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   〈特集〉年金解剖学  
【週刊朝日から】
「団塊世代」の年金・第2弾
年金資金6兆円、運用損の内幕

週刊朝日はこちら

●受託運用金融機関別実績一覧表(国内債券)
●受託運用金融機関別実績一覧表(国内株式)
●受託運用金融機関別実績一覧表(外国株式)
●運用機関別受託額と運用手数料

 われわれの大切な年金積立金が厚生労働省の天下り特殊法人で株に化け、6兆円もの損失を生んでいる。聞いただけでも「年金不信」が募るのだが、本誌では運用成績の資料をもとに各金融機関にアンケート調査を行い、あきれた内幕が浮かび上がった。

 「株価が下がって2割も3割も損をした」

 そんなことを聞いたら、しばらくは株に投資するのはやめておこうと考えるのが庶民の発想だが、この3年間、株で損を膨らまし続けているのが厚労省の特殊法人「年金資金運用基金」(近藤純五郎理事長)なのだ。なんと、その額は累計で6兆円にも達した。近藤理事長は厚労省の前次官である。

 にもかかわらず、

 「一定期間維持する方が、長期的に見て最も安定した収益を上げるために効率的であるとされています」(平成14年度「資金運用業務概況書」)

 などと、ひとごとのように説明するから“庶民の怒り”はのれんに腕押しなのだ。

 現在約150兆円ある厚生年金などの積立金は、国の財政融資資金への預託金や財投債での運用以外に、「年金資金運用基金」が約32兆円を市場で「自主運用」している。今年3月末現在で、国内株式市場だけでも約7兆円の年金資金が投入されている。

 厚生労働省は、今後、08年度までかけて年金積立金の全額を「年金資金運用基金」での運用に移していく計画なのだ。「自主運用」といっても、民間の金融機関が「受託」しているのが実態だ。

 その“成績表”がある。右の「受託運用金融機関別実績一覧表」(1〜3番目の図)を見てほしい。

 まずは、わかりやすい実績から見ていこう。

 たとえば、「国内株式」の「運用成績16位」のドイチェ信託銀行の実績は、3年間の運用成績が年率27.22%のマイナスだった。預かった資産を毎年3割近く減らしたということだ。

 これに対して、「1位」の大和住銀投信投資顧問の運用実績でも、「マイナス17.78%」。国内株式の運用がいかに難しかったかを物語る数字といえる。

 実は、表に示した順位は、必ずしも運用実績だけで決まっているわけではない。

 その指標になっているのが「インフォメーションレシオ」(I・R)という数字だ。

 少ないリスクで高い実績をあげると評価が高い。これがマイナスということは、市場実勢よりも低い運用収益しか残せなかったことを意味する。

 失敗してもいいから高い収益を狙えるのであれば、値下がりが大きくても「大化け」する可能性がある株を買えばいい。そうはいっても、年金積立金でそんな“バクチ”は打てないわけだ。

 過去3年のI・Rでランクづけをした。「国内株式」であれば、大和住銀投信投資顧問はI・Rが「0.91」と、2位の「0.36」を大きく引き離している。過去5年のI・Rでみても、大和住銀は1位だが、「3年」で2位のUBSグローバル・アセット・マネジメントは8位になるなど、順位が大きく入れ替わる。

 これは、過去3年は株価が急落したのに対し、それ以前の過去5年だとITバブルで株価が急回復した99年度も含むため、運用機関の運用姿勢の違いが反映されるからだ。

 それぞれの金融機関が評価を受け始めてからの実績も公表されている。期間がばらばらなので比較はしづらいが、国内株式の実績はいずれの運用機関もマイナスになっている。一方、I・Rはいずれもプラスなので、運用機関はそれなりに頑張っているのに、結局、赤字の運用しかできていないことがわかる。

 国内株式に比べて堅調なのが「国内債券」だ。国債や社債などの債券で運用しているもので、3年の実績でみると、年率5%近い運用をしたシティトラスト信託銀行がI・Rもトップで、I・Rが最も低かったドイチェ信託銀行も年3%を上回る実績を残した。

 3年のI・Rが11位の日興アセットマネジメントも運用実績は3.29%を確保した。

 「アナリストの増員などの運用強化策を講じ、運用実績は改善傾向にある」(日興)

 と回答した。

 過去5年も評価開始以来でも、いずれも運用結果はプラスになっている。

 外国株式も評価開始以来でみると、いずれの運用機関もプラスの運用だ。

 こうみると、「年金資金運用基金」の大赤字は、国内株で運用しなければ避けられていたことが改めてわかる。

 しかし、厚生労働省は、

 「債券運用だけでは近い将来に賃金や物価の上昇が起こった場合に必要な収益の確保が困難」

 などとして、あくまでも国内株式に投資していく姿勢を崩していない。

 この運用について、慶応大学の土居丈朗助教授は、こう指摘する。

 「年金積立金のうち、国の財政融資資金で運用している112兆円は、国債を買っているようなものです。02年度の運用実績でみると、国への預託金からの利子収入は3兆3000億円あるのに、『年金資金運用基金』は3兆円余りの損を出しました。国からの利子を厚労省の特殊法人が打ち消してしまった結果です。単純にいって、運用基金の資金が国にあればさらに1兆円程度の利子を生んでいたわけです。運用基金は無駄骨を折っているということです」

 無駄骨どころか、損失を出し続けているいまも、それぞれの運用金融機関には巨額の手数料が払われている。右の「運用機関別受託額と運用手数料」(4番目の図)の表をみてほしい。総計176億3700万円。「年金資金運用基金」は運用損を出している金融機関に巨額の手数料を支払っている。いったいこの特殊法人は必要なのかと思える。

 しかし、この組織はなくなるどころか、150兆円を運用する世界最大級の機関投資家になるというのだ。国への預託金が、08年度までかけて少しずつ基金のほうに移されるのが理由だ。

 ●日銀超える資産、世界最大級機関

 国の年金積立金には、さらに資金が集まっている。運用難に苦しんでいる企業年金の厚生年金基金が、国に代わって運用してきた従業員の年金積立金を国に返上する動きが広がっているためだ。

 日本総研の西沢和彦主任研究員は、こう言う。

 「日本銀行の総資産は140兆円余りです。『年金資金運用基金』は日銀を超える資産を持って、それを市場で運用することになります。ところがそのトップは厚労省出身の天下り官僚で、金融の専門家とはいえません。監査をする監事も天下り。年金積立金は政治家に株価維持に使われる危険がありますが、それを排除できる組織なのか疑問です」

 ある金融機関の担当者は、こう話す。

 「『年金資金運用基金』は一方的に運用指針を決めて、いろいろと指示を出してくる。われわれはとても任されて運用している立場とはいえません。そのあげくに結果が悪いと受託額を減らされたりする。本当は民間にある年金資金を運用したいのです。ところが、それがどんどん国に集まってしまっている。運用基金の立場は強くなるばかりです」

 年金資金が“一極集中”する「天下り法人」は、金融のプロにとって脅威になりつつある。

 再び上の「運用機関別受託額と運用手数料」の表の「対前年増減」の項を見てほしい。運用機関によっては受託額が大きく増えたり減ったりしている。もちろん、きちんと成績を評価して増減をするのは当然のことだが、運用基金は運用先の生殺与奪の権を握りかねない。

 別の受託機関では、こんな声も聞いた。

 「ひんぱんに呼び出されてあれこれ聞かれます。もちろん、われわれも最優先で飛んでいきます。用件も言われずに呼びつけられることもありますよ。おまけにお役所だからハンコがないと進まない。大変ですよ」

 積立金がすべて「年金資金運用基金」に移る08年度の前後は団塊世代が年金を受け取り始める時期と一致する。前出の西沢氏が心配する。

 「すでに年金財政は赤字になって、積立金の取り崩しは始まっています。いまは預託金から基金にお金が移っているから市場に流れ込むお金が増えていますが、08年度を過ぎると、年金給付のために取り崩す積立金は市場から引き揚げられます。株価の大きな下落要因になります」

 株価は、将来高くなることもあるだろう。そうなれば問題はなくなるのだろうか。

 「年金資金運用基金」の運営には、毎月払っている年金保険料から毎年550億円前後がつぎ込まれているのだ。

 その中心は住宅ローンの利子補給だ。「年金資金運用基金」は年金福祉事業団(年福)という組織を改組して01年に発足したが、積立金運用のほかに住宅ローンも引き継いでいる。そのローンの金利軽減策として年間380億円もの補助が行われているのだ。

 金利優遇を受けてローンを使っている人のために、国民の年金保険料がジャブジャブ使われているのだ。このローンの事務を取り扱う銀行にも02年度に107億円の手数料が支払われた。

 このほか、「年金資金運用基金」の事務費、人件費などで50億円以上もある。

 また、年福から引き継いだ大規模リゾート施設の「グリーンピア」は、1950億円で全国13カ所に整備されたが、05年度までに廃止される。現在、売却が進められているが、約80億円かけて整備された「グリーンピア二本松」(福島県)は、たった3億3000万円で地元の二本松市に売却されることが決まっている。

 ところが全体の整備費の借金返済は今後20年間続き、元利合計で797億円の年金保険料がつぎ込まれるのだ。

 最後に、天下り機関での年金積立金の運用は、年福が86年度に始めて通算17年の実績があるが、バブル景気の時期を含めて、これまで累積黒字になったことが3回しかない。

 厚生労働省は、事あるごとに長期の運用の利点を説くが、この実績で何を信頼しろというのだろう。私たちの年金積立金を無駄遣いする天下り機関は即刻廃止してほしい。(週刊朝日・松浦新)

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