており、犯人と推認できる。【この程度では推認できないと思います。このような外見を持っている人はいくらでもいるでしょうし、ジャージも珍しくありません。｢符合する｣｢一致する｣ぐらいでしょう。】
イ また、犯人が犯行に使った車は色合いの点、ナンバープレートの下4桁が同じ点、逃走方向と矛盾しない南西に駐車している点でＶの供述と一致している。ナンバープレートの下4桁が合う確率立は万に一つであり、【ツートンカラーが珍しいことも言っていいかもしれません。】色合いや駐車している位置関係がＶの供述【Vは駐車している位置関係については直接は言及していません。逃げた方向です。】と一致していることからすれば、甲の車は犯行に使った車であると合理的疑いの余地を挟まずにいえる【この言い方はたぶんまずいです。単独でそこまでの推認力はありません。高々、万に一つです。合理的疑いの余地を挟まないと言うのであれば、ＤＮＡ鑑定の程度の制度が必要かと思われます。】。そのため、それに乗車していた甲も犯人であるとの疑いが生じる。
ウ しかも、甲のボストンバッグは茶色である点でＶの供述した【犯人が所持していた？】バッグと外形的に一致する。また、バッグの外側から触ると札束状の物が多数入っているようにＹが感じたことからも、【犯人が札束をまだ持っていると経験則上推測されることを付け加ることによって、甲＝犯人との推認力があることを表現できます。】甲の嫌疑は濃厚である。
エ さらに、バッグのことをＸから聞かれると甲はとたんに落ち着きをなくしそわそわしだした点や、バッグの中身を見せるように要求すると怒ったような口調になった点、それから同行を求めると顔が紅潮した点を合わせ考えると、甲が犯人の蓋然性は極めて高い。【同行を求めると顔が紅潮するとなぜ犯人なのですか？ 焦っているからか、怒っているからか、何でもいいのでなぜそれが犯人であると思える事実なのか評価してください。例えば、いきなり路上で急いでいるサラリーマンに同行を求めたら、怒って顔が紅潮するかもしれませんよ。】
オ そうすると、甲を逃す訳には行かないので、手をつかんで逃走させない�”�要性が認められる。また、甲はＸとＹの間をすり抜けようとしたのだから、それを止める��緊急性もあったといえる。【裁判例の緊急性についての箇所を見て、どのような事実をあてはめに使うか、相場を見てください。例えば車に乗っていたという点はどうですか？】
(2) �Ａ蠹�性
本件被疑事実は、強盗致傷罪（刑法240条前段）であり、法定刑に死刑及び無期懲役が用意されていない程の重大犯罪である。【白昼堂々の銀行強盗であり悪質であること、被害額が大きいこと、刃物を使った凶悪犯罪であること、実際に刃物で刺したなど危険きわまりない犯行であることにも言及があると良いと思います。殴って擦り傷を負わせて１０００円奪うのも強盗致傷ですので、罪名よりもむしろ罪質が大事です。】そのため、犯人をいち早く発見して「事案の真相」(法1条)を究明する公益上の要請は強かった。
それに対し、甲が被った不利益はＸＹらから1時間弱、同行を説得され【今は手をつかんだことを評価しようとしているのではないですか？ それ以前に同行を説得されたこともコミコミにするという規範が立っていますか？】、逃走しようとしたら手をつかまれたという程度【どのように手をつかんだかという程度が重要です。握りしめたのか、手錠をかけたのか、軽く握ったのか、どうなのですか。それによっては逮捕になるでしょう。】のものである。
このように、甲から話を聞く公益上の要請に比し、甲の被った不利益は低く、Ｘのした甲の腕をつかむ行為は�Ａ蠹�性を有する。
３ 以上より、本件行為は任意捜査の範囲を超えないので、Ｘが甲の腕をつかんだ行為は、適法といえる
【使うのかどうか分かりませんが、そのあと問題文の事実では公務執行妨害の被疑事実で取り調べを受け、別件の強盗致傷を話していることが出てきます。このやり方が適法かどうか、一応評価してください。問題文としては、ここまでが聞かれている内容ですので。】
第３ Ｙが甲を逮捕した行為
以上のように、Ｘは適法に甲の腕をつかんでおり、それから免れるために甲がＸにした殴打行為は正当防衛（刑法36条1項）にはあたらず、公務執行妨害罪（同法95条）を構成する。
そうすると、甲は「現に罪を行」った者（刑訴法212条）にあたるので、Ｙは適法に現行犯逮捕したものといえる。
よって、Ｙの逮捕は適法である。
第４ 捜索・差押行為
Ｙが適法に甲を逮捕しているので、逮捕に伴う捜索・差押（法220条1項2号）として、適法な捜査をしたといえるか。逮捕に伴う差押の範囲が特に問題となる。
１ 法が逮捕に伴う捜索差押(法220条1項柱書)を許した趣旨は、証拠存在の蓋然性の高い所での捜索差押を認めつつ逮捕者の安全及び円滑な捜査を実現する点にある。【要らないかもしれませんが、一応説が二つあると思うので、比較検討してどちらかの説を採ることにしてください。基本は判例ベースで良いです。】
２(1) そうすると、甲を逮捕した現場である車付近及び車内を捜索することは、逮捕に伴う捜索として許される。【ここも、本当は微妙です。警官をぶんなぐるのに、車内にどういう証拠がある蓋然性があるかというと、問題です。結局、蓋然性説の蓋然性は抽象的なレベルでいいということを理解しておいてください。】
(2) しかし、捜索の結果、現行犯逮捕した公務執行妨害罪とは関係のない物を発見したとしても、差押えることは許されない。【なぜ？ その理由に配点がありそうです。これだけだと、単に私見を述べているだけにしか見えません。学説の裏付けがあるならそれを調べて引用してください。それがないなら、きちんと自分なりに趣旨から理由付けをしてください。】
具体的には、刺身包丁については、追撃を防ぎ逮捕者の安全を図るため、差押をすることは許される。
しかし、その他の札束・携帯電話・メモ・目出し帽・軍手は公務執行妨害罪とは何ら関係がないので、差押をすることは出来ない。
３ そうすると、刺身包丁以外の物を差押えた点で、本件捜査は違法である。
[設問２]
甲の書いた本件メモを乙に対する強盗致傷被告事件において、甲乙間の共謀の存在を立証するために、用いることが出来るか。他人の記した文書であるので、【本人が書いても伝聞ではありませんか？】�‥訴江攀�(320条1項)にあたり、証拠能力を否定されないか、また��違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠として証拠能力を否定されないか問題となる。【本件で直接使うかどうかは分かりませんが、メモはブツである（立証趣旨：メモの存在自体）という考えもありうるので、その視点でもう一度検討してもらえませんか。今回の論述で使えていない事実がたくさんあります。例えばメモが乙の家で作成されていることはどうですか。それから、要証事実ももう少し細かく分けてください。｢共謀｣というのは事実ではなくむしろ評価であり、共謀を基礎づける各事実があるわけです。下記で検討されている分け前の他、集合場所、犯行の方法、動機など。いずれも問題文に書いてある事実なので、できるだけ使うようにしてください。】
以下、各別に検討していく。
第１ �‥訴江攀魍催�性
１ この点、本件メモは公判期日外における供述に代わる書面であり、伝聞証拠（法320条1項前段）にあたり証拠能力を否定されないだろうか。
２ 法が伝聞証拠の証拠能力を否定した趣旨は、人の知覚・記憶・叙述・表現の各過程に誤りが混入しかねず誤判を招きかねないという点にある。
この趣旨からすれば、要証事実に上記各過程の誤りが混入しない場合にまで、伝聞証拠として証拠能力を否定すべきではない。
そこで、要証事実との関係で証拠が伝聞にあたるか非伝聞にあたるかを判断すべきである。
３(1) 本件では、メモを通じて甲乙間に強盗致傷罪の共謀があったことを立証しようとしている。同罪の共謀を立証するためには、甲乙間で本罪の共同実行の意思を形成するに至った事実を証明しなければならない。
この点、本件メモは、甲の筆跡で「取った金は半分ずつ分ける」と記載されており、分け前は甲乙間の共謀の存在を立証する上で重要な間接事実証拠となる。そして、本件メモには甲の精神状態【精神状態を書いたものはどうだ、という規範は先に来ていると良いと思います。】が甲により記載されており、知覚・記憶・叙述・表現の段階で誤りが入り込むとは考えにくい。
【何か書きぶりに違和感があります。このメモは乙の発言をそのまま記録したものなのですよね？ 甲の精神状態であると共に、乙の供述録取でもあるわけです。伝聞の部分と非伝聞の部分が混在していそうです。】
【｢乙、車の中で待ってる｣はどう使いますか？】
(2) そうすると、人の精神状況を記載したに過ぎない本件メモは伝聞証拠と言えず、伝聞例外(321条以下)の要件を充たさずとも証拠能力は否定されない。もっとも、本件メモの成立の真正が証明されなければ、甲の精神状態が書面に現れているとは言えないが【確認ですが、それは通説ですか。成立の神聖を照明するというのは聞いたことがなかったもので。真摯に作成されたものという表現は聞いたことはあります。】、本件では筆跡鑑定により甲の筆跡と認められているので、証拠能力は否定されない。【甲が書いたのでなければ、そもそも関連性がないでしょう(関連性も証拠能力ではありますが)。これは、前提です。】
４ 以上より、本件書面は伝聞証拠にはあたらず、証拠能力は否定されない。
【メモの処理は言葉がこなれていない感じがあります。ケースブックのメモの裁判例がいくつもありますので、熟読してください。全体として、｢メモなら全てOK｣と読める気がします。立証趣旨との関係で考えるならば、もっと詳細な文責が必要です。メモを使うというので一段ハードルが高く、さらに共謀の立証に使うというのでハードルが高いのです。ケースブックの裁判例の共謀メモの箇所はケースブックの中でも最大難易度のところですが、それゆえ理解することの意味は大きく、また実力差が出るところであり、今後も狙われるところであるということです。】
第２ ��違法収集証拠該当性
１ 本件では、違法な差押によりメモが入手されており、違法収集証拠としてメモの証拠能力が排除されないだろうか。
２ 適性手続(憲法31条、刑訴法1条)の観点からすれば、違法捜査に基づき収集された物を証拠とすることは許されないとも思える。
しかし、人証と異なり、物証は違法に収集されたからといって、証拠価値が減殺されるものではなく、証拠能力を否定すると、かえって「事案の真相」の究明(1条)を困難にしてしまう。
そこで、【その調和点として、など、中間の論拠付けが必要でしょう。Aはだめ。Bはだめ。だからC、では理由付けが飛躍しています。AとBの折衷として取り得るのがCなのでC、などの話の流れです。】違法に収集した物の証拠能力を否定する場合とは、a令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、且つb将来の違法捜査抑制の見地から見て証拠能力を否定すべき場合を指すと解する。
３(1) 本件メモは、公務執行妨害罪とは関係がなく、また逮捕者の安全を図るために差押をする必要はなかったので令状主義(法218条参照)を定めた法の精神に反するとも思える。
しかし、Ｙは甲を現行犯逮捕した後、適法に捜索をし、札束や犯行に供したと思われる刺身包丁や軍手などを発見している。そのため、甲は「贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持して」いるといえ、Ｙは甲を準現行犯として(211条2項2号)逮捕を出来、それに伴いメモも差押を出来る状況(220条1項2号)にあった。【準現行犯は直感的には無理だと思います。強盗の現場から追いかけてきたわけではありませんから。札束や刺身包丁があっても、別の強盗の証拠かもしれませんよ。札束があれば贓物というのもいいすぎです。軍手も客観的には単なる軍手です。犯罪と結びつきません。その上で今回の強盗の準現行犯といえますか。準現行犯の解釈と裁判例の相場を確認してください。ただ、嫌疑の大きさから見て緊急逮捕はできるような気がします。包丁については、真新しい血がついているというところが、ポイントです。】
そうすると、Ｙのした無令状の差押は手続を誤ったものに過ぎず、【実体としては令状を請求すれば令状が確実に出ていた状況であったので、格段に人権侵害が広がったわけではないのでＯＫということでしょうか。中間の理由付けを入れないと、話が飛びます。なぜ手続を誤っただけなら令状主義の精神を没却しないのですか？ 結論だけ覚えているように感じます。自分の言葉できちんと説明できるようにしてください。】a令状主義の精神を没却するほどの違法性があったとはいえない。
(2) また、このように捜査手続を誤ったに過ぎないので、b将来捜査の違法抑制の見地からしても、証拠能力を排除する程のものではない。【話がつながりません。手続を誤ることを捜査機関に繰り返されたらたまりませんので、一罰百戒のために排除する必要があるとも思えるからです。手続きを誤ったに過ぎないものを排除しても、なぜ、違法抑制に繋がらないのですか。一般的にそうなのか、それとも今回は排除しても意味がないのか。そこに配点があります。】
４ よって、本件メモは違法収集証拠として証拠能力を否定すべきではない。
第３ 以上より、本件メモを甲乙間の共謀を立証するための証拠として利用することが出来る。
以上
【総評：裁判例の読み込みによる相場観の理解、それを踏まえて事実を評価して使い切ることが不足していると考えられます。ナマの事実を引用することに意味はなく、それがどのように評価されるのかが重要です。また判例の規範だけ覚えても中間の理由付けがなければ、読み手としては全く心に響きません。自分の言葉で良いので、必ず中間の理由付けをかみ砕いて説明できるようにしてください。訓練としては、問題文にある事実は全て使用し、その上で関係ないと考えられるのであれば関係ないと評価して言及するぐらいの気持ちが良いと思います。使い方がよく分からない事実を放置する姿勢はいけません。これでも問題文は短いほうで、使わない事実がわざわざ書いてあると思う方が不自然です。なお刑法も同様です。使わない事実は基本的に存在せず、使わないならはっきりと使わないと評価できるレベルまで考える必要があります。気になった事実だけピックアップするのはだめです。使い方が分からないものから逃げてはいけません。】
【次回課題：上記を踏まえて、時間無制限で条文、判例、文献を調べて理解し、ケースブックの該当箇所を読んだ上で、1時間半で答案構成してください。そして、違いが分かるように、その成果は↓この下から書き始めてください。それから、長さをセーブする必要はないです。必要なだけ書いてください。削る練習はまたあとでやります。】
こんなかんじです。
長くなったので一度切ります。