タイで続く政治混乱に出口が見えない。反政府市民団体「民主市民連合」がバンコク国際空港を占拠して一週間。今度は、政府支持派が都心で大規模な抗議集会を始めた。市内で爆発事件が起き、けが人も出ている。
空港閉鎖で帰国できない外国人観光客は一時、日本人を含め約十万人に上った。観光産業が主力の「ほほ笑みの国」。あおりで、関連業界の失業者が約百万人に及ぶとの見方も出ている。事態打開の道はないのだろうか。
タクシン元首相の息のかかった政権は認めない―。これが空港占拠を続ける勢力の言い分らしい。
元首相は、低額医療制度などで農村部で人気を集める半面、国王の苦言も無視する強引さや身内への利益誘導には批判が強かった。二〇〇六年九月、離反した軍のクーデターで座を追われた。
選挙を経て、今年九月に就任したソムチャイ首相は元首相の義弟。政権の主要閣僚を元首相派が占めたことも、反政府派の反発に油を注いだ。
これまでは、国王が仲裁に入って一件落着―というのがタイ政変の常だった。選挙による議会制民主主義の体制がありながら、国民は敬愛する国王の判断を頼り、結果として軍の介入を招いてきた。
中立を保ってきた陸軍司令官が、首相に辞任と総選挙を求め、反政府派には空港からの撤収を迫ったのも、何らかの背景をうかがわせる。まだ明らかでない国王の胸三寸ということかもしれない。
ここにきて、経済界からも政権批判の声が強まっている。有力団体のタイ商業会議所が「政権に対応能力はない」と退陣を公然と要求。法人税の納税拒否も辞さない強硬派までいるという。
一方で、市民連合が政権打倒の「最後の闘い」とした十月の国会包囲集会の動員は約二万人どまり。二年前にタクシン元首相の退陣要求で約十万人が集まった時のような勢いはない。
双方に手詰まり感が漂う中、ソムチャイ首相はきのう、国王の出番に期待するといった思いを明らかにした。
憲法裁判所できょう、選挙違反事件に絡み、首相率いる国民の力党など与党三党の解党を求めた訴訟が結審する。タイ憲法では選挙違反で有罪が確定すれば、政党が解散を余儀なくされ、党幹部は公民権を奪われる。首相自らも五年間、政治活動を禁じられる可能性がある。そんな危機感も、首相の背中を押しているのではないか。
東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議のタイ開催が危ぶまれる。政情不安が長引けば進出企業も投資戦略を見直すだろう。国益を考え、政権側と市民連合は対話の道を探ってほしい。
それにしても、日本政府がメッセージを何も発していないのはどういうことなのだろう。国交樹立から百二十周年。タイ進出企業は千二百社を超え、日本人観光客は年間約百二十万人を数える。「親友」だからこそ、できることはあるはずだ。
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