元奨学生が筆者に示した2008年3月の給料明細書。1日に10時間労働、18日間の労働報酬の手取りは、たったの5万7360円。「責任証券」など、奇妙な控除も行なわれている。
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毎日新聞の販売店で働いていた新聞奨学生が、おそろしく安い賃金で重労働をさせられていた。午前3時に始まる1日10時間の労働で、手取り時給3百円台。この最低賃金法無視の手口は、集金できなかった新聞の購読料を「責任証券」という名目で給料から天引きしたり、購読の継続をとれない場合に500円ずつ天引きするなどの悪質なものだ。元奨学生が平成の「蟹工船」を告発する。
【Digest】
◇自分の力で大学進学を目指して
◇1日に10時間の実労
◇基本給の計算も我田引水
◇気まぐれに光熱費を控除
◇遅刻と「付着」も減給の対象
◇購読料の未集金分を奨学生が立て替え
◇減紙の責任も減給で
◇「取材に来られても答えようがない」
新聞産業が衰退するなか、格差社会の最底辺で働く層がしわ寄せを受けている。
5月に毎日新聞の元奨学生が、給料のピンハネなどをマイニュースジャパンに内部告発したが、今回、新たに別の元奨学生が不透明な給与の実態を明らかにした。前回と同様に毎日新聞の元奨学生である。
「給料の計算方法が無茶苦茶でした。購読料の未集金分を立て替え払いさせられるなど、さまざまな口実で、給料の支給合計額からどんどんお金を天引きされていました。その結果、手元にはほんの僅かな金しか残りませんでした。これが新聞社のやることでしょうか?」
佐々木(仮名)さんが証拠として筆者に提示した給料明細書は、2008年3月のものである。それによると給料の手取額は5万7360円。(佐々木さんは、3月25日ごろに後任者へ業務の引継ぎを行って、3月末に奨学生を辞めた。)
手取額の5万7360円を3月の労働日数として明記されている18日で割ると、1日の賃金はたった3186円にしかならない。給料の支給合計額にあたる8万7670円を、18日の労働日数で割っても、4870円。後に検証するように、1日に10時間の労働の果実がこれである。まさに平成の「蟹工船」だ。
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毎日新聞の多くの販売店は「押し紙」で経営を圧迫されている。そのしわ寄せを奨学生が受けている可能性もある。
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◇自分の力で大学進学を目指して
給料を巧みにごまかす手口に踏み込む前に、佐々木さんが新聞奨学生になった経緯と、担当していた業務、それに労働時間についてふれておこう。
2007年の春、佐々木さんは大学予備校の「毎日セミナー」へ通うために単身上京、奨学生として毎日新聞・販売店に住み込んだ。両親に経済的な負担をかけずに、大学進学を目指したのである。
毎日セミナーを選んだのは、この予備校が奨学生を対象としたカリキュラムを持っているからだ。大半の予備校はスパルタ式に、午前も午後も授業を組み込んでいるが、毎日セミナーは午後1時に最後の授業が終わるという。午後3時ごろから始まる夕刊配達に支障が出ないように、このような時間割を導入しているらしい。
佐々木さんが配属されたのは、東京都内のある販売店だった。この店がカバーする配達エリアは広範囲におよび、朝刊の配達で佐々木さんは、約20キロもバイクを走らせていた。それが連日続く。夕刊配達でも、走行距離は10キロを下らなかった。
その後、合理化の影響で配達範囲がさらに広くなり、佐々木さんの場合は、1日にバイクを運転する距離は50キロを超えるようになったという。佐々木さんは膨大な仕事と給与水準がまったく釣り合っていないことに腹を立て、契約が終了する今年の3月末で毎日新聞の奨学生を辞めた。その後、別の新聞社の奨学生になった。5ヶ月前を振り返って、佐々木さんが言う。
「もっと早く辞めたいと思いましたが、契約の途中で辞めると、授業料を返済しなければならないので、3月末まで耐えました。正直なところ、授業料など踏み倒してやりたい気持ちになりましたね」
奨学生制度により授業料を免除されているので、途中で奨学生を辞めるわけにはいかない。最低、1年間は続けなければならない。いわば佐々木さんは、奨学金で、新聞業界の「無法地帯」に縛り付けられてしまったのだ。
◇1日に10時間の実労
佐々木さんの1日は、夜明けまえ、午前3時の出勤で始まる.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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東京労働局が作成した「最低賃金一覧表」。
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佐々木さんの同僚の給料明細書。支給合計額は14万2500円だが、さまざまな名目の天引きで、手取りは8万5735円になっている。
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