2008年11月27日 18時39分
「命を削る審査」が進んでいる−元支払基金職員が講演
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「日本の医療を守る市民の会」は11月18日、東京都中野区で第8回の勉強会を開き、元大阪府社会保険診療報酬支払基金の職員でフリーライターの橋本巌さんが、「私たちの医療が削られている!〜隠れた医療費抑制策・診療報酬審査の実態〜」をテーマに講演した。
橋本さんは、支払基金では医療保険制度を円滑に運営し、医師が必要な治療を行う上での裁量権を保障する審査も行っているが、審査が行き過ぎると医療費を抑制する「陰の部分」もあると指摘した。
支払基金の審査委員会は「学識経験者(支払基金が選任)」「診療担当者代表(都道府県の医師会など医療団体が推薦)」「保険者代表(保険者が推薦)」の3者で構成されており、減点査定をする権限を持っている。
審査委員は全国に約4500人いるが、毎年全国で約8億もの膨大なレセプトを審査しているため、「重点審査方式」で審査している。医療機関を、特に問題のある「特A」から、ほとんど問題のない「D」まで5段階に分け、優先順位を付けて審査するという。
審査委員は開業医や勤務医と兼務する者が多く、レセプトの下調べは実質的に職員がすべて行っているという。職員が内容に疑問を持った場合、付せんを付けて審査委員会に提出し、判断を仰いでいるという。
審査委員会には、疑義や問題があれば、そのレセプトを出した医療機関を呼び出す権限がある。実際は、任意の呼び出しや指導で対応しているが、指導の内容によっては医療機関に委縮診療をもたらす側面もあるという。
審査は、健康保険法など法律や診療報酬、薬価の点数表、審査委員の臨床経験に基づいて行われ、「あくまでも請求が過剰でないかをチェックするだけ。不正の摘発は、『医療Gメン』と呼ばれる指導医療官が行う」と橋本さんは説明した。「最近では支払基金による一次審査が厳しくなり、保険者に渡ってからの減点は減っている。年間348億円(2007年度)が減額されており、国保も含めれば、額はほぼ倍になる」という。
■「レセプトは宝の山」と言った保険者
レセプトの点検も、規制緩和により民間への開放が進んでいるという。「削り屋」と呼ばれる民間の点検会社は、保険者からの依頼で再審査に出すレセプトを発見し、減点となれば成功報酬をもらう。1枚当たりの点検料は外来30−50円、入院100円が相場だという。橋本さんは「再審査で減額になれば、数十パーセントの成功報酬が追加される仕組みで、『削り屋』の存在意義は減点のみにある」と指摘する。
橋本さんは「ある保険者は、『レセプトは宝の山だ』と言った。掘れば掘るほど取り戻せるそうだ。被保険者の健康より金を取り戻せるかに目が向いている。命を削る審査ではないか」と訴えた。
調剤レセプトでは、保険者による直接審査が進んでおり、「適正な審査が行えない保険者や保険組合は実際、疑義のあるレセプトについて支払基金の意見を求めてくる。審査費はそれほど掛からず、減点もできる。保険者はいいとこ取りだ」という。
「今後、各保険者が直接審査をするようになると、審査基準がばらばらになるのではないか」と橋本さんは懸念する。「あそこで通って、あそこで通らないということが起こる。これまで支払基金が一括処理していた再審査処理もややこしくなり、各保険者と直接交渉するしかなくなる」という。橋本さんは「保険者は医療費削減のために直接審査をやっている。困るのは医療機関であり、患者だ」と訴える。
レセプトのオンライン請求が13年4月には完全に義務化されるが、導入コストが「診療所なら40万−50万円になる。初診3点の電子化加算で取り戻せるわけがない。電子化を嫌う年配の開業医を引退に追い込むのでは」と橋本さんは言う。また、オンライン化することで、「コンピューターを通せば、審査の画一化が進むはず。減点も増えるのではないか」と述べた。
橋本さんは医師に対して、「減点されたら放置しないで、再審査請求をしっかりしてほしい。それが審査の改善にもつながり、患者が保険で良い医療を受けられる『受療権』を擁護することにつながる」と訴えた。
質疑応答では、会場にいた医師から「再審査請求は気力がわかない。基金からのフィードバックもほとんどなく、無力さを感じてしまう」という声が出た。
橋本さんは「再審査は面談をしてほしい。書面では3割しか復活しない。自ら出向いて、なぜこの診療でこの薬では駄目なのか聞いてみてもいい。昔はにらまれたかもしれないが、状況は変わりつつある」とした。
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審査委員は全国に約4500人いるが、毎年全国で約8億もの膨大なレセプトを審査しているため、「重点審査方式」で審査している。医療機関を、特に問題のある「特A」から、ほとんど問題のない「D」まで5段階に分け、優先順位を付けて審査するという。
審査委員は開業医や勤務医と兼務する者が多く、レセプトの下調べは実質的に職員がすべて行っているという。職員が内容に疑問を持った場合、付せんを付けて審査委員会に提出し、判断を仰いでいるという。
審査委員会には、疑義や問題があれば、そのレセプトを出した医療機関を呼び出す権限がある。実際は、任意の呼び出しや指導で対応しているが、指導の内容によっては医療機関に委縮診療をもたらす側面もあるという。
審査は、健康保険法など法律や診療報酬、薬価の点数表、審査委員の臨床経験に基づいて行われ、「あくまでも請求が過剰でないかをチェックするだけ。不正の摘発は、『医療Gメン』と呼ばれる指導医療官が行う」と橋本さんは説明した。「最近では支払基金による一次審査が厳しくなり、保険者に渡ってからの減点は減っている。年間348億円(2007年度)が減額されており、国保も含めれば、額はほぼ倍になる」という。
■「レセプトは宝の山」と言った保険者
レセプトの点検も、規制緩和により民間への開放が進んでいるという。「削り屋」と呼ばれる民間の点検会社は、保険者からの依頼で再審査に出すレセプトを発見し、減点となれば成功報酬をもらう。1枚当たりの点検料は外来30−50円、入院100円が相場だという。橋本さんは「再審査で減額になれば、数十パーセントの成功報酬が追加される仕組みで、『削り屋』の存在意義は減点のみにある」と指摘する。
橋本さんは「ある保険者は、『レセプトは宝の山だ』と言った。掘れば掘るほど取り戻せるそうだ。被保険者の健康より金を取り戻せるかに目が向いている。命を削る審査ではないか」と訴えた。
調剤レセプトでは、保険者による直接審査が進んでおり、「適正な審査が行えない保険者や保険組合は実際、疑義のあるレセプトについて支払基金の意見を求めてくる。審査費はそれほど掛からず、減点もできる。保険者はいいとこ取りだ」という。
「今後、各保険者が直接審査をするようになると、審査基準がばらばらになるのではないか」と橋本さんは懸念する。「あそこで通って、あそこで通らないということが起こる。これまで支払基金が一括処理していた再審査処理もややこしくなり、各保険者と直接交渉するしかなくなる」という。橋本さんは「保険者は医療費削減のために直接審査をやっている。困るのは医療機関であり、患者だ」と訴える。
レセプトのオンライン請求が13年4月には完全に義務化されるが、導入コストが「診療所なら40万−50万円になる。初診3点の電子化加算で取り戻せるわけがない。電子化を嫌う年配の開業医を引退に追い込むのでは」と橋本さんは言う。また、オンライン化することで、「コンピューターを通せば、審査の画一化が進むはず。減点も増えるのではないか」と述べた。
橋本さんは医師に対して、「減点されたら放置しないで、再審査請求をしっかりしてほしい。それが審査の改善にもつながり、患者が保険で良い医療を受けられる『受療権』を擁護することにつながる」と訴えた。
質疑応答では、会場にいた医師から「再審査請求は気力がわかない。基金からのフィードバックもほとんどなく、無力さを感じてしまう」という声が出た。
橋本さんは「再審査は面談をしてほしい。書面では3割しか復活しない。自ら出向いて、なぜこの診療でこの薬では駄目なのか聞いてみてもいい。昔はにらまれたかもしれないが、状況は変わりつつある」とした。
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