No.48 Feb. 2001
Wines of Chile  
 


チリワイン産地レポート
チリの見果てぬ夢

(4/5)

   
 
1998年がピークだった

 7年ほど前に『カルメン』を店頭価格480円で販売していた内藤邦夫さん(カーヴ・ド・リラックス)は断言する。「チリワインの中には、生産量が増えた段階で、明らかに品質の低下を来たし、熟成を待たずに市場に出してしまったツケが生じているものがあると思います。初めて『カルメン』を飲んだ時には、その値段と味わいとの関係に感動しました。しかしいま、間違いなく昔の感動はなくなっています。ちょっと違うんじゃないのという思いがするのは、大量生産で粗悪品になったのか、我々の舌が慣れたのかは定かではありませんが」。
 本当はワイン産業全体にもう少し忍耐が必要とされていたのではなかったか。品質に先んじて収穫量を重視するという判断は、やや時期尚早だったように思える。確かにその後の輸出数量の上昇と、葡萄価格の高騰を見る限りでは、不都合なことなど何もないように見えたのだが。
 しかし、1985年当初に描いた手ごろな価格で個性的なファインワインを提供するというチリワインの夢は、まだ実現されていない。それどころか、長い間の付けが少しずつ顕在化して、チリワインに“二流品"の印象を持つ人が多いのは残念なことだ。
 右肩上がりを続けた輸出市場の開拓は、多分、1998年をターニングポイントにして、違ったカーヴを描き出した。活況を呈したチリ経済も、98年12月にとうとう1%ながらマイナス成長に転じた。「サンバ・ショック(ブラジルの通貨危機)」やアジアヘの鉱産物輸出不振がボディ・ブローのようにジワジワ効いている。ワインの輸出力ーヴ同様、これまで右肩上がりでやってきたチリ経済が、極めて難しい局面にさしかかっている。1998年は輸出市場も国内販売もベスト・イヤーだった。日本市場で爆発的な売行きを見せ、国内市場向けのワインも従来のリサイクルボトルから1l、1.5lの紙パックに切り替えてコストを削減した。すでに国内市場の85%は紙パックワインが占めるようになっている。
 1998年はエル・ニ一ニョ現象の影響で、冬に大量の雨が降り、おかげで葡萄の収量は多かった。ところが1999年産は、一転して20%とも30%ともいわれる大幅な収穫量の減少になってしまった。歴史的とも言える旱魃のせいである。ペルー沖の海水温が上がり、それに起因して各地が豪雨に見舞われる現象を“エル・ニ一ニョ"というが、逆に海水温が下がって旱魃を引き起こす現象を“ラ・ニ一ニャ"という、1999年の収穫は、そのラ・ニ一ニャに翻弄された。
 「2000年になって、葡萄価格は下落しはじめた。現段階ですでに生産過剰の傾向が出ていると思う。1993年のワイン用葡萄栽培面積は5万4000haだった。それが2000年には9万9000haになった。そして今なお、新植が続いている。チリワイン産業は2〜3年後には間違いなく深刻なオーバー・プロダクションに陥る」と、ミゲル・トーレスのエノロゴ、クリスチャン・ロハス氏が警鐘を鳴らす。
 

◆チリワイン
チリの見果てぬ夢
葡萄が丘を上っている
フランス流と受難の時代
再び生産過剰の恐れ
1998年がピークだった
葡萄品種をめぐって

◆セミナー
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◆世界の動き
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4/5 表紙
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