イラク情勢もアフガニスタン戦争も思うにまかせず、北朝鮮とイランの核問題は深まるばかり。中東和平はこう着したまま各地でテロが続き、息苦しい世界に米国発の金融危機が追い打ちをかける--。
オバマ次期大統領ならずとも「米国のリーダーシップの新たな夜明け」を望みたくなるだろう。外交・安全保障チームを発表したオバマ氏は、大統領候補指名を争ったヒラリー・クリントン上院議員を次期国務長官に指名した。いわばチームの柱だ。
尊敬するリンカーン第16代大統領にならった政敵起用術といわれ、ブッシュ現政権のゲーツ国防長官留任も含めて、党派や個人的関係にこだわらぬ実力本位の人選とみられている。米国の外交・安保の顔となるクリントン氏とゲーツ氏の活躍に期待したい。
もちろん、政敵を閣内に取り込んだ「チーム・オブ・ライバルズ」には問題もある。大物のクリントン氏と大統領の確執が生じ双頭政治にならないか、ホワイトハウスと国務省の意見対立で米外交がぎくしゃくしないか。そんな声が上がるのも、もっともだ。
だが、こうした人事は米国政治では特に珍しくない。オバマ氏とクリントン氏が協調しつつ米外交を刷新すると信じたい。米国を孤立に追いやった単独行動主義やネオコン(新保守主義派)の激越な論理と決別し、米国の国際信用を回復するのが急務である。
クリントン氏の起用発表にあたりオバマ氏は重要課題として、イランや北朝鮮への核兵器拡散防止、イスラエルとパレスチナの永続的和平の追求、国際機関の強化などを挙げた。北朝鮮核問題を重視する姿勢は歓迎できる。北朝鮮の核・ミサイルや拉致の脅威にさらされる同盟国・日本の実情を理解してほしい。
国際テロの根源ともいわれながら、ほとんど顧みられないパレスチナ問題に配慮した点も評価したい。クリントン氏は大統領夫人時代、パレスチナ独立を支持する発言をしたが、上院議員出馬を境にイスラエル寄りの姿勢を強め、イランにも厳しい態度を打ち出すようになった。
こと中東問題では両者の意見は異なるが、ブッシュ政権のような「イスラエル一辺倒」の姿勢は反米感情を増幅し、イスラエルにも累が及びかねない。中東和平を「鬼門」とせず、テロ抑止の幅広い観点から賢明に対応すべきである。
オバマ氏がイラクやアフガン情勢の打開に意欲を持っているのは、国家安全保障問題担当大統領補佐官にジョーンズ元北大西洋条約機構(NATO)最高司令官を起用したことでもうかがえる。「テロとの戦争」を始めたアフガンで、その「戦争」終結をめざす考え方だが、米軍増派で今以上の泥沼に踏み込まぬよう軍事作戦の限界も認識すべきだ。
毎日新聞 2008年12月3日 東京朝刊