No.48 Feb. 2001
Wines of Chile  
 


チリワイン産地レポート
チリの見果てぬ夢

(5/5)

   
 
葡萄品種をめぐって

 かつて、マイケル・フィッツジェラルドなる人物が、日本の専門紙上で、チリワインには品種固有のヴァラエタル・フレーヴァー、ヴァラエタル・テイストが希薄で、特に低価格のカベルネ・ソーヴィニヨンなどは、カリフォルニアでいうところのジェネリックワインのようだ、という趣旨の主張をしていた。それも宜なるかな。チリの古い畑は、基本的には19世紀半ばのボルドーをそのまま踏襲してきたからだ。つまりは複数の品種が一枚の畑に混植されるヴィンヤード・ブレンドである。
 グラシアの醸造家、アントワーヌ・トゥ一ブランク氏は言う。「ワイナリーが所有する畑は、このところ管理が行き届いて数段よくなっているが、昔ながらの畑で葡萄を育て大手ワイナリーに葡萄を売っている栽培者の場合は、往々にして昔のままのことが多く、畑の品種構成の詳細がわかっていない。大規模ワイナリーは、一般に自社畑の葡萄でプレミアムワインを造り、購入葡萄で低価格品を造る。残念ながら購入葡萄の細部まで目が行き届いていないこともあり、カベルネといいながら複数の品種がブレンドされているというリスクを避けることができない」という。ただ、最近は大手ワイナリーも契約栽培畑に自社のアクロノミスト(栽培技術者)を派遣して、共同で畑の改良にとりかかり始めた。栽培者の中にも、昔と違っていまは葡萄をきちんと作りさえすれば、それなりの価格で買ってもらえることを知っている人が多くなっている。

〈ソーヴィニヨンナス〉
 近年までチリのソーヴィニヨン・ブランは、ソーヴィニヨンナスを含むものが多かったので、ラベルには「ソーヴィニヨン」とだけ表示されることが多かった。その原因は19世紀半ばにボルドーから苗木が輸入された時に遡る。そのときから、ソーヴィニヨン・ブランとセミヨンにソーヴィニヨンナスが混ざって植えられてきたという。以来、100数十年を経るなかで、突然変異種が生じていっそう複雑になってしまった。しかし1990年代になって多くの畑ではソーヴィニヨンナスを切り、その根にソーヴィニヨン・ブランを接ぐと同時に、セミヨンを別の区画に分けることで、純粋なソーヴィニヨン・ブランを作りだしている。
 90年代初めのチリ産ソーヴィニヨン・ブランは、トロピカルフルーツの香りがするものが多かったが、涼しい畑で育てる生産者が増えてきて、グレープフルーツ系の香りや野菜っぽい香りのするソーヴィニヨン・ブランが主流になりつつある。酸味もしっかりしていて日本の食事に合うタイプになっている。

〈メルローとカルメネール〉
 あまリ耳慣れない品種、カルメネールだが、日本にも少しずつ輸入され始めている。今のところチリで栽培されているだけで、カリフォルニアのジンファンデルのように、チリの特産品になっている。
 カルメネールはボルドー品種で、19世紀半ばにボルドーからカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フランなどいわゆるホルドー品種と一緒に持ち込まれた。受粉の時期に低温になるとすぐに花震いをおこしてしまうこと、熟期がとても遅いなどの理由で、本家ボルドーではすでに絶えてしまった品種である、ところが天候の良いチリではずっと生き続けた。ただチリではそれを長らくメルローだと考えていた。1990年代に入ってきちんと分析してみると、メルローだと思っていたうちのほぼ半分はカルメネールだった。
 そこでここ数年、メルローとカルメネールを別々に摘み、別々に仕込むワイナリーが増えてきた。メルローは熟すのが早く、カルメネールは晩熟でメルローより収穫期が3週間ほど遅いので摘み分けは簡単なのだという。しかし、まだ一枚の畑の中にカルメネールとメルローの二品種が人り組んで栽培されているケースがおおいようだ。
 二つの品種を見分けるには、葉の形状と色、ストロン(まきひげ)の色、熟期の3点がある。メルローは、葉が開いていて濃い緑色、まきひげは白っぽく、熟期が早いのに対して、カルメネールは葉の先がクロスしていて薄い緑色。まきひげは赤茶色で、熟期は遅い、畑で素人目にもすぐ判別できる。こんなに見かけの異なる葡萄が混在しているのを、それまでどうして気づかなかったのかが不思議なくらいだ。
 完熟しないカルメネールはピーマンのような青臭さをもっている。これまでチリのメルローがピーマンのヒントを持っていたのは、完熟しないカルメネールを使っていたからだ。カルメネールはきちんと熟すとピーマンのヒントが消えて、スパイシーな香りと滑らかなタンニンのワインになる。
 2000年8月にカリテッラからサン・ペドロに移籍した女性醸造家イレーネ・パイバ氏は、「私はカルメネールを含んだブレンド・スタイルのワインが好きだ。カルメネールはソフトなタンニンで、ブレンド素材としてはとても素晴らしい。これまではカルメネールを早く摘みすぎた。夏場にリーフ・リムーヴァル(除葉)などの作業を行い、葡萄果に陽光を当てるなどの栽培上の改良を加え、完熟してから摘むと、スパイシーな味わいが引き立ってくる」と絶賛している。

 

◆チリワイン
チリの見果てぬ夢
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1998年がピークだった
葡萄品種をめぐって

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5/5 表紙
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